第43話 海の瞳が刻みし物
第四章はこれにて終わりです!いや~過去回想と世界観について考えるのも書くのも大変だった!
リラが涙ながらにユラを呼んだ次の瞬間、テミスの身体がコバルトブルーの光に包まれ、其処から等身大の人の形をした光の塊が出て来ました。
光が解かれると、其処に立っていたのは生前の姿のユラ其の物!只、肉体を失った霊体である為か、その姿は半透明では有りましたが………。
「こっ、この人が…」
「リラさんの………お祖母さん!?」
潤と真理愛が呆気に取られながら、他の面々と共に初めて見るユラの姿を眺めている中、ユラは穏やかな眼差しと共にリラと向き合います。
「リラ……久し振りね。貴女の事はずっと傍で見てたけど、随分立派になったわね。」
「お祖母ちゃん……お祖母ちゃあぁぁぁぁんッ!!」
アクアリウムを発動させながら、リラはユラの元に駆け寄り彼女の懐に飛び込みます。
そんな孫娘の事を優しく抱きながら、ユラは何も言わずにリラの頭を撫でるだけでした。
「お祖母ちゃぁん……会いたかったよぉッ………!ずっと………ずっど、寂じがったよおぉぉッ…!!何であの時、私を遺して先に死んじゃったの……!?酷いよぉ、あんまりだよおぉッ………!!」
「御免ね、リラ……悪いお祖母ちゃんで……。貴女が大人になるまで、生きて傍にいてあげられなかった処か独りぼっちにして、水霊士としての使命まで背負わせて……!!」
同じく目から涙を流しながら、ユラも孫娘とそう言葉を交わします。
2人の感動の再会を前に、葵達は目に涙を浮かべながらその様子を微笑ましく見守っていました。
「2人とも、感動の再会はもう良いでしょう?」
すると其処へ、先程まで黙っていたテミスの第一声が響きます。
全員が声のした方を向くと、其処に立っていたのは今までの少女時代のユラではなく、全く別の姿の少女でした。
170前後と言う忍やみちるに比肩する高身長に、バスト100近くは有ろうかと言う豊満な胸の膨らみ。
丈の極端に短い、コバルトブルーの着物に似た衣装。
地面まで届きそうな程長いアイスブルーのロングヘアー。
そして太腿から爪先まで露出した、生の眩しい美脚で。無論、足元は裸足。
けれど声だけはテミスと一緒でした。
「「「「「「「「「「………誰?」」」」」」」」」」
「テミスです!!」
「「「「「「「嘘……!?」」」」」」」
霧船女子水泳部10人のボケに対して間髪入れずに突っ込みを繰り出すテミスに対し、リラと葵と深優と更沙と潤と真理愛とみちるは信じられないと言わんばかりの表情です。
「マジで?」
「さっきまでと姿、全然別人じゃん……。」
「あぁ、さっきまでの姿ってリラのお祖母ちゃんの昔の姿だった訳だから、もしかしてこれがテミスの本来の姿なの?」
同じく忍と瑠々が驚きを隠せない中、1人冷静に水夏は目の前のテミスの姿こそ彼女の真のそれと推察します。
「この10人の中で1番冷静に頭を使えるのは水夏さんの様ね。てっきり深優さんか更紗さん辺りがそのリアクションを取るとばかり思ってましたが?」
「そ、そりゃ私だってテミスが今までと全然違う姿で出て来るなんて思ってなかったんだもん!完全に意表突かれたよ!」
「流石にこれは予想外…。」
一応の弁解をする深優と更沙ですが、気にせずテミスは続けます。
「まぁ良いですわ。只一言だけ捕捉しますと、この人間の姿は普段の魚のそれと併せて、私の決まった姿と言う訳では無い事だけはご理解下さい。水に決まった形は無い訳ですし当然でしょう?」
「リラっちのお祖母ちゃんの少女時代の姿してたかと思えば、全く知らない女の子の姿になるなんて流石は水の精霊………なのかな?」
「まぁ…あたしの中にこの前まで宿ってたヴァルナも、リラの力であたしと同じ姿になってた訳だしな………。」
「「「「確かに……。」」」」
“水は方円の器に随う”と諺にもある通り、水は丸い器なら丸い形、四角い器なら四角い形となる物です。そんな水を司る精霊であるならば、決まった姿を持たない処か、様々な外見に見た目を変えられても何等不思議は無いでしょう。
初めてリラと出会った時、ミラーリングアクアリウムを体験した忍とその場に居合わせた葵、深優、更沙、みちるは「物凄く納得」と言わんばかりの表情をしていました。
「さて、久し振りにこの姿を取った所で、改めて本題に入りましょうか。」
気を取り直すなりテミスは、ユラの傍へテレポートして来て言いました。
「ユラ、貴女もリラに合わせて何時までもそんなお祖母さんの姿なんかしてないで、少女時代の姿になっても良いのよ?周りがこんなピチピチの子達ばっかりなのに、貴女だけそんな恰好じゃ場違いでしょう?」
「えっ?だけどテミス……。」
「テミス…私達、別に気にしないけど?」
「貴女達が気にしなくても私が気にするの!未だ私のこの姿に違和感を持ってる子が相当いるみたいだしね。納得して貰う為にもお願いしてるの!」
そう言ってテミスはリラ達1年生以外の全学年の子達を一瞥して言います。確かに更紗の家で少女時代のユラを写真で見たリラ達と違い、2年と3年の先輩の子達はそんな物は見ていません。そんな潤達からすればこれまでテミスが取っていた、少女時代のユラの姿こそ彼女のデフォルトのそれと言う認識は潤達の中で氷の様に硬く凝固している事でしょう。
「……仕方が無いわね。」
溜め息を吐きながらユラは身体を光らせ、次の瞬間には少女時代の若い姿になって見せました。
「前のテミスの姿と同じだわ!」
「今までのテミスの姿って、本当にリラさんのお祖母さんの昔の姿を真似てたのね…。」
潤と真理愛が小並感…もとい正直な感想を吐く中、残る4人のそれと言えば―――――。
「本物はテミスより優しそう……。」
「テミスだと出来る女上司っぽかったけど、優しさ半減って感じだったよね~…。」
「流石リラの祖母ちゃんだな。同じ姿でも本物の放つ雰囲気には敵わねーや。」
「やっぱりテミスが化けた偽者より、本物のお祖母さんの姿の方が安心感が有って良いわね。」
本物のユラと比較してのディスりでした……。
「貴女達、今吐いた毒の報いは後日、キッチリ受けて貰うから覚悟しておきなさいよ………?」
「テミス、それは良いから話の続き……。」
「そうね。今はそんな事言ってる場合じゃなかった…。」
若干の怒りに身を震わせるテミスをリラが宥め、此処から改めて本題に入ります。
「それでユラ、貴女はこれからどうするの?今回の件でリラも、心の底に堆積した穢れはもう取り除かれるでしょう。勿論、未熟で不完全で足りない所は有るけれど、それも水霊仲間の皆がこれから埋めて行く筈。人間として一皮剥けたこの子ならこの先、水霊士として今まで以上に立派にやって行ける!貴女はもう、安心して来世に旅立って良いのよ?」
「お祖母ちゃん、死んだ後の世界に行っちゃうの?」
「私は―――――。」
テミスの言葉を受け、寂しそうな顔をするリラ。それを見てユラは、少し複雑な表情を浮かべました。
自分が死んでからずっと心配だった孫娘も、心を通わせた友達や優しくも厳しい先輩達のお陰で大きく成長し、人間としても水霊士としても立派にやって行けるレヴェルに到達しつつある―――――。
けれど、本当にもう自分はリラに必要無い存在なのだろうか?祖母として、この子の為に出来る事は他に無いのだろうか?
