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六花の龍騎兵 〜滅びの眷属と白き龍〜  作者: 枝垂桜
第一章 運命の再誕
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第四話 白龍リリィス=リッカ

「なんだって?」


 夕食を食べている頃、シュクアの低く唸るような声が食卓に響く。


「どうして、義兄にいさんが徴兵に……」


 今聞いことが信じられないと言わんばかりに、机を叩いて立ち上がるシュクアに義兄はただ悲しげな目を向けるだけだ。


「村の勤めだ。誰かが行かなきゃならない」

「そんな……」


 尚も食い下がろうとも、しかし言葉が出てこない。もし義兄が徴兵を拒めば、その皺寄せは他でもない村の人間の誰かへと向けられるのだ。


「既に一度見逃してもらっているしな」


 一つパンを千切って口に運びながら、どこさ達観した表情で義兄が言う。


「まさか、義父とおさんも納得しているの?」


 シュクアが義父へと目を向ければ、意外なことに彼はシュクアへと責めるような視線を向けた。


「男が決めたことに口出しをするもんじゃない」

「それは……」


 義父の言うことはいつも正しい。それに加えて早いうちに妻を亡くして、こうして息子二人を男で一つ手で育てただけあって、酷く強くも見えた。

 感情論を抜きにして、正しいことを理解している。そして今回、義父は義兄が国の兵として家を出ることが正しいと考えている様子だった。


「それに今はお前がいる。俺が徴兵から戻ってくるまで二年と少し、父さんを支えてくれるだろう」


 ──そうなのだ。


 残しいてくる義父や義弟を心配して、彼は前回の徴兵を免除してもらった。──無論、無償でと言うわけではなく、村の中から代わりの男が引き渡された形だ。

 そして今回、シュクアも十分に育って狩りの腕も上達し、畑仕事もそつなくこなせるようになっていた。皮肉にも彼の成長は義兄にとって、暫くは家を空けても問題ないと思わせるものだったのだ。


