第八話 非公式ヒロイン特殊護衛部隊(ティナレ視点)
結局、誘拐されたアリシアちゃんを引き取りに来る相手は現れなかった。セレーナの広範囲の探索にも引っ駆らず、残った実行犯も詳細は何も知らされずに金で雇われただけ
ジルベリオ殿下に情報を伝えたので今頃はサウストン伯爵家には護衛と事情聴取にの人間が送られているでしょう
セレーナが領地で開発した防犯扉も殿下が確認次第取り付けられるみたいだしひとまずは安心ね、セレーナはセレーナで今回の提案が好評だったから今度は防犯窓も提案すると息巻いていたし
それにしてもアリシアちゃんはだいじょうぶかしら?トラウマになってなければいいけど
殿下からも
「申し訳ないのだが彼女が復学したら公爵家の令嬢たちで守ってやってくれないだろうか、そのなんというか男では立ち入れない場所も多くて…それと、彼女が誘拐されたということは公にしないで欲しい例の防犯扉も設置するし無用な混乱は避けたいのだ」
歯切れが悪いのはご自身が女性に近づけない所為だろう、その原因も私達なのだから受けるしかないのだけれどね
それと彼女の部屋は設備に不備があったと理由をつけて移動になった、、、私達の居る女子寮の四階へ
これは殿下が女性に疎いだけでなく世の殿方が解っていないと言うべきか、確かに私達の近くにいれば防犯面ではいいけど違う問題が起こるのよね。公爵令嬢だけが居るフロアに伯爵令嬢が住み、常に誰かしらの公爵令嬢が側について護る、、、事情を知らない令嬢たちからはどんなふうに見えるかしら
これって悪役令嬢ものでよく言われる『強制力』ってやつかしら?ゲームのイベントの為にヒロインは虐められなきゃいけないとか、悪役令嬢は何が有っても階段落ちイベントに巻き込まれる的な
私達が側にいれば表立っては虐めないでしょうけどその分、陰湿になりそうだわ。その辺は情報収集が得意なセレーナに見ててもらいましょう
一週間後、無事防犯扉は取り付けられアリシアちゃんも復学した。公爵令嬢しか居ないフロアに移されて居心地が悪そう…ご愁傷さま
彼女も成績優秀者で私達お同じBクラスだから寮からの移動も一緒、休み時間も私達のうちの誰かしらが大抵一緒にいる。
早速他の令嬢からの不満が上がりだしたけど、各自で受け持って不満を分散してる
怪力お…フェリシアは騎士科だからクラスでも令嬢なのに騎士見習いの出で立ちで、あれはなんて言えば良いのかしらベ◯ば◯的な感じ?男装の麗人好きにはたまらないらしく人気が有るらしい
ジュリアはthe公爵令嬢っていうのかな高貴な姿で憧れているクラスの子も多いし、メリーナは令嬢の嗜みに付いて造詣が深く相談に乗ってくれるタイプで人気、セレーナも温和な性格でとっつきやすく、ヘレネは公爵令嬢っっぽくなく元気いっぱいなところが受けているらしい公爵令嬢としてどうかと思うけど、スザンナはバランス型どんな話題を振ってもかまってくれるところが人気なそうで、みんな個々の性格を活かして令嬢たちの不満が出ないようにしてる
ちなみに騎士科とあるけど騎士科でも魔法科でも錬金術科でも普通科でもクラスは同じ、前世でいう部活動に近い感じね
私はコミュ障だから悪いけどパス。代わりにヒロインが呼び出されそうな裏庭でいつも読書することで皆には了承をもらっているわ
私達は派閥を作ろうとはしなかったけどそれぞれにファンクラブがるらしい、セレーナに教えてもらったけどまさかの私にまでファンクラブが有るとは思ってもいなかった。寡黙でミステリアスなクールビューティーらしく話しかけたりせず見守るだけで満足なのだとか、偶に悪寒が走るのはそのせいかしら
こっちが事情を知っていることをアリシアちゃんは知らないから公爵令嬢がなぜ伯爵令嬢の自分に優しいのか判らなくて戸惑い気味ね、でもやっぱりヒロイン属性だからなのかしら私達からみても守ってあげたくなるというか母性本能?ちょっと違うと思うけどくすぐられるのよね
今のところ彼女を見ている限り悪役ヒロインで逆ハー狙いという線はなさそう