そんな考えが水槽の器具の中を循環する水の様に、ユラの胸中で世話しなく廻っていました。
すると其処へ、深優が新たな質問を投げ掛けました。
「ねぇ!またちょっと質問有るんだけど良い、テミス?」
「深優…こんな時に何言ってんのよ……?」
空気を読まずに新たな質問を投げ掛ける深優に呆れる葵ですが、テミスはこれを助け船と判断し、質問を促します。
「構わないわ、葵さん。それで深優さん、今度は一体何について訊きたいの?」
「リラっちのお祖母ちゃんが水霊士だって言ってたけど、お祖母ちゃんってどんだけ凄かったの?リラっちより上?」
「深優ちゃん……。」
「お前、今それ訊く事か……?」
今此処でしてもしょうもないであろう深優の質問に呆れるリラと忍ですが、これがユラの今後を決定付ける契機となるのです。
そんな深優の質問に対するテミスの回答はこうでした。
「そうですわね…。結論から言ってユラは素晴らしい水霊士でした。それこそ、私や他の上級水霊の力を100%のレヴェルで使いこなせる程に―――。」
「じょ、上級水霊の力を100%!?」
「マジかよ……。」
「あんな天気を簡単に大雨に変えちゃう程凄い水霊の力を完璧に使いこなすなんて……。」
知られざる水霊士としてのユラの才能の凄さを知り、リラは声を大にして驚きました。忍や葵も?然です。
「上級水霊は私も1回見たけど、本当に物凄い存在感だった。力だってとっても強力だって、一般人の私でも一発で見て分かる程だった……。」
「リラちゃんだって未だ100%も力使いこなせてないのに、流石はリラのお祖母ちゃんだね……。」
セドナもそうですが、嘗て同じく上級水霊であるゲンムと出会い、その浄化に挑んだ真理愛と潤も、その力の大きさを知ってる手前、驚きを隠せません。
「ユラの水霊士としての力は、文句無しに歴代でも上位に入る程でした。此処100年の時代において、これ程強大な水霊士は私も久しく見ていなかったから驚いたわ。」
「そもそもテミスって、リラのお祖母ちゃんと何時からの付き合いなの?」
水夏がユラとテミスの関係について尋ねると、それに答えたのはユラでした。
「それについては私がお答えするわ。私の家系は代々、水の精霊と心を通わせる水霊士の家系だったの。そしてテミスは、私やリラのご先祖様の中で最初に水霊士となった方の中から生まれた水霊だったのよ。」
ユラから告げられた答えに、リラを始めとした一同は再び驚愕の念に囚われました。まさかリラの先祖が由緒正しき水霊士の家系だったとは、思いも寄らなかったからです。
そしてテミスがリラやユラの先祖に当たる、大昔の水霊士の中から生まれた水霊だったとは………。
「此処からは私が説明しましょう。ユラやリラの遠い先祖から生まれた私は、未だちっぽけな力しか持たない下級水霊でしかありませんでした。其処から私はその子孫が誕生する度に彼等の体内に渡り水霊として代々宿り続けました。そうやってリラとユラに繋がる、歴代の水霊士達の内の原生水霊の誕生と進化を促すと共に、彼等の水霊士としての才能の開花と成長をも促して来たの!同時にそうする事によって私自身も中級、上級へと進化して来たのです!」
テミスの答えに、リラ達は改めて驚きつつも彼女の上級水霊としての力の大きさと、その原点を知って納得しました。何よりテミスが何時か話した、内に宿る水霊が原生か渡りかの話がまさか此処まで生きて来るとは予想外でした。
「あれ?原生タイプと渡りタイプって……?」
「私達の中に宿ってる水霊の種類よ、馬鹿!私とあんたのは前は違う人間の中に宿ってたから渡りタイプ!リラや潤のは生まれ付きの2人のオリジナルだから原生タイプ!忘れんじゃないわよボケ瑠々。」
「あ、あぁ~…確かそう言う話してたっけ……ってかボケは無いでしょ、ボケは!」
原生タイプと渡りタイプの何たるかを忘れてる瑠々に対して水夏が捕捉を入れているのを他所に、テミスは続けます。
「ユラの代になる頃、既に私は上級の仲間入りを果たしてました。最上級水霊としての高みを目指し、ユラの中に宿りながらその内なる水霊の成長とユラ自身のアクアリウムの覚醒を促したのです。ユラの中での自己研鑽により、お陰で私は上級水霊の中でも一握りの者しか到達出来ない最上級に大きく近付けました。事実上、私はユラを渡りとして最後に宿る人間として見定めていたわ。」
「最上級って……テミスより強くて偉い水霊がいるって事?」
「其処まで行ったらもう完全に水神様じゃん…。」
最上級水霊と言う、最早“水神”としか形容し様の無い存在がいる事に呆気に取られる葵と深優ですが、此処で不意にテミスは本来の水霊としての姿に戻ります。
「テミス、いきなり元の姿に戻ってどうしたの?」
(突然ですが、私の姿を見てどう思うかしら?熱帯魚に詳しい人間なら、シクリッドとグラミーと言う二種類の魚を合わせた様な姿だと思うでしょう?)