「心配せずともちゃんと帰ってくるさ」

「どうしてそう言い切れる? 今、この国は混沌の真っ只中にあるんだ。他国との戦争も絶えないのに、義兄さんが無事帰って来れる保証なんてないじゃないか!」


 言い募るシュクアに、やはり彼は優しい眼差しを向けるだけだ。ただわかって欲しいと、無言の訴えかけは他のどんな言葉よりもシュクアの胸を抉った。


「仕方ないことだなんだ。もし俺が行かないと言えば、次に白羽の矢が立つのはお前なんだぞ」

「なら──」


 そこまで言いかけた時、いつもは優しい義兄の目が鋭くなった。反射的に義父へと目を向ければ、彼もまたシュクアを責めるような眼差しを向けるばかりだ。


「お前は、兄貴の気持ちを踏み躙るつもりか? こいつが兄として、弟を死地へと送りまいと身を賭していると言うのに……お前は自分が代わりになればいいなどと言うのか?」


 それがどれだけ残酷なことだとも知らずに──と、静かながらも有無を言わぬ圧力を感じて、流石にシュクアも溜飲を下げてもう一度席に腰を下ろす。

 彼は兄として、成人した男として勤めを果たすと言っているのだ。歳をとって身体の衰えた父を支えるため、そしてまだ未熟な義弟を守るために……


 ──ああ、そうだな……


 その覚悟を、他でもないシュクアが否定してはいけいないのだ。それがどれほどに残酷で無責任で、あまりにも無神経であるのか火を見るよりも明らかではないか。

 もしそんなことをすれば、きっと義兄は……否、義父は彼を許しはしないだろう。故にシュクアは口を注ぐんで、それ以上は食い下がることなく夕食に手をつけ始めた。


「絶対に、戻ってくるんだよな?」

「ああ、約束する」


 だからこそ、辛うじてそれだけを口にできて……そして義兄もまた、彼の期待に応えると言ってくれた。












 その日の夜、夢を見た。今世でも、前世のものでもない世界の夢だ。

 見渡す限りの全てが荒野と化していてこの土地は……否、世界の全土が眼前に広がる焦土と化している。


 もうこの世界は長くない。間もなく世界は滅び去り、使命は果たされる。

 その瞬間、胸の中を駆け抜ける様々な感情がドッと押し寄せてきた。


 後悔や悲しみ、得も言えぬ怒りとやるせない気持ち。正気を失うような負の感情が雪崩のように押し寄せてきて、自分と言う存在が狂気の彼方に消えてしまそうになる。


 ──その刹那、どこからか声が聞こえた。夢の景色は一変して、眼前に映るのは一面に広がる白い世界。

 足元にはどこまでも透き通った水面が映って、水面一つない水上で一歩踏み出し、小さなが波紋が広がる。


 そんな彼の眼前、ゆるりと顔を上げた先に浮かび上がるのは白い少女。その顔はよく見えずとも、彼女の容姿には見覚えがあった。

 純粋無垢を体現したような長い白髪を靡かせて、その瞼がゆっくりと持ち上がる。白光色の瞳、その奥に浮かび上がるのは闇色の花十字で、どこまでも深い憂いを帯びていた。


 ──まさか……


 少女の背後、三対六枚の巨翼。周囲に揺蕩うのは純白の羽毛で……彼女が、彼女こそが黒い悪魔の抱いていた白い少女だった。

 ゆっくりと歩み寄り、ただ悲しげな表情で佇む少女へと手を伸ばす。しかしどれだけ進もうとも少女との距離は縮むことはなく……何よりも、既に少女の姿はそこにはなかった。


「……シュクア……」


 どこかからか、自分を呼ぶ声が聞こえる。

 前からではない、声は後ろから聞こえた。


 後ろを振り返り、目に映るのは白いドラゴンだ。白い少女が姿を変えたのかとも思ったが、決してそんなことではない。

 彼女の纏う雰囲気と、ドラゴンの纏う雰囲気や気配は全くの別物だった。超常的は存在であるドラゴンと比較しても明らかに異質な白い少女は、そこから漂う雰囲気はどこまでも底知れぬ何かを感じさせたのだから。


「大丈夫、そばにいるから」


 ドラゴンの声を聞いたと同時、視界が暗転する。気がつければ、天井へと手を伸ばした姿勢で寝具の上に横たわる自分がいる。

 外を見れば薄らと明るくなり始めていて、跳ね起きるようにさて寝具から転がり出ると素早く身支度を整える。


 弓一つ持たずに家を飛び出して目指すのはドラゴンと落ち合うのに目印としている大樹。森の中を飛ぶように駆け抜けて、間もなく辿り着いた。

 既にドラゴンはそこで待っていて、シュクアが辿り着くとその顔を彼へと向ける。


「はぁ……はぁ……」


 切らした息を整えながら、ゆっくりとドラゴンの方へと向けて歩き出す。肝心のドラゴンは木下で身体を休めながら、彼が近づいてくるのをジッと待っていた。


「俺の夢に、干渉したのか?」


 シュクアの記憶を読み取ることが出来るのなら、彼の夢の中に現れることも可能だろう。それを踏まえて問うて見れば、ドラゴンはゆっくりと瞬きを一つ。


「貴方から夥しい激情が流れ込んできた。それで、貴方の夢に干渉してなんとか落ちかせようと思った」

「ああ、助かったが……お前が干渉したのは、どこからだ?」


 夢は段階的に変化した。焦土の世界、白い世界……そして何もない場所に立つドラゴン。恐らくはドラゴンの声が聞こえたところで干渉を受けたのだろうが、一応聞いておく。


「私が干渉したのは焦土の世界が消えた直後、白い世界の少女も私は知らない。ただあの少女が私よりも先に、貴方の精神を安定させた」

「そう、か……そうだったのか」


 悪魔との契約、三人の少女。その一つに彼女も含まれていることは明白だが……だとするのなら、彼女はどこにいると言うのか。

 彼の夢に干渉出来たのなら近くにいるのか、あるいは悪魔の契約と付属してきただけで彼女本人とは関係ないという可能性もある。


「いや、それはまた後で考えよう」


 頭を切り返して、シュクアは手頃な手頃な木の枝を取ると地面に文字を書いていく。生憎とこちらの世界の文字はまだ完璧に習得は出来ておらず、故に地面な書いていくのは彼が前世の知識で知っている文字になる。