今日は休み時間に廊下でサイファスとルーカスから話しかけられていたわね、なにか困っているようにも見えたけど何を言われたのかしら、まあ建前上この学園では身分に関わらず平等の精神だから誰が誰に話しかけても問題はない…殿下はまあちょっと状況が特殊なので本来なら殿下であっても身分が下の者が話しかけても良いんだけど、物理的に殿下が女性から話しかけられる距離に居ないのよね
ただ気になったのはその会話を廊下の影から見ている女子生徒が居たこと、制服の胸元に付けているブローチの色が青色なことからして二年生よね、その場違い感が引っ掛かる
私は彼女とすれ違いざまに特徴を記憶する。髪色はペールグリーン…ううんもう少し明るいからハイトーングリーン?顔は丸顔で色白、右目の下には泣きぼくろ、身長は~160前後
このくらいかしら、あとはセレーナに任せれば対象を絞ってくれるでしょう
セレーナが夕餉までにやってくれました。公爵家にはそれぞれに諜報に長けた影の部隊を有しているけどセレーナの持つ能力『念話』のお陰で伝達が格段に速い
条件に一致する生徒はクレモナール男爵家のご令嬢、二年生のCクラスで成績は可もなく不可もなし、男爵家自体もこれと言って悪い噂もない。男爵家とアリシアちゃんの実家のサウストン伯爵家とも接点なし
サイファスかルーカスが好きで見てただけ、、、なら良いんだけどなぁ
翌日も彼女が廊下からアリシアちゃんを探す様子を確認した。
その日の夜、、、
はい、黒でした
サロンに集まりセレーナから話を聞くと
セレーナの影が確認した情報によると王都に在るタウンハウスに居るはずの男爵はおろか住み込みの侍女やメイドに至るまで誰も外出なし、代わりに日が落ちるとともに裏口から黒ずくめの男達が六人ほど学園方面に向かって移動中とのこと
前回の破落戸と違って訓練された連中のようだ、人質を取っていることを考えるとタウンハウスにも何人かいるかも知れない、もっとも既に証拠隠滅でタウンハウスの人間は全員消されている可能性もあるけど
「公爵令嬢の居るフロアに誘拐に来るって相当切羽詰まってるのかしら?それとも舐めているのかしら?」
扇で口元を隠しているけどジュリアは相当不機嫌そう
「両方でなくて?」
笑みを浮かべながら答えるスザンナも目が笑ってない
「寮の方は私がやる、誰か一人は男爵令嬢を、もうひとりは念のためアリシアちゃんのところに居てくれる?あとはタウンハウスの方をお願い」
「珍しいじゃん、お前が自分から進んでやるとか」
「フェリシアの怪力でこのフロアを破壊されたくないからね、前回無駄に暴れたんだから今日はあんたは待機」
「むう!」
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消灯時間もとっくに過ぎ静まり返った寮の玄関の内側で息を殺し、人が来るのを待っていた
ココン、コン、コン
部屋に置かれていた脅迫状に書かれていた合図と同じ
彼女は扉に魔力を通して扉を開く
「騒ぐなよ」
扉を開けた途端、背後に黒ずくめの男立っていて少女の喉元にナイフを当てた
少女は涙が溢れて止まらないが、かろうじて声は押し止めることが出来た
「いい子だ」
何が良いものか!今日自分の家族や家族同然の侍女たちの命の代わりにあの子が連れ去られる、あの子は殺されるかも知れない、ごめんなさい、ごめんなさい、少女は心のなかで詫ながら
「あの子は四階の右奥の部屋に居ます…」
「よし、よく調べたな…おまえら先に行ってろ」
己の無力さに打ちひしがれながら少女は男に問いかける
「約束よ!これでお父様や侍女のオリビエ達を開放して」
「ありがとよ、お嬢さん!これでお前は用済みだ、じゃあな」
「そんな…」
身体が恐怖で動かない、少女は心のなかで何度も謝りながら目を閉じた
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