「ね、熱帯魚には詳しくないけど、確かにテミスみたいな姿の魚は実在しないと思う……。」
リラの率直な感想に対するテミスの回答はこうでした。
(まぁ実在しない魚と言うのは確かね。何故なら私のこの姿は………私ともう1体、ユラの水霊が1つになった姿だからです!)
「「「「「「「「「「えぇっ!?」」」」」」」」」」
テミスの思わぬカミングアウトに、一同は目が点です。まさか彼女のキメラ的な外見がユラの水霊との合体だったとは……。
それと同時にテミスの身体から更に同じ位大きな水霊が分離しました。形状としてはコバルトブルーシクリッドに近い姿ですが、コバルトと言うよりインディゴに近いカラーリングでした。
「こ…これが、お祖母ちゃん本来の水霊!?」
「そうよリラ。名前は『アルテ』。そして皆さんもご覧なさい。あれがテミスの本来の姿よ。」
ユラの内なる水霊であるアルテを分離させたテミスの原初の姿は、文字通りコバルトブルーと呼ぶに相応しい青いグラミーでした。コバルトブルー・ドワーフグラミーかブルーグラミーで判断が分かれる外見です。
ともあれ、自身の中の真実を暴露したテミスはすっかり得意気になり、自身の改名を高らかに宣言します。
(フッフッフ………これまで皆さんは、アルテを取り込んだ普段の私の姿をテミスと呼んで来ましたが、その呼び方は適切ではありません。真実を知ったからには、これから私の事は『アルテミス』と呼びなさい!)
「「「「呼ばない!」」」」
「「「「「呼ばないわ!」」」」」
「呼ばねーよ!」
ですが秒であっさり却下されてしまいました。
(えぇ~…それは残念………。)
「もう皆、お祖母ちゃんの水霊と合体した普段のテミスの姿をテミスのデフォルトだって認識してるし、何よりもう皆その姿の貴女の事を“テミス”って呼び慣れてるんだから、今更改名なんて無理でしょ………。」
(やれやれ…人間の慣れと言うのは実に難儀な物ですね………。)
溜め息を吐きつつ、テミスは気を取り直して再び人間態になると、改めてユラに関する話の続きを語り始めました。
「では気を取り直して言いますが、ユラは素晴らしい水霊士でした。才能も然る事ながら、その力で戦争や飢餓で身も心もボロボロになった多くの人間達を癒し、内なる穢れを取り払って来たのですから。リラ、丁度貴女位の年頃からユラはそうやって既に活動していたのよ。」
「お祖母ちゃん、若い頃そんな事してたんだ……。」
「懐かしいわね…あの頃は日本が未だ戦争の真っ只中で、多くの人が心と身体に穢れを抱えてた……。私は戦火で大事な物を失くした多くの人達の為、自分に出来る事をしたいって思った。テミスは言ったわ。『貴女には万人を癒す、大いなる水の力が眠っています』って…。それを知った時、私は一にも二にもその力を求めた。そして、沢山の悲しみを背負った人達の穢れを取り払い、心の荒みを取り除いて優しい心を思い出させたりもした。思えばそれが私にとっての青春だった―――――。」
目を閉じながら、生前の在りし日の事に思いを馳せるユラの言葉に、リラと潤と更沙は感動を覚えました。
「凄い……凄いよ、お祖母ちゃん………。お祖母ちゃんは立派だよ……。」
「わたしも、同じ水霊士としてそう思う……。」
「私のお祖母ちゃんも、ユラのお祖母ちゃんの事を“親友”だって言ってたけど、本当に立派な人だったんだね……。」
こんな立派なお祖母さんを持ったリラは幸せ者だ―――――その場にいた水霊仲間の誰もがそう思いました。
「人間としては其処は素直に感動する所なのでしょうね。ですがリラ、これを聞いても貴女は、未だユラの事を持ち上げていられますか?」
「え………?」
感動に水を差すテミスの発言に、リラは表情を曇らせます。その口振りから、ユラが何かとんでもない間違いを犯した様な不穏な物言いに聞こえるのは気の所為でしょうか?
「ユラは確かに立派な水霊士でした。上級水霊の力も100%引き出し、扱える程に。然しユラは――――――その所為で寿命を縮めた結果、命を落としたのです。」
テミスの口から発せられたユラの死の真相に、リラは言葉も有りません。テミスが語る傍らで、ユラも申し訳無い気持ちで一杯の表情を浮かべていました。
「どう言う事なのテミス!?リラのお祖母さんが、上級水霊の力で寿命を縮めたって――――?」
みちるがテミスに尋ねる傍ら、リラが上級水霊の力を行使する場面を見ていた葵と深優、そして潤と真理愛は思い当たる節が有が如くピンと来た様子を見せました。
「何だよお前等?何か分かるのか?」
忍が尋ねると、4人を代表して深優が言いました。
「私、リラっちがパパのガンを治療した時にテミスを身体に宿す所を見たんです。」
「私もその様子を見ましたけど、その時リラが使った力はテミスの全部の力の内、たった10%だったそうです。それでもリラ、身体中凄っごい痛そうにしてて超苦しそうでした……。」
「マジかよ……。」
たった10%でも全身が死ぬ程辛い――――上級水霊の力が、人間にとって如何に過ぎた力であるかがこれだけでも伝わって来ます。
「でもあの後、水泳部での練習のお陰で心と身体がその時より強く鍛えられてたお陰で、リラちゃんはゲンムを癒した時にはもっと力を使いこなせてました。忍先輩のお陰です!」
「そ、そうか……。あたしがこいつを鍛えたから、リラも水霊士として成長出来た訳か……。」
「と言っても、私と潤の演奏のバックアップが無かったら、リラさんはあっと言う間に駄目になってたと思います。やっぱり上級水霊の力は人間が使うと、身体がボロボロになって下手したら命に関わる程危険なんですよ……。」
潤が何とか弁護するも、自分達のバックアップが無ければ危うかっただろう事を真理愛が伝えた為、改めてその場にいた全員が深刻な表情になります。
「潤と真理愛さんの力を借りてゲンムを癒した時、リラは私の力の内の30%を引き出していました。けれど、恐らくこの子だけだったら持続時間は1分も保たなかったでしょう。2人のリップルメロディーが有ったからこそ、リラは身体の負荷を軽くした上で10分以上私の力を行使し続けられたのです。それ程までに強大な上級水霊の力を、生身の人間が100%使い続ければ寿命を縮めるのは当然の事。」
「でもじゃあ、お祖母ちゃんは何の為にそんな無茶を……!?」
幾等水霊士として、穢れに苦しんでる人を癒す為とは言え、そんな禁断の力を使い続けた結果、命を落とすのは正気の沙汰ではない。
その為にあの日、突然自分の前で帰らぬ人になったと思うとリラはやり切れない気持ちで一杯になりました。
数分の沈黙を置いて、ユラは口を開きます。
「―――――助けたかったの。」
「えっ………?」
ユラの発した“助けたかった”と言う言葉に、リラはその藍色の瞳を大きく見開きます。
そんな彼女の目を、同じく藍色の海の瞳で見つめながらユラは続けました。
「私は、自分の目に映る全ての穢れを綺麗にしたかった。穢れに苦しむ人達を視界から消したかった!目の前で穢れに苦しんでいる相手がいたら、真っ直ぐ何処までも駆け付けてその穢れを取り払わずにはいられない!それがアクアリウムの力に目覚め、水霊士となった私の中で目覚めた使命だった!リラ、貴女だってそうして来たでしょう?」
「!!!」
ユラから指摘され、リラはハッと思い出しました。確かに、初めて理緒奈の取り巻きを癒した時も多少強引では有りましたが、それも『彼女達を穢れから解放したい』と言う想いからでした。虐めとの戦いを終えてからの残りの中学生活でも、卒業後に霧船に入ってから今日に至るまでの活動でも、穢れで苦しむ者を見たら放ってはおけない。皆綺麗にして自他共にスッキリさせずにはいられない!
