9話 騎士団動く
デ・ルーの街、騎士団本部。
領主であるルー伯爵に昨夜の騎士団寮襲撃事件のあらましを説明し終えたシグス騎士団長とオズマ副団長が戻って来た。
団長室には緊張した面持ちのガナベル副団長と部下の二人が待っていた。
「ガナベル、神殿の様子は?」
「はい。皆、安らかに眠っております。」
「安らか、になるのは、我々が骸骨剣士を討ち倒してからだな。」
「その事ですが。」
「どうした。」
「はっ。ベニー隊長らには、街の周辺調査と騎士団寮周辺調査を命じておりましたが、各隊隊長6名が、北の墓所に侵入しました。」
「そうか。」
シグス団長は、それだけを言うと、皆を部屋の外に追い出した。
◇
団長室を出てガナベルとオズマは廊下を並んで歩く。ガナベルが口を開いた。
「隊長たちの暴走を咎められると思っていたが。」
「今はそれに勝る怒りがあるからな。それにベニー達の気持ちも分かる。」
「そうだな。」
二人は視線を交わし、うなずいた。
「で、誰が仕留めてくると思う?ガナベル。」
「それは、タワーだろう。奴が一番槍だろうからな。」
「なんだ、賭けにならんな。」
「オズマ。それより、葬儀の準備もしないとならんし、ご家族への連絡もある。」
「はぁ、嫌な忙しさだ。」
「まったくだ。」
二人は廊下を進み、それぞれの執務室に入った。
◇
夕刻。
シグス団長がガナベル副団長の部屋に来た。
「ガナベル、ベニー達はまだ戻らんのか。」
「はい。先程、部下4名に北の墓所を確認させに行かせました。」
「むぅ。嫌な予感がする。騎士団はどうしている。」
「はい。2番隊と4番隊が街の周辺警戒に当たっています。1番隊は正門業務、3番隊は執政官官邸警備、5番隊、6番隊が本部に詰めています。」
「そうか。」
廊下に大きな足音が響き、部屋の扉が乱暴に開けられる。
「ガナベル副団長!」
「何事だ。」
「隊長が、隊長達がいません。」
「何?」
「神官様も、同行した騎士達も、床には血の跡があって・・・。」
「血!?血の跡があったのか!何処だ!何処に血の跡があった!」
「北の墓所です。墓所の入口部屋の床に、たくさんの血の跡があって、それが地下への階段に引き摺られた跡が。」
「なんだと!?」
「騎士団に召集を掛けろ。」
シグス団長は、指示を出した。
その声には静かな怒りが含まれていた。
◇
執政官官邸警備と街の正門業務は抜ける事ができない。
騎士団本部には2番隊、4番隊、5番隊、6番隊の団員が揃った。
だが、2番隊の半数は北の墓所で隊長達と共に行方不明となっている。
昨夜の襲撃で37人を失い、今日は隊長6名と団員8名が行方不明だ。
集まった団員の数は55人。
オズマ副団長が2番隊と4番隊、ガナベル副団長が5番隊と6番隊を率いる。
彼らは隊列を組み、徒歩で北門を通り抜け墓所へと続く森の道を進んだ。
先頭を歩くシグス団長は無言だった。
日が沈み、森は闇に包まれ、空には2つの月が輝く。
赤の月が闇夜に浮かぶ。
青の月の光が道の先を照らし、一行を墓所へと導く。
■■■
夕闇が迫る。
俺の骸骨軍団で剣を手にしているのは28人だ。
加えて骸骨魔法操兵が8人。その内、攻撃型は4人だ。
中でも面白いのはテラーの『恐怖』だろう。
さて、今夜の第一目標は騎士団本部だ。
そこで残りの骸骨騎士たちの剣を入手する。
そして、騎士団の残りの魂を入手し、執政官の館も攻め落としたい。
そうすれば、俺の骸骨軍団の補充と拠点都市が手に入る。
ふふふ、二日目の夜としては大成功だろう。
いや、まだ手に入れていない。
油断はできないな。
奴らも、こちらを滅ぼしに全力で来るだろう。
さて、出陣するか。
◇
チュウ。
入口部屋に先行した屍鼠が戻ってきた。
どうやら3人の騎士が外にいるようだ。
隊長達が帰って来ないので、見に来たか。
では、その隊長達に会わせてやろう。
突撃力ではタワーが秀でているな。
彼の武技は『槍の装備破壊・突き』という珍しい物だ。
剣術ではベニーか。マルクトーとサンシャも評価が高い。
ベニーの武技は『剣の遠斬り』。これは剣の間合いが約30cm伸びる。刃が届かなくても相手を斬る事ができる。
マルクトーの武技は『剣の無刀斬り』。これは剣を抜かなくても、腕と手の振りで斬撃を放てる。
サンシャの武技は『剣の連撃2』。剣の2撃目の振りと威力が増す。
マルクトーとドットは盾の扱いが巧いようだ。
マルクトーは武技に拠らない技術的な習熟だ。
ドットは武技『盾の不動』を持っている。攻撃の衝撃を全て盾で吸収する技だ。
メイヤーは技術力では他の5人に劣るが、統率力がベニーより高いと、骸骨騎士の魂から支持されている。
そんなメイヤーの武技は『盾の衝撃』だ。これは盾を使った攻撃だな。
頼もしい6人だ。
だが、今夜の相手の騎士団長と2人の副団長は隊長達を上回る。
団長達には骸骨騎士3人以上で当たらせよう。
◇
さて、見張り役の3人の魂を「吸魂」して分かったが、30分程前に一人が騎士団本部に報告に行ったようだ。
そして3人が残っていたという事は、まもなくここに騎士団が来る、ということだ。
外は日が翳り、闇が濃さを増しつつある。
仕掛けるか。
「授魂」
俺は横たわる見張り役3人の死体に「授魂」した。