 無論、ドラゴンが彼の記憶を除き見れることは知っていため、こちらの世界に存在しない文字でも問題はないだろうと考えてのことだ。


「いくつか名前を考えたんだ。気に入ったのもはあれば言ってくれ」


 そう言って地面に書き出していく名前を、白いドラゴンは興味深そうに眺めている。そんな彼を一瞬見上げて、引き続き名前を連ねていく。


「どうだ?」


 十を過ぎた辺りでドラゴンから反応がないため、痺れを切らしてシュクアの方から声をかける。しかしドラゴンは首を横に振るだけで、気に入った名前はないようだ。


「それじゃ、こんなのはどうだ? 『たすく』っていうんだ。他者を助け、支えるって意味だ」

「いいえ」


 ドラゴンはやはり首を横に振るばかりだ。


「嫌か? なら、こっちは──」


 その後もいくつか名前をあげてドラゴンは決してイエスとは言わない。何故だかと考えても見るが、やはり和風の名前は気に入らないのかもしれない。

 そう考えて、脳裏をよぎるのは悪魔の記憶から得たいくつかの名前。悪魔が元いた世界は滅びていることから、そこにあった名前は亡くなった人間のものを借りることになるだろう。


「エル=フレイドなんてどうだ? 初代勇者の名前らしいぞ」

「いや」


「なら、エルド=ナーヴァは? 歴代最強な大魔王だって言うんだ」

「ううん」


「ランウェ=リーゼ・ゼラルミア。大魔王エルド=ナーヴァ直属が四天王の筆頭であり、歴代魔王と肩を並べる強さを持っていたらしいぞ。少し長いと思うけど、一部分を切り取って使うのでいいんじゃないか?」

「…………」


 ここまで来るとドラゴンはイエスともノーとも言わなくなる。いや、それ以前にまるで理外の乏しい残念は人間を見るような眼差しを向けてくるほどだ。


「なんだよ? 俺だって一生懸命考えているのに、流石にその態度は酷いんじゃないか?」

「私からすれば、どっちが酷いのかは火を見るよりも明らかだけど?」


 一体何が、と言いかけてあることに気がつく。──そうだ。人間だって生まれてすぐに確認することで……どうして、シュクアは今の今まで考えようともしなかったのか。


「まさか、お前……男じゃなくして、女だったのか?」

「…………」


 ドラゴンは何も言わない。しかしその瞳がシュクアの言葉を肯定していることは明らかで、そこにきてシュクアもまた酷い自己嫌悪に陥る。


 ──そうだった……

 ──何故、確認しなかったんだ……


 考えもしなかったと言えば失礼極まりないが、正直に白状するとそんなことは欠片も考えていなかったのだ。何故かと言われれば答えに困るが、強いているのならそれそどころではなかったと言うべきだろう。