自分は街の穢れを浄化する“濾過フィルター”になる―――――これまで自分を突き動かしていたその想いは、自分の意思で決めている様に見えて、本当は水霊士としての能力から来る物だった!
その事実に気付かされ、リラは14億立方km分の海水を頭に一気に浴びせられたかの様な衝撃を受けました。
同時に、過ぎた才能と言うのは運命と化してその人間の思考を支配し、その力を使う事に人生を費やさせて他の可能性を潰す諸刃の剣である事がユラの話からも分かるでしょう。
ユラは尚も続けます。
「上級水霊の力を使って、工場の排水で汚れた水を何度も浄化した事も有ったわ!私の身の回りの皆が、穢れに苦しまない様に!街に洪水や津波が迫れば、犠牲者が出ない様にテミスやセドナ達の力を何度も借りた!自分だけじゃなく、皆が心安らかに生きられる様に、私は私に出来る事を全部やりたかった―――それだけだったのよ…。」
「お祖母ちゃん……!」
その言葉を受け、リラは目から涙が止め処無く溢れるのを感じていました。ユラは人を癒す為だけでなく、ずっと人間を守る為に戦って来た――――その事を彼女の言葉で悟ったからです。
「子供処か孫の顔も見れずに死ぬ物と思ってたけど、結婚してミラが生まれて、ミラが結婚してリラが生まれて、私は幸せだったわ。ずっと見れない物と思っていた孫の顔が見れただけでも、私には奇跡だった!だけど………」
「だけど?」
首を傾げるリラに対し、不意に自虐気味な笑みを浮かべながらユラは言いました。
「流石に孫が大人になって、花嫁衣装を着る所を生きて目にする事は出来なかったわね……。」
切ない表情でミラを見つめてそう言い切るユラの姿を受け、忍は彼女をずっと見守って来たテミスに抗議します。
「つーかテミス!お前、リラの祖母ちゃんの事ずっと見守ってたんだろ!?なのに何で何もしてやらなかったんだよ!?お前等の力で寿命とかどうにかならなかったのか!?」
「無茶を言わないで下さい。私達水霊は水に生まれた命の営みを見守る存在ではあっても、その生き死にまではどうする事も出来ないの。私達上級の力を使い続けた結果、ユラが長く生きられないと言うのなら、残念だけどそれが運命と割り切るしか無いのです!」
「だからってこれじゃ、リラの祖母ちゃんは水霊士としての使命に殺された様なモンじゃねぇか…!!それでリラがあんな辛い想いを味わう事になるなんざ………幾等何でもあんまり過ぎるだろ!!」
やり場の無い悲しみと怒りに身を震わせる忍の姿を受け、次に口を開いたのは葵でした。
「テミス、リラに水霊士としての使命を背負わせるのを条件に自殺し掛けたリラを助けたって言ってたよね?でも、リラのお祖母ちゃんは水霊士として頑張った所為で死んだんでしょ?なのに水霊士の使命を背負わせるって事は、リラにも同じ様に生きて死ねって言うの……?」
「葵ちゃん、それは……」
静かに、然しやり場の無い怒りにも似た感情を静かに滲ませながら、詰る様に葵がテミスに尋ねます。
「葵さん、それに関しては私も心当たりが有るわ。」
「真理愛先輩?心当たりって何ですか?」
すると其処へ真理愛が割って入り、潤と一緒にゲンムを癒した時の状況を改めて伝えました。
「この前、私と潤はリラさんと一緒に大きな亀の上級水霊を癒したの。確かゲンムって言ってたけど。」
「その水霊、身体中に酷い穢れを溜め込んでたの。わたしと潤とリラちゃんで何とか癒せたけど、テミスと同じ位凄い水霊を穢れで蝕む程とんでもない何かがこれから動き出そうとしてるらしいわ。それが何なのかまではテミスも教えてくれなかったけど……。」
「「「「「「「!?」」」」」」」
真理愛と潤の話を受け、残る葵、深優、更沙、瑠々、水夏、みちる、忍の7人は唖然となりました。
まさか上級水霊を穢れで苦しませる程の強大な化け物がいるだけでも既に驚きでしたが、この事実と話の文脈から導き出される仮説は1つ!
テミスは、そんな化け物をこれからリラに対処させる為に彼女を水霊士にしたのではないか?
