13 生みの親の魔法使い
「......コーデリア。なぜこんな場所にいる?」
リヒトが問いかけると、彼女は肩をすくめる。
「あら、それはこっちのセリフなんだけどぉ? 私は、可愛い我が子が人間に利用されてるって聞いたから……助けに来ただけよぉ」
「......我が子?」
「そうよぉ」
そう言うと彼女は、愛おしげな瞳で繭に手を添えた。
「可愛いでしょぉ? 思い出すわぁ......この子を産むとき......すっごく、痛かったのよねぇ」
そう言って、唇をペロリと舐める。
「......いや、全く可愛くはないが......こんな化け物の生みの親って、お前何者だ?」
「......失礼しちゃうわねぇ」
ため息を一つつくと、彼女は口を開く。
「魔王軍幹部・『魔獣使い』コーデリアよぉ。私、『どんな生き物も産める魔法』が使えるのぉ」
「............たしかに、クセがつよいまほう............」
浴場での会話が脳裏によぎり、ルナは思わず声を漏らした。
***
「......ほう、あの魔王の幹部か」
リヒトの目が興味深そうに光る。『魔王』── 彼がこの世界・フィアレスをよく覗くようになったきっかけの存在。
「魔王様を知っているのぉ?」
コーデリアが片眉を上げる。
「まあな。魔王城に引きこもっていた覚えがあるが、もう外には出るようになったのか?」
彼女は首を振って答えた。
「まったくよぉ。ずっと引きこもってるんだから、心配よねぇ。まだ子供なんだから外で遊んでほしいわぁ」
そう言って頬に手を添えてため息をつく。相変わらず子供を心配するお姉さんらしい。
──そのときだった。
「お前が、お前がこのバケモンを作ったのか!」
ウィルの怒声が響き渡る。
少年の顔は涙と怒りでゆがんでいた。
「許さねえ!」
そう叫ぶと、彼は勢いのままコーデリアに向かって駆け出す。
だが、その突進を遮るように──
デュルッ……!
地面がうごめき、触手が数本、一斉に突き上がった。
それらが、コーデリアを守るように立ちはだかる。
「……久しぶりに起きてお腹減ってるみたいなのぉ……子供だし可哀想だけどぉ、エサになって頂戴ねぇ」
その言葉に呼応するように、触手の先端がウィルへと狙いを定めた。
***
「やめて!」
ルナの叫びを嘲笑うかのように、触手は一斉にウィルへ襲いかかる。
少年の体は、恐怖に縫いとめられ動かない。
「……チッ」
リヒトが腕を振り抜いた。
鈍い衝撃音。触手の先端がぶちぶちと千切れ飛び、赤黒い体液を撒き散らしながら床に転がった。
「……あら? 情の深いタイプには見えなかったんだけどぉ」
「たまたまだろ……腕を振ってみただけだ」
「ふふ……優しいのねぇ」
無理がありすぎる言い分を主張するツンデレ神様に、コーデリアの瞳が細められる。
だが、次の刹那には、地面を突き破ってさらに十数本の触手が這い出した。
鞭のようにしなるそれらが、今度はリヒトへ殺到する。
「……鬱陶しい」
リヒトは、拳を横なぎに振り抜いた。
破裂音とともに触手の群れがまとめて吹き飛び、肉片が壁や床に叩きつけられる。
その勢いのまま、リヒトはコーデリアへ一気に距離を詰め、腕を振り抜く。
だが──デュルッ……!
彼の拳は、突如立ち上がった分厚い肉壁に阻まれる。
次の瞬間、ぱあんッ!と破裂音が響き、壁に穴が開いた。
その向こう側。コーデリアがうっとりとした瞳で彼を見つめている。
「……強い男って素敵ねぇ。孕みたくなっちゃうわぁ……」
そう言って、コーデリアは恍惚とした表情で下腹部に手を添えた。
「神は子を作らん」
吐き捨てると同時に、リヒトが蹴りを繰り出す。
しかし再び分厚い肉が立ちはだかり、彼の足は食い止められた。
「......そんなに強いと、この子が本気出しちゃうわよぉ」
コーデリアの声に応じるように、壁を覆う光脈が激しく明滅し始める。
「……っ!」
異様な気配に、ルナが思わずウィルを抱き寄せた。
次の瞬間。天井や床から百本はあるであろう触手が飛び出したかと思うと、それらが一斉にリヒトに飛びかかった。
「かみさま!」
ルナの叫びも届かぬほどの怒涛。
だが、リヒトは拳、肘、膝、蹴り──全身を使って迫る触手を次々と粉砕する。
赤黒い体液が雨のように降り注ぎ、床を濡らしていく。
「……チッ……きりがねえな……」
額にかかった金髪を振り払いながら、リヒトは吐き捨てる。
「本当は……使いたくねえが……」
触手の槍の群れに囲まれながら、彼は指をパチンと鳴らす── 神のみわざ、その発動の合図。