 ドラゴンを育てること、前世の記憶が蘇ったきたことなど……言い訳がましいが考えることが多く、彼改めて彼女の性別を確認しようなどとは思わなかったのだ。


「いい名前は決まった?」


 そう問いかけてくるドラゴンの声を聞き、そうして改めて実感する。ドラゴンだからかやや声は低いものの、確かに男の声とは考えずらい。

 彼女の性格からくるものなのか声色も優しく柔らかく、それがもし人間の発しているものだと考えれば間違いなく女性だと判断しただろう。


「ああ、少し待って」


 女であることを踏まえて改めて名前を考え出す。前世の記憶からいくつか候補が上がるか、残念ながら言葉にする前に全て却下される。

 あと残るのは悪魔の記憶から手繰り寄せたものだが、その殆どが拘りの強いドラゴンの前に撃沈していく。


 安直なものでいれば白いと言う言葉、ホワイトのスペルを逆転させたエティーウだが、勿論それも却下された。


「全く、アレもダメこれもダメでは拉致が開かないぞ? 一体何がダメんだ?」

「私は前にも行ったはず。貴方に名前をつけて欲しいと。──貴方が挙げた名前は全て記憶の中にある既存ののもで、貴方が考えたものではない」


 そんなことを言われても眉を顰めるだけで、シュクアは一度地面に腰を下ろすと再び木の棒を使って地面に文字を書いていく。

 ドラゴンの言う通りなら、彼女はシュクアのがしっかりと考えた名前でなければ却下するつもりなのだろう。


 そう言われては仕方ないと、これも彼女の性格を間違え続けたことの埋め合わせとして真剣に考えることにした。


「白、無……体色を示すものを使うのが簡単だが、あまり安直だと却下するだろうし」


 考えに考える。ドラゴンに相応しい名前で、それでいながら女性にも似合うもの。──そして何よりも、他にはない彼のオリジナルである必要がある。


 ──和風ではややインパクトに欠けるか……

 ──しかし、西洋風の名前はよくわからないんだよな……

 ──あるいは、間をとって和洋折衷でもいいのだろうか……?

 ──いや、そもそも一から考える必要もない……


 他の名前から一部分をとって考えてみるのもありだろう。最初に脳裏によぎるのは悪魔の知識にある龍王の名。


 ──アフィ=ヴァエナ……


 龍王に関する記憶をかき集めて、その姿や背景に何があるのか考える。断片的な記憶から読み取れるのはそのドラゴンは鱗の代わりに白い体毛を持ち、また性別が女であることだ。

 どことなく目の前のドラゴンに似ているが、明らかに違うことがある。どう足掻いたところで、他のドラゴンではかの龍王には決して届かないことだ。


 ──そもそも、こっちの世界のドラゴンが龍王の存在を容認するとも思えない……


 頭を捻り、何かないかと考える。何となしに顔を上げた先、白いドラゴンは赤い瞳でシュクアを見下ろしていた。


「俺とお前は、まるで対極だよな」


 先日、刀に写った自身の姿を思い出してそんなことを言う。ドラゴンは首を傾げるだけだったが、シュクアは言葉を続けた。


「前世の俺も黒髪だったが……この体は、もっと深い黒だ。知っているか? 黒髪とは言われてるけど実際には黒髪なんて存在しなくて、ただ黒にに近いだけの髪色なんだ」


 何が言いたいと言わんげに、白いドラゴンはゆっくりと瞬きをする。


「この髪なんだけど、見事なほどの漆黒なんだ……。瞳もそうだ、黒曜石のように黒光している」


 だから何だと言うのか。自虐的に笑って、シュクアは正直に続けた。


「俺はある悪魔と契約をした。その悪魔が今の俺と同じ容姿だったんだ」

「それは、何となく知っている。ただ、その悪魔の存在というのは果たして実在するのだろうか?」 


 ドラゴンはシュクアの記憶から悪魔のことは知っているようだが、生憎と彼女はその存在を疑っている。

 しかし、シュクアは彼女とは対極であの悪魔は高熱に浮かされた時に見る夢のような幻では、決してあり得ないと考えている。


「…………そうかも、な。たださ、俺の名前……エンシュクアと言うのは、俺が入れられていた揺籠に刻まれていたものなんだ」


 やはり、ドラゴンは不思議そうに首を傾げるだけだ。


「シュクア、って知っているか? お前が生まれて、悪魔のことを思い出してからふと気がついたんだ」


 シュクア、それがどんな意味を持つのか。ドラゴンも興味をそそられたのか、食い入るような意識が彼の方にも伝わる。


「これが前世いた世界の、故郷の言葉に宿痾ってモノがあってな……これは、長く続いた治らない病気という意味なんだ。──長く、慢性的に病気に苦しめられる意味さ。いつまでも続く痛み」