そんな考えが一同の脳裏を過った時、真っ先に動いたのは忍と葵でした。
「冗談じゃねぇ……ふざけんじゃねぇぞてめぇ!!そんな恐ろしい化けモンとリラを戦わせる為にこいつを水霊士にしたってのか!?こいつに水霊士としてお前等の為に死ねっつーのかよ、この偽善者野郎がァァァッ!!!」
「そうよ!リラは私達の大事な友達なのよ!?それをあんたの勝手な都合で死なせるなんて私、絶対許さないから!!」
「止めて葵ちゃん!!忍先輩も!」
リラの制止を無視し、険しい表情で胸ぐらを掴んで詰め寄る忍とそれに続く葵ですが、対するテミスは真顔で忍にこう返します。
「忍さん、私がリラを助けて水霊士にしなかったら、貴女は穢れ水霊の所為で大好きな水泳も出来ない処か、今頃自殺していたのですよ?」
「ぐぅっ……!!」
アキレス腱処か心臓も同然の急所を突かれ、忍は悔しそうにテミスから手を放すしかありませんでした。
依然、凪の如く落ち着いた表情のテミスは、尚も納得行かないと言わんばかりの表情を浮かべた周囲の水霊仲間達に言い放ちました。
「それにリラもリラで、私からアクアリウムの力を授けられる事を納得の上で全てを受け入れたのよ。仮に虐めで追い詰められて苦しいって言うその場限りの感情からだったとしても水霊士として戦う道を選んだと言う事は、この子も穢れを浄化する濾過フィルターとして生きる覚悟を決めたと言う事!それがユラの様に命を削ってまでやりたい事かどうかは別としても、自分の使命として受け入れたのは間違い無いわ。それを偶々リラの傍にいた所為で水霊の世界を覗いて、そのままなし崩し的に足を踏み入れただけの一般人の貴女達にとやかく言う資格など有りません。ついでにそれを言ったら潤だってそうです。この子が水霊士になると決めたのは、この子がその素質が有って尚且つ『リラの力になりたい』と志願したからで、それを受けて私は力を授けたに過ぎません。断じて強要した訳では無いので誤解しないで欲しいわね。これだけでも私が素質有る人間なら、誰でも水霊士にしている訳では無い事が分かるでしょう?リラや潤が自分で納得して選んだ道なのに私を非難するなんて、筋違いで無意味も甚だしいですわ。それこそこの子達の決意への冒涜と言う物だしこんな所で今更、見当違いな感情論をぶつけられても正直迷惑と言うのが本音ね。」
鉄砲水の如く次々と押し寄せるテミスの言葉の奔流に、葵達は何も言い返せずに押し黙る事しか出来ませんでした。
確かに、過去の話を聞く限りリラが水霊士になったのは彼女が自ら選んだ道で、テミスは単に力が欲しいか訊いただけ。尤も、シチュエーションが川に飛び込んで自殺すると言う他に選択肢の無い場面で都合良く出て来ている手前、“卑怯”と一矢報いる事は出来るでしょう。
然し、それは虐めと言う理不尽の嵐に翻弄された末に生きる為、戦う為に水霊士としての使命を受け入れたリラの気持ちを否定する事に繋がりかねません。どの道、リラと関わらなければ只の友達が関の山で、そうでなければ道で擦れ違うだけの見ず知らずの他人と殆ど変わらなかった葵達に、リラの人生の決断をどうこう言う資格は最初から無いのです。
テミスからの論破を受けて険悪な空気がその場に充満する中、それを破って再び口を開いたのは葵でした。
「それでも……それでも私、水霊士の使命の為にリラを死なせたくない!!」
そう叫んで葵がリラの肩を強く抱くと、深優と更沙もそれに続きます。
「そうだよ!リラっちには私達と一緒に生きて、幸せになって欲しい!!」
「私達に出来る事が有るなら、喜んでリラの力になる!」
1年生の親友達の熱に当てられてか、忍とみちると瑠々と水夏の先輩4名も負けじとリラを囲んで言いました。
「こいつはあたしの大切な愛弟子なんだぞ!?それをお前等の都合で死なせる真似なんかさせるかよ!!」
「確かにリラと廻り会って、水霊の世界に足を踏み入れたのは偶然かも知れない!だけど、こうやって同じ秘密を共有し合う仲間になれたのは絶対に意味が有る!!それに私、忍の事を助けて貰った恩だって未だリラに返せてないの!!その恩を返し終わるまで、私はリラには死んで欲しくないし、傍にいて出来る事なら全部してあげたい!!」
「わたしもリラの事、もっと知りたいし一緒に色々と楽しい事がしたいの!!この子が水霊士でも何でも関係無い!!リラはわたしが守る!!」
「私もその点だけは瑠々と同じ…。リラの孫が大人になってウェディングドレス着る所を見るまで、一緒に生きてたい……!!」
「み、皆……それに先輩達も…………」
4人が4人とも相当な覚悟と決意を漲らせているのか、全員その豊満な胸を大きく揺らして強く言い切ります。
同級生と先輩達の赤裸々な自身への想いに顔を赤らめつつも、何処か嬉しい気持ちが水底から立ち昇る泡沫の如く湧き上がるのをリラは感じていました。
「わたし、さっきまでの話聞いてて正直、水霊士って怖いって思った……!でも、リラちゃんが水霊士の使命に殺されない為だったらわたし、どんなに大変でも頑張るから!」
「普通だったら一般人のまま関わり合いになりたくない所だけど、リラさんがいなかったら潤とも此処まで仲良くなれてなかったし、忍先輩だって今此処にはいなかった!潤がリラさんの力になりたいって言うなら、私はそんな潤の力になる!只それだけよ。」
(皆さん、リラの為に其処まで…。リラ、貴女は本当に素敵な友達や先輩方に廻り会えたのね……。)
同じ霧船女子学園水泳部に在籍する9人の水霊仲間達の決意を前に、ユラは感動を覚えると同時に或る決心が頭に浮かびました。
一方、テミスは感動にプラスして呆れすら覚えていました。
「…素晴らしい決意表明と言いたい所ですが、では具体的にどうリラの力になる心算かしら?」
「「「「「「「「「あ………。」」」」」」」」」
確かに、リラを水霊士の使命に殺させないと決意するのは結構ですが、では具体的にどう力になるのか?それがハッキリしなければどうする事も出来ません。
「えっと…それは……。」
何とか葵が言葉を絞り出そうとした時です。
「私がリラと1つになります!」
不意にユラが前に出て、テミスに対して力強く宣言します。これにはテミスも目を丸くして呆気に取られた様子でした。
「リラっちと1つに……?」
「あの…どう言う事なんですか、リラのお祖母さん?」
深優と更沙がユラに尋ねると、テミスが気を取り直して説明します。
