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週末限定レンタル勇者  作者: 暮先 冬夜
週末限定レンタル勇者 一章
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炊き出しと説得準備

 翌日は朝から肉体労働だ。剣吾と一緒に村の広場にブロックを組んで、釜を幾つも設置する。周りに集まる村人達を長老に任せて米を研いでいると、ラルドさんが数人と一緒に薪を運んでくる。

「勇太さん、剣吾さん。これは?」

 不思議がっているラルドさんに剣吾が説明する。

「これから米を炊くんだ。最初に少しだけ薪を燃やして本番用を乾燥させよう」

「悪いな剣吾。そっちは頼んだぜ」

 釜とは反対側で焚き火をして、急いで乾燥させてもらう事にする。何が始まるのかと村人達がざわついているから、俺は紙を丸めて即席メガホンを作って言う。


「聞いてくれ。今から飯を炊く。この前植えた植物の基本的な食べ方だ」

 一旦言葉を止めて見回す。ちゃんと聞いているようだ。

「炊き方にコツが必要だから、俺と剣吾でやるけど、おばちゃん達に覚えて欲しい。それじゃあ始めるぞ」

 俺が薪の量を変えて火力調整をする横で、剣吾がおばちゃん達に詳しく教える。俺も剣吾も種類こそ違うが、長く武術を学んでいたから、合宿とかでよくやらされた。

 だからそれ程苦労しない。釜だから流石にキャンプとかに比べると、難易度は上がるけど。おばちゃん達が真剣に聞いているから、二回目はやらせるか。

 そんな事を考えながら作業をしていく内に、最初の分が炊き上がる。釜のふたを取ると、いい匂いが立ちのぼる。くう、このまま漬け物とかで食べたいなあ。


「おい勇太、摘み食いすんなよ?」

「な、何の事だ!そんな訳ないだろ」

「まあ気持ちは分かるぜ。ほら、次の作業始めるぞ」

 剣吾に指摘されたというか釘を刺されたから、仕方なくおにぎりを作る用意をする。またメガホンで皆に聞こえるように言う。

「子供から順に並んでくれ。おにぎりを渡すから、食べてみて欲しい」

 子供からって言ったけど年齢が分からないから、とにかく作っては渡した。でも村人達は、手渡されたおにぎりを眺めるだけで、食べようとしない。


 何かきっかけがないとだめなのか?前回みたいにユレアに頼む事も出来ない。

 困る俺の視界の端に仲良く並んで、おにぎりを食べる寸前のサンチョス達が居た。

「サンチョス、待て。ミリーとヨハンもこっちに来てくれ」

 多分あの三人なら、迷いなく食べてくれるはずだ。デモンストレーションに利用させてもらおう。村人達が怪しむのは理解出来るけど、気にいるかどうかリサーチが必要なんだ。


「サンチョス。食べたら皆に感想を言ってくれ」

「分かっただあよ、勇太兄ちゃん」

 狙い通りにいった。村人達はおにぎりを追加で欲しがるから手伝わせよう。

「まだ米はあるから皆でやろう。女の子達はおにぎりを一緒に作ろう」

 女の子達に教える俺とは別に、剣吾は次の仕込みをおばちゃん達と始めていた。何度かやらせてみたら、おばちゃん達はちゃんと出来るようになった。上出来だ。


 村人達を夕方近くに解散させた後で、広場で剣吾と休憩していると長老が薬草茶を運んできた。

「勇太殿、剣吾殿。お疲れでしょう」

 昨日は早めに寝たから何も口にしていない。初めて薬草茶を飲んだ剣吾が呟いた。

「へえ、意外にいけるな。このお茶」

「そうだろ?俺、結構気に入ってるんだ」

 温かいお茶でのんびりしていたら天馬が直接降りてくるのが見えた。

「勇太!見たか、見たか?すげー!って、お前テンション低いな…」

「もう慣れた。俺に懐いてる羽馬がいるしな」

 ユレアが手を振りながら歩いて来るけど、表情が暗いから捜せなかったんだろう。


「…遅くなってごめんね勇太。こっちの人を紹介して?」

「俺、一戸剣吾!ユレアさんだよな?」

 俺が言う前に自分で話してる剣吾に、最初の俺を思い出した。

「ユレアって呼んで欲しいな。あたしも剣吾って呼びたいから。だめかな?」

「もちろん大丈夫!勇太と一緒に頑張るぜ」

「ふむふむ、剣吾殿も女神様と馴染んで頂けてなにより。ところで勇太殿…」

「どうした?長老」

「…ここではなんですからな、戻りましょう」

 俺の問い掛けに少し声を落として、サンチョスの家に行こうと言う長老の様子に不安がよぎる。内容は分からないが問題が起きたんだろう。


 長老と戻ると見慣れない人物が二人居た。レタスタ村、ソンノ村の村長だと紹介された。俺達と一緒にいたユレアを見て祈りを捧げている。

「勇太殿、剣吾殿。彼等の意見を聞いてはもらえんか」

 長老の頼みに俺と剣吾は、顔を見合わせてから頷いた。話は単純だった。協力するから自分達の村も助けてくれって事だ。こういう交渉は俺よりも剣吾がいいだろう。

「剣吾、頼むわ。俺は長老と話があるからさ」

「分かった。任せとけ。そっちこそ、例の件頼んだぜ?」

 お互い片手を上げて取りかかった。

「長老、ユレア。こっちに来てくれ」


 二人を広間の端に連れて行き、小声でこの後の段取りを説明する。

「ラルドさんに色々調べてもらう時から、予測はしていたんだ。他の村から文句が出るんじゃないかってな」

「なるほどね。それであたしや長老は何をするの?」

「お二方共、申し訳ない。…このままでは話しづらいので、座って頂けると助かるが」

 申し訳なさそうに言う長老を見て気が付いた。身長差を忘れていた。三人で内緒話をする為に、俺とユレアは 座り込んだ。


「ユレアは前と同じように苗を育てて欲しい。見た目は同じだけど、田植えの時期が違う物を、今度持ってくるから」

 ユレアが少し首を傾けている。やっぱり可愛いと思うけど、そんな事口にしないし、極力表情にも出ないように注意した。

「植える時期が違うって事は、当然刈り入れも違うのよね?」

「そうだ。タレサビの分は青の月最後に刈り取るけど、今度のは藍の月の最後になる」

 長老が指折り、日数を計算していた。本当は同じ種類が良いけど、時期的に無理がある。


「長老に頼みたいのは他の事なんだ…」

 そう言ってから俺は他の村の村長を見る。剣吾が上手く説明しているのか、真剣だけど安心した様子で聞き入っている。同じ方を見た長老が言う。

「…次回までに、二つの村に水田を作らせておくんですな?」

「半分は正解だ。明日俺達と一緒に、二つの村を回って説明をして欲しい。出来れば米の旨さも伝えてくれ」


 今回剣吾と一緒に来る時に、少しだけ時間があった。事前に俺の話を聞いていた剣吾は、他の村から苦情が来た場合を心配してくれた。

 二人で話し合って、文句が出るなら他も巻き込めばいいじゃない!という結論を出していた。

「そうですな…彼等は納得していますが、村人の協力がなくてはいけませんからな」

「あたしも一緒に行って良い?…あの娘が見つからなくて…少し気分を変えたいから。だめ?」

「その方が効果ありそうだから、いいんじゃないか?剣吾も反対しないだろ」

 しばらくして二人の村長は帰って行った。俺達は翌日の打合せを済ませた。

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