 ジロリと動いた瞳がドラゴンの赤い目を見上げる。かつて前世に於いて幾度となく抱いた感情、強い殺意の余波を受けてドラゴンが一歩後ずさる。


「前世の俺は復讐に燃え……死んでもなお、この身に焼きついたその刻印は消えなかった」


 死してなお、シュクアが持つ復讐の炎は消えなかった。今もあの時の怒りと悲しみを思い出すたびに、身を焦がすような炎が吹き上がるのを感じる。

 決して治らない病気。復讐に囚われた男が、その身が滅びる時までついてまわる呪いだ。


「──でも、お前は違う。俺のように澱みを持って生まれることもなく、真っ新な状態だ」


 どこまでも黒く染まったシュクアと違い、ドラゴンは無垢そのものだ。強大な存在でありながら、彼女では決してシュクアと同じ土俵には上がれない。


「六花って、知っているか?」

「知らない」


「俺の世界では雪の結晶を六花と呼んでいたんだ。主に六角形に違い花のような結晶で、俺の世界に様々ない花に花言葉と呼ばれる意味合いが待たされていた」

「…………」


 ドラゴンは黙ったシュクアの言葉に耳を傾けた。彼女の中にある世界の常識とは違っていて、それでいながら美しい言葉の羅列に魅入られたのだ。


「六花の花言葉は、友情と健康。俺とはまるで正反対だろう?」

「素晴らしい花言葉だが、それがドラゴンに相応しいも思うのか?」


 確かにリッカと言うのなら、些かインパクトにかけるだろう。しかし同時に、シュクアにとってはドラゴンに対する定義などないようなものだ。


「生憎と俺の世界にはドラゴンなんていなくてな。ただ、俺もリッカだけでは流石に味気ないとは思っている」


 だからこそ……シュクアはその名前の頭に、彼が願って求めてやまない言葉をつけることにしたのだ。


「お前はリリィス=リッカ。俺の世界、離れた国に"リリース"という言葉があってな、これは解放を意味する」


 いつか、いつの日か……復讐の檻から解き放たれる時を願った。無論、例えて復讐を終えて生き残っても自ら命を絶つだろうとも考えていたが、それでも時たまに考えたことだ。

 いつかこの苦しみから解放される日が訪れまいかと……怒りと悲しみに暮れた日々の中で、確かに願っていた。


 例え復讐を完遂して怒りを失い、悲しみだけが残るとしても……それでも願わずにはいられなかった。


「それは貴方の後悔と願いから来る名前か?」

「ああ……そうなるな」


 ドラゴンがその名前を気に入るかはわからない。──それと同時にシュクアはこれ以上、彼女の名前を考える気にもなれなかった。


「気に入った。これから、私はリリィス=リッカ……この名と共に、私は貴方の後悔と願いを背負って生きよう」

「いや、そんな意味じゃ……」


 そこまで言いかけて、シュクアは思わず言葉を詰まらせる。確かに考えてみれば、彼女の言う通りその名前にはシュクアが前世で抱いた激情の中に秘めた、儚い感情を閉じ込めたものだ。

 ありもしないことを願う心が、今の在り方を否定したいという弱さからだ。故に彼女は本質を背負って──否、剥き出しの弱さの中に生きると言ったのだ。


 ドラゴンの名前に込めた意味としてはあまりにも似つかわしくないが、きっとその本当の意味を知った時、聞く者全てが身震いするだろう。

 確かにそれは復讐の鬼が業火の中で燃え尽きて、弱さすらも失った証だ。血で血を洗う日々の中、捨てて無くしたはずの弱さを忘れないための名前だ。


「リリィス=リッカ、悪くない」


 名を得たことの喜びを表現するように尻尾を地面に叩きつけて、リリィス=リッカが低い音を奏でる。


「他でもない貴方の弱さと願いをこの翼に乗せて飛ぼう。例え貴方の持つ運命が強大な嵐を巻き起こそうとも、我が翼は最後までその風を切って飛び続けよう」


 最初こそ彼女に名を付けてしまえば、シュクアの持つ残酷な運命に巻き込むのではないか。そう危惧もしていたが、他でもない白いドラゴンはその真っ只中ですらも彼と共に挑むと言う。


「……ああ、宜しくな。リリィ」


 もう一人ではない、その思いがシュクアの持つ弱さを本当の意味で克服する力となるだろう。それを実感しているからこそ、彼もまた目を細めて笑った。

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