「言葉通りの意味です。私がユラを内側にアルテと一緒に取り込んでいた様に、ユラはリラのクラリアに取り込まれる事でリラの肉体に宿り、この子と1つになろうとしているの。」
「「「「「「「「「「!!?」」」」」」」」」」
その言葉に、一同はもう何度とも知れない驚きの感情を覚えました。
そんな10人を他所に、ユラはテミスの前に歩み寄って言いました。
「テミス、今までずっと有り難う。貴女のお陰で私は水霊士としても人間としても、凄く幸せな結末を迎える事が出来そうよ。」
「人間って…貴女はもう死んで霊となってますから正式には元人間だけどね……。けれど、本当に良いの?貴女はリラが死ぬまでの間、ずっとリラの中から出られなくなるし、来世に旅立つ事も出来ないわよ?」
「構わないわ。もう死んだ私がリラの為に出来る事が何か考えたら、もうこれしか無いって思ったから。それに、可愛い孫の為なら私は、喜んで自分の身を捧げられる!」
「どうやら本気みたいね……。」
ユラの決意が、本物と呼ぶに相応しい不動の物である事をテミスが感じ取っていたその時でした。
「お祖母ちゃん!」
其処へリラがユラの元へ駆け寄って言いました。
「お祖母ちゃん、消えちゃうの……?」
目に涙を浮かべながら、迷子の子供の様に寂しげな表情でユラを見ると、ユラは優しく微笑んで返します。
「リラ、私は消えない。貴女の中で生き続けるの。それも只、生き続けるだけじゃないわ。私の魂、全てを水霊力に変えて全部、貴女にあげる!絶対にリラを水霊士の使命になんて殺させはしない!」
「聞いて、お祖母ちゃん。」
「何?言ってご覧なさい、リラ。」
「私…正直ずっと自分のこの瞳の色がコンプレックスだったの。『他の皆と違って、どうして私だけこんな目をしてるのかな?』ってずっと思ってた…。中学の時も、それを理由に虐められた事も有った……。だけど、お祖母ちゃんの話を聞いて考えが変わった!この目は、遠い大昔からお祖母ちゃん、そして私に受け継がれた水霊士としての使命と誇りの証だって!」
「リラ……。」
「人の汚い所や醜い所と向き合わなきゃ行けない水霊士としての宿命でも………お祖母ちゃんの話を聞いたらもう辛いとか嫌だなんて思わない!皆の心や身体から出て来る汚れはこの手と目が届く限り、私が全部綺麗にして癒してあげる!そうやって皆をリフレッシュさせて、元気に気持ち良く今日を生きられる様にする!でも、私は自分の事だって今以上に大事にするよ!私が痛みや苦しみを背負ったら、悲しい想いをする人がいるって分かったから―――!」
葵達水霊仲間の顔を1人1人一瞥し、リラは『水霊士としての自分のこれから』をユラに強く語りました。
自分の辛い過去を背負い、涙を流してくれた彼女達の為にも、自分はこれから生きなければならない。ならば周りの人間の穢れを癒す以上に、自分の心身を労わらなければ!
自分を大事に出来ない人間に、他人を真に大事に出来る筈が無い!ユラは自分より周りを優先し過ぎた結果、縮めなくて良い寿命を縮め、結果としてリラを置いて死んだ。
そんな祖母の姿を反面教師に、リラはこれから水霊士としてどう生きて行けば良いのかを見つめ直したのでした。
「リラ―――――その決意は立派だけど、それを実践して行くのは並大抵の事じゃ出来ないわ。これまで以上に心と身体を強く鍛え、水霊士としてももっと力を蓄えないと行けない。その為にも、私がこれから貴女に力を与えてあげるの。」
「お祖母ちゃん―――――。」
徐に葵達の方を向くと、ユラはリラの水霊仲間達に最後の挨拶を告げました。
「皆さん、今日はリラの為に集まってくれて本当に有り難う。貴女達がいれば、この子はきっと大丈夫よ。リラを……私の可愛い孫を、これからも宜しくお願いします!」
「はい、こちらこそ!」
「あぁ、任せてくれ!」
深々とお辞儀をするユラに向け、水霊仲間を代表して葵と忍がそうユラに返すと、ユラは再びリラと向き合います。
「改めて言うわ、リラ…。本当に御免ね、貴女が大人になる前に死ぬ処か、そのまま独りぼっちにさせて辛い目に一杯遭わせて……!!こんな事なら、若い頃の自分をもっと労わっておくべきだった……!!」
今一度、愛する孫娘を抱擁し、涙ながらにユラは言葉を紡ぎます。気が付けば2人の周りをリラの内なる水霊・クラリアが回遊していました。
「だけどリラ、貴女はもう孤独じゃない。私は貴女の中に何時でもいるわ……。これからは、貴女と一緒よ―――――!!」
そしてユラは、アルテと共に身体から眩いばかりのコバルトブルーの光を放つと、そのまま無数の光の粒子となってクラリアの中に吸収されました。
ユラとアルテを内側に吸収し終えると、クラリア静かにはリラの体内へと還って行きました。リラの身体を、溢れんばかりのコバルトブルーの光が覆い尽くします。
(感じる…お祖母ちゃんは私の中に、確かにいる……!温かい…温かいよ……お祖母ちゃん………!!)
やがて全身を包むコバルトブルーの温かい光は消えましたが、リラは暫くの間、胸に手を当ててユラの存在を感じ取っていました。
同時にその様子を、葵達9人は目に涙を浮かべながら静かに見守るのでした―――――。
「葵ちゃん、深優ちゃん、更沙ちゃん……先輩達も、今日は本当に有り難うございました。」
全てが終わり、リラは葵達に深々とお辞儀をして礼を述べました。
気付けば霧船の時計の針は夜中の21時を過ぎており、時間帯としてはもうすっかり夜更けです。
海側から吹く夏の涼しい夜風が、その場にいた全員の頬を撫ぜます。
「良いのよ、リラ。私達もリラの事とか水霊の事とか、一杯色んな事が知れて良かった!」
「何でリラっちや潤先輩が水霊士になれたのかが分かったのが個人的にツボだったなぁ~!」
「今まで虐めとかお祖母ちゃんと死に別れた事とか、色んな過去に囚われてたけど、これでやっとリラも前に進めるのね。」
葵と深優と更沙がそう言って、他の先輩達と校門へ歩いて行こうとしたその時でした。
「ちょっと待ってリラちゃん達!真理愛も瑠々ちゃんも水夏ちゃんも、それに先輩達も!」
不意に潤が、これから家路に就かんとしている他の面々を呼び止めます。
「どうしたの潤?」
「何だよ飯お…じゃなかった、潤?もう話は終わったのに未だ何か有んのかよ?」
真理愛と忍がそう潤に尋ねると、潤は言います。
「リラちゃんの話は終わりましたけど、未だ最後に大事な事が1つ残ってます!」
「大事な事?一体何よ?」
みちるがそう問い掛けた次の瞬間、意を決した潤はその海の瞳でリラを捉えたまま、思わぬ提案をして来たのです!
