皆で自己紹介
「勇太兄ちゃん、いらっしゃいだあよ。…?誰?」
転送が終わるとサンチョスが元気に出迎えてくれるが、剣吾が一緒だから疑問顔だ。
「サンチョスこれ運んでくれ。こいつに関しては後で紹介する、これお前とミリーにだ」
サンチョスにパン屋の袋を渡してやったが、速攻でミリーが走り寄ってきて奪っていった。食い物が絡むと本性が出るんだろうか、ミリーは子供のはずなのにちょっと怖い。
将来はサンチョスに色々ねだるようになるんじゃないか?剣吾が持っていた台車を運ぶサンチョスの背中が、しょげているように見えるのは俺の気のせいか。
「おお、ドワーフか?勇太、ここって本当にドワーフの村なんだな!」
剣吾があちこち見ては騒いでいる。この調子じゃあノアールに乗せたら、騒ぎ過ぎで落ちるんじゃないかと思えてくる。
「落ち着け、剣吾。確かにドワーフ達の国で、タレサビっていう村だ。」
地方から都会へ出てきた若者みたいな反応の剣吾につっこみを入れる。
「勇太殿、そちらの方はどういったご関係ですかな?」
長老が待ち構えていたかのように話し掛けてくる。ユレア達がいないけど、紹介してしまおうか悩む俺の袖を剣吾が引っ張る。
「何だよ剣吾、どうした?」
「なあ勇太、言葉が分かるぞ?お前は腕輪があるから不思議じゃないけど、俺は何でなんだ?」
剣吾の奴…ちゃんと話したのに忘れたのか?多分そこは聞いてなかったんだろうな。
「言ったじゃないか、召喚の影響だって。多分だけど、俺と一緒に来たからじゃないか?」
「そんなもんか。便利だから良いか、駅前留学とか面倒だもんな」
異世界語なんてどこの駅でやってくれるんだよ…こういう場合には剣吾は深く考え込まないから、説明とか手間が省けて助かる。
長老は俺と剣吾の話が終わるまで、口を挟まないで待っていてくれた。
「済まないな長老。紹介しようと思うんだが、ユレア達は明日になるのか?」
「女神様方は明日の夜になるそうです。…孫の女神様の気配が強く感じられたそうなので」
「そうか…」
妹にあたる女神が行方不明なのは聞いている。可能性があるなら探しに行くだろう。こっちはやれる事をやるだけだ。
「それじゃあ、皆集まってくれるか?」
広間のテーブルにサンチョスの家族が皆揃った。俺は剣吾を手で示しながら紹介する。
「こいつは俺の一番の友達で、剣吾だ。これから俺と一緒に色々手伝ってくれるから、よろしく頼む」
「俺は一戸剣吾って言うんだ。勇太から話は聞いてる。村が潤うように手伝うぜ、よろしくな?力仕事が得意だ」
俺が敬語で話していないせいか、剣吾も普段と変わらない口調になってしまった。だがこういう時は、大人よりも子供の方が早く馴染む。
思った通りサンチョスが一番に反応した。
「剣吾兄ちゃんって呼ぶだあよ。おいらサンチョス、こっちは嫁子のミリーだあよ」
「ミリーです。旦那様と一緒にお手伝いします、よろしくです剣吾さん」
サンチョスとミリーの言葉にチラッと横を見ると、俺の予想通りに剣吾が目を見開き固まっていた。次に言うだろう言葉も大体想像が付く。
ギギギ、っと音がしそうな感じで首だけ動かして、剣吾が俺を見る。
「ゆ、勇太…今のは聞き間違いか?嫁って聞こえたんだけど…?」
俺は何も言わずに剣吾に向けて肩を竦めて見せた。剣吾は途端に燃え尽きた感じでテーブルに突っ伏した。ちなみに剣吾も彼女居ない歴は年齢だ。
会社を継いでその運営と勉強だけで精一杯だったから、探している余裕なんて無かったらしい。気持ちはよく分かるぜ親友。そう思いながら剣吾の肩を叩いてやった。
ずっとへこまれては作業効率が下がるから、気持ちを切替えてもらわないといけない。まあ流石に社長なんてしているだけあって、色々な事に慣れている剣吾の立ち直りは俺の時よりも早かった。
大人組は長老が最初に名乗った。その後はラルドさん達だ。
「儂はこの村の長老でハンスと言います。よろしくお願いしますぞ、剣吾殿」
「俺はラルドと言います、剣吾さん。サンチョスの父です。勇太さんには色々助けてもらっています。何でもするので遠慮無く言って下さいね」
「私は母でエーメです。よろしくお願いしますね」
「ハンスさんが長老で、ラルドさんにエーメさんか。よろしくな!サンチョスとミリーもな!」
笑顔で親指を立ててみせる剣吾に対して、子供組は手を挙げて笑顔で返事を返している。これなら打ち解けないかも知れないって心配は要らないだろう。
そのまま剣吾が菓子の箱を一つ開けて二人を驚かせていた。サンチョスとミリーに菓子を与える剣吾を眺めながら、俺はラルドさんと長老を手招きする。別の問題で彼等に頼み事をしておかないといけないからだ。
「長老。これから俺と剣吾は休ませてもらうんだが、明日の朝村人に説明をしてもらいたいんだ」
「承知しました。納得させておかねば後に問題になるかもというわけですな?お任せ下され。見たところ今回も良い目にあえそうですしな」
長老は髭を触りながらニンマリとして荷物の山を見ている。現金だなあと思うが根回しは必要だと思うから見なかった事にする。
「ラルドさんには別の事をお願いしたい。明日は薪が必要になるから、分けてもらうか切ってきて欲しい」
腕を組んで考え込んでいたラルドさんは俺を見る。
「薪は備蓄しませんから、腕っ節の良い奴らで前回の丸太をバラしておきます。もう休んで下さい」
生木になるけど仕方ないな、これで今日出来る下準備は終わりだ。二人に礼を言って剣吾の方へ行く。
「ありがとう二人共、それじゃあ遠慮無く休むよ。おい、剣吾。そろそろ寝ておかないと明日が辛くなるぜ」
「おう、そうだな。お前ら明日もよろしくな」
ビシッと敬礼するような仕草でサンチョスとミリーが剣吾に言う。
「はいだあよ、剣吾兄ちゃん」
「はいです、剣吾さん」
俺はジト目で剣吾の頭に軽く拳を当てる。
「いつの間にそんなポーズ教えてんだよ!油断も隙もねえなお前…」
「いいじゃねえか、この位。そんじゃお休み」
俺達は寝室に向かった。明日は炊き出しだ。