「わたし、良い事考えました。最後に皆の水霊全員でリラちゃんを癒すのはどうでしょう?」
この潤の提案に、その場にいる全員が足を止めてリラと潤の顔を交互に見遣ります。
「わたし達の水霊で――――?」
「リラを……癒す――――?」
「そうだよ瑠々ちゃん、水夏ちゃん。わたし、さっきまでの話を聞いてて決めたの。水霊士の使命は確かに重いけど、わたしも逃げないでしっかり向き合おうって。その決意表明って言ったら変だけど、リラちゃんと同じ水霊士として今自分に出来る事を考えたら、それが思い浮かんだの!」
「潤先輩……。」
確かな決意と共にそう気持ちを表明する潤の顔を、リラはじっと見つめていました。ついこの前までオドオドしていた気弱な潤とは思えない位、強い覇気が潤から立ち昇る様子が感じられます。
そんな潤の様子を見て、忍はフッと笑みを浮かべて言いました。
「あたし等の手でリラを癒す、か………面白そうじゃねぇか!あたしは乗ったぜ!!」
「忍先輩…!」
「私もやるわ!忍だけに良い恰好はさせないわよ!?リラを大事に想う気持ちは、私だって負けてないんだから!」
「わたしだって勿論やるわよ!今まで散々リラに癒して貰ってたんだもん!わたしも逆にリラを癒してあげたいってずっと思ってた!!」
「今日は私達、珍しく気が合うわね瑠々。私だって、傷付いたリラの事を癒したい!」
「忍先輩、みちる先輩……!瑠々ちゃんに水夏ちゃんも……!」
気付けば何時の間にかリラにぞっこんになってるっぽい先輩カルテット4名は、胸を大きく揺らしつつ声高らかに参加を表明。
果たして残る真理愛と葵と深優と更沙は……!?
「良いわ潤。リラさんの為にも、水霊士としての貴女のこれからの為にも、10体近い水霊位使いこなせなきゃね!」
真理愛はこれをリラの為と言うのも有りますが、潤自身の成長のチャンスと好意的に捉えた上で参加を表明しました。
「「「私達もやります!」」」
やはりと言うか当然と言うべきか、葵達同級生の親友3名も声を合わせて参加を表明しました。
「潤先輩…皆……!!」
潤の提案も然る事ながら、それに乗る葵達の姿にリラは、本日何度目とも知れない目頭の熱を感じました。
何時も皆を水霊士として癒して来た自分が、まさか逆に癒される日が来るとは思わなかったからです。
「真理愛も瑠々ちゃん達も、葵ちゃん達も先輩達も、皆有り難う……!」
葵達に礼を言うと、潤はリラの前に歩み寄り、彼女の手を取って言いました。
「さっ、リラちゃん!一緒にグラウンド行こっ?」
潤に促されて一同がグラウンドへ行くと、リラの周りを葵達が輪になって取り囲みます。
「瑠々先輩、何で裸足になってるんですか?」
何故か瑠々だけローファーを脱いで裸足になってその場に立っていました。因みに靴下は元々履いていませんでした。
気になったリラが瑠々に尋ねると、彼女は何故かドヤ顔で答えます。
「何って?フフン♪決まってんでしょ?これからリラを癒すんだから、わたしの気合とパワーを一杯送んなきゃって…」
「履物嫌いなだけでしょ……。」
「るっさい!!てか人の熱弁邪魔するな!!」
こんな時でも平常運転で息ピッタリな掛け合いをする2人を見て、リラは微笑ましくなりました。
そして潤がアクアフィールド、そしてブルーフィールドを展開すると、その場の葵達の内なる水霊達が彼女達の身体から浮かび上がって来ます。
葵のアンジュ。
深優のブルーム。
更沙のプラチナ。
潤のステラ。
真理愛のシュトラーセ。
瑠々のシュロ。
水夏のレイン。
みちるのノーチラス。
忍のサラキア。
計9体、内原生タイプ5体で何れも中級クラスと言う顔触れが揃う中、潤はその9体を自身の両手の中に集約し、カラフルな虹色の輝きを放つバスケットボールサイズの光の玉を生成します。
「うっ……!?」
「潤先輩!?」
「頑張って、潤!リラさんを癒すんでしょ!?」
「分かってる……わたしだって、やれば出来るんだからあぁぁァッ!!」
扱う水霊が何れも中級でそこそこ力が有る為か、それを複数体操る弊害で若干身体に痛みと疲労感を感じる潤。リラが心配する中、真理愛の励ましでどうにか立ち直ると、真理愛は有りっ丈の力を振り絞って光の玉を前へと押し出します。
その勢いに乗り、9体の水霊達は一斉にリラの元へと殺到。虹色の輝きを放つ特大の光の二重螺旋を形成し、リラを包み込んだのです!
虹色の二重螺旋の中で優しく揺られるリラは、心地良い命の熱が頭の天辺から足の爪先まで隅々と生き渡って行くのを感じていました。
「あぁ……温かい………葵ちゃん……深優ちゃん……更沙ちゃん……。」
「リラ……!」
「リラっち……!」
「リラ……!」
蒼國へやって来た自分に初めて声を掛け、友達になってくれた葵と深優と更沙―――――。
自分の事を疎ましく思わず、懐深く受け入れてくれた彼女達との友情を、リラは生涯忘れないでしょう。
「潤先輩……真理愛先輩……瑠々先輩に水夏先輩……!」
「リラちゃん……!」
「リラさん……!」
「「リラ……!!」」
霧船で最初に癒した潤と、そんな彼女と紆余曲折を経て強い友情を築いた真理愛―――――。
この2人の絆は、リラが潤を癒さなければ決して生まれなかった。潤と真理愛は、切っ掛けとなったリラへの感謝を生涯忘れないでしょう。
最初は取っ付き難い先輩だと思っていたけど、息の合った掛け合いで場を和ませてくれる瑠々と水夏―――――。
リラは2人とこれから先も、それこそ葵達と同じかそれ以上に大切な関係を築いて行く事でしょう。
「忍先輩に…みちる先輩……!!」
「リラ……!!」
「リラ……私達の想い、全部貴女に……!!」
まるで実の家族の様に優しくも厳しく自分に接してくれた、師匠で姉貴分の忍―――――。
その忍を穢れから救う目的の中で廻り会い、自分の理解者になってくれたみちる―――――。
3年生の先輩2人と大恩を分かち合う事で育まれた愛の絆もまた、リラにとって生涯の宝となり、彼女のこれからの人生を照らすでしょう。
クラリファイイングスパイラルの中で優しく揺られながら、9人の水霊仲間達からの友愛を噛み締めて味わうリラ。
これまでの人生の中で感じた事の無い程の、圧倒的次元の幸福感に浸っていると、不意に脳内に声が響きます。
(リラ……。貴女の中に堆積した穢れは、今此処で消し去ってあげるわ!)
「!!?」
脳内に響いたその声は、間違い無くユラの声!そして目を開けた瞬間、リラの視界に飛び込んで来たのは、虹色の輝きを放ったクラリアが勢い良く自身の頭上からリラの身体を貫かんと向かって来る光景でした。
視界が完全に白い光で埋め尽くされ、頭の中からあらゆる思考と言う思考が排除されると同時に、リラの意識は光の中へと溶けて行きました―――――。
全てが終わった後の事です。
「忍先輩、本当に良かったんですか?私と一緒に歩いて帰るなんて……。」
何時もの通り自宅が近い者同士、リラは忍と2人で一緒に家路を歩いていました。
「他の奴等はチンアナゴみたいな奴の作ったワープトンネルで一気に帰ってたみたいだが、あたしはこれで良いんだよ。お前と道すがら、話すのは楽しいしな。」
どうやらあの後、テミスが招聘したリップリスのパドルワープの力によりリラと忍以外の子達は全員、自宅へと空間転移で帰った様です。夜も遅いですし、明日には学校も有りますから当然でしょう。
然し、忍はそれを拒んで何時も通り、リラと一緒に歩いて帰るのを選択した様です。今此処で2人が一緒に徒歩で帰宅しているのはその為でした。
「そうですか。じゃあ何についてお話しします?」
リラが話題について尋ねると、忍は待ってましたと言わんばかりに口を開いて言いました。
「お前が水霊士になりたての頃に、初めて癒したっつー婆ちゃんの話が気になってな……。」
未だ調布に住んでいた頃、初めて自分がアクアリウムを施した老婆について?もしかして中学2年になる年の春休み、多摩川の河川敷で助けたあの老婆の事でしょうか?
「初めて私が癒したお婆さん?もしかして、私が自殺し掛けてテミスから助けられた春休みに、多摩川の河川敷で助けたって言うあのお婆さんの事ですか?」
「あぁ……。あたしの親戚の家が調布にあってさ、其処に住んでるあたしの祖母ちゃんが夜中に散歩に出て、中々帰って来ねぇ日が有ったんだよ。」
「へぇ…先輩にそんな事が……。」
「必死で探し回って漸く祖母ちゃんの事、多摩川で見つけたんだがよ、そん時祖母ちゃん変な事言ってたんだ。」
「変な事ですか?」
「あぁ……『散歩してた時に足を挫いて困ってたんだけど、その時に会った不思議な子から足を治して貰ったの』ってよ。」
「え………!?」
忍から告げられた言葉に、リラは目が点になりました。まさか、自分があの時助けたお婆さんって………?
もしそうだとしたら、自分があの時あのお婆さんから貰ったネックレスの片割れの持ち主はまさか!?
顔がクマノミの様に赤々と染め上がって行くのをリラは感じつつ、最後の事実確認の為に忍に質問を投げ掛けます。
「あの…忍先輩……もしかして、ですが………」
「何だよ?」
「『赤い魚のネックレス』とかって、持ってたりします?」
「赤い魚のネックレス?あぁ~~……あたしは身に着けちゃいねぇが、部屋の机の引き出しン中に入れてるぜ?ウチの祖母ちゃんから貰ったモンだが、あたしの趣味じゃねぇからな。」
「そ、そうですか………。」
ほぼ確定でした。どうやら自分があの時初めて癒した老婆は忍の祖母である可能性が、リラの中でこの上無く濃厚となって行きました。
「そう言や祖母ちゃん、言ってたな。足を治してくれた奴に青い魚のネックレスをお礼にプレゼントしたってよ。」
「!!!」
完全にリラの中で全てが繋がりました。どうやら間違い無い様です。自分が初めて癒した相手は忍の祖母!そして赤と青の魚のネックレスは、自分と忍がそれぞれ持っている!
そしてネックレスをそれぞれ身に着けた者同士は、惹かれ合ってずっと結ばれるとの事!それはつまり、比翼連理の関係となって添い遂げると言う事に他なりません。
「…つーか何でお前、あたしが赤い魚のネックレス持ってる事知って…」
「あぁ~~~~~~ッ!!明日の学校の準備が未だ終わってませんから私、早く帰りま~~~~~~~すッ!!!」
忍の言葉を大声で遮ると、リラは顔を真っ赤に赤らめつつ、不意に猛ダッシュでその場から逃走。
「あっ!?おい、コラ!!待ちやがれ~~~~~~~~~ッ!!!」
「持ってないです!持ってないです!青い魚のネックレスなんて私、持ってないですから~~~~~~~~ッ!!!」
「逃げながら何訳分かんねー言ってんだオメェ~~~~~~ッ!!?つーか未だ話、終わってねーだろーが~~~~~~~ッ!!!!!」
「アハハハハハハハハハハハハッ!!人間ってやっぱり面白い♪って言うかリラ、もう少し素直になった方が良いわよ♪」
そんな2人の遣り取りを、真実を知るテミスは少し離れた上空から眺めつつ、腹を抱えて笑い転げていました。
因みにその後、リラは逃走劇の末に敢え無く忍に捕まってしまい、一連の真実を暴露。
忍の祖母を癒したのが自分である事と、その時のお礼に赤と青の魚のネックレスの内の青い魚の方を貰った事を白状したのでした。
忍は当然ながら驚きましたが、それを受けて翌日から2人は赤と青の魚のネックレスをそれぞれ首に掛けて登校する様になりました。
魚のネックレスに関しての件は2人だけの秘密と言う事で、リラと忍の親密度はより上昇。帰り道でも手を繋いで帰る事が多くなりましたとさ。
めでたしめでたし♪
次回からいよいよ新章に突入!
少しだけネタバレしますと、次章からは内海レンが水霊士に覚醒しますが、本作史上初のとんでもない大事件が起こってしまい……!?
さぁ一体どうなるのか!?次のエピソードもどうぞお読みになって下さい!
Don't Miss It!!




