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週末限定レンタル勇者  作者: 暮先 冬夜
週末限定レンタル勇者 一章
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丸め込まれた気がするが、一緒に行こう友よ

「お茶でも飲んで、お菓子食べて聞いてくれればいいよ。まず最初にあった話は新しい挑戦と販路拡大の為に、海外への進出をしようというものだったんだ。後は谷崎君が教えてくれるよ」

 青山さんの後を谷崎さんが引継ぐ。

「久し振りだな高野。話の続きだが、構想自体は先代の頃からあったんだ。急な代表交代で流れたが、本当はそれだけじゃなかったんだ」

「それだけじゃないっていうのは何ですか?」

 俺が聞き返すと何故か谷崎さんも苦笑いだ。

「固い言い方するな、いつもみたいでいいだろ。話逸れたな…二代目社長にはついていけないと言って、離反した社員が多くてな。それで暫くは無理だろうということになった」

 やりきれない何かを感じながら剣吾を見たら、以外なことに笑っていた。

「気にすんな、もう終わったことだしな」

「そうか…」

 やっぱり剣吾は強いと改めて思う。俺だったら心が折れたかも知れない。


 俺が再度谷崎さんを見ると続きを話してくれる。

「まあ自分達も居たし、離反したのは数名だからな。先に社内改革と二代目の為の基礎固めとか色々をやったわけだ。それで去年にやっと手を出せると思ったが問題が発覚してな」

 何だろう嫌な予感がしてきたけど、気のせいで終わって欲しいな。

「離反した奴らが担当になるはずだったんだが、辞める時に集めていた資料を全部消していったんだ…証拠を掴んで賠償させたけどデータは戻らなかったんだ」

 最悪だなあ。折角苦労して集めたのにな。そいつらだけじゃなくて、きっと他の皆も協力していただろうに…。変な顔をしていたのか谷崎さんに笑われた。

「そういう反応が出来る高野だから、この先の話をするんだけどな。今から新しくデータを集める必要と、人材の確保が必要なんだ」

 今まで黙っていた関口さんが話し始める。

「前回の件もあってな、剣吾の事をよく知っている奴に任せたいと思うんだ。もうお飾りの社長じゃないのは社員は皆知っている。だが新人はそうじゃねえ。この前も俺の所の新入社員が、ふざけた事をぬかしたから別部署に飛ばして反省中だ」


 三人のおやじさん達が義理に厚いのは知っていたけど、新人にそこまでしちゃうんだ…でも首じゃないのは教育する予定なんだろうな。

 でも俺の話と結び付かない気がする。

「それでな?剣吾から聞いたが、勇太は商社の営業だよな?社会人一年生だな?しかも最近短期の海外ボランティア活動を始めたらしいな?」

 そこでそうくるのか?俺が慌てて剣吾を見たら、むかつくことに嬉しそうにしていやがる。

 罠にはめられた気がするが、このままだと面倒になりそうだから諦めてもらおう。

「ま、待ってくれよ。まさかと思うけど、剣吾をそれに連れて行けって言うのか?仕事困るだろ。それに俺はまだ新人で世の中の事も分かってないんだぜ」

 結果としては俺の訴えは関口さんに切って捨てられる事になった。

「どうせ海外に行くんだから、どんな物が売れるかの調査をして欲しいんだ。剣吾を同行させて欲しいのは、予定している海外向けプロジェクトを、二代目が成し遂げるっていう必要があるからだ。まあ勇太に便乗して、勉強させたいわけよ」


 何となく話が見えてきた。先代がやりかけていた話なら、取引先が知っていた可能性は高い。

 でも剣吾が社長になってから評価が下がったんじゃないだろうか?周りから大丈夫だろうかという疑問を持たれているということか。

 それで頑張っておやじさん達が剣吾を育てて、成長した剣吾が大きいプロジェクトを達成すれば、取引先の不安を払拭出来るわけだ。

 考え込んでいる俺に青山さんが言ってくる。

「こんなことを言うと何だけど。あの頃に坊の事情を理解した上で、友達になってくれたのは勇太君だけでね…仕事面は私達が全面的にバックアップするよ」

「高野以外の奴に二代目のことを頼む気にはならん」

 谷崎さんにも言われて困る俺に、関口さんがたたみかけてくる。

「それとな勇太。今すぐ会社を辞めろってことじゃない、今の会社で何年か勤めて修行してこい。それからこっちに来るか、残って取引先として剣吾と一緒にっていう選択をすることも出来るぞ…どうだ?」


 三人に言われて、白旗をあげる用意をしながら俺は言った。

「…分かったよ。剣吾は親友だし、社会人の先輩だからね。手伝うのは良いよ…先の事は保留で。今の会社で役に立つ事から始めたいから、そうじゃないとこっちでもお荷物になるからさ」

 おやじさん達はほっとしたような顔になった。断られたらとか緊張してたんだと気が付いた。

 剣吾を見たら更に嬉しそうにして、俺にだけ聞こえる程度で言った。

「な?大丈夫だろ」

 同じように小さく返してやる。

「あーはいはい。俺の負けですよ…あっちでもしっかり働けよ?」

 話の後は別の場所に移動してご飯を食べさせてもらった。部屋まで送ってくれるという関口さんを断って剣吾の車で戻った。


 途中で近所の商店街に寄ってもらい、閉店間際でパンを買った。時間制の駐車場に留めて二人で荷物を降ろす。

「何でこんなにあるんだよ。俺の部屋にあるのと合わせたら持ち運べないぜ?」

「大丈夫だって、これを使うからさ。ほい、これ勇太の分な」

 剣吾に渡されたのは折りたたまれた台車だった。樹脂製の軽くて頑丈なタイプだ。

「なるほどな。これなら沢山あっても何とかなるな」

「まあな。昨日運んだ分はそっちに乗せてくれよ。じゃ時間まで勇太の部屋で待機だな」

 部屋に戻ってから荷物の中身を教えてもらった。

「これさ何が入ってるんだ?結構重いけど」

「ああ、昨日の分なら中身は米と釜が幾つかだ。後は塩が少しとコンクリートブロックだ」

 剣吾が話す中身で思い付く事があった。

「そういう事な。キャンプみたいに外で飯炊こうって事か。塩しかないのか?海苔は?」

「今回は塩だけだ。先に味が分かって気に入ったら、水田の世話にも気合いが入るだろ?」


 確かにと思う。そういう意味では塩おにぎりは最適かも知れない。でもそれにしては荷物が多い。

「こっちは分かったけど、そっちのは?今日持ってきた分は何だ?」

 剣吾は箱を開けて中を見せてくれた。覗き込むと色んなお菓子が詰まっていた。全部剣吾の会社で作っている物だ。他の箱も同じだった。

「これいいのか、商品じゃないのか?金銭面で言うと本気でボランティアだぞ?」

 タレサビ村は貧乏だ。近くの二つの村もあまり違わないらしいから、謝礼は期待出来ない。俺の給料じゃ代金は払えない。

「問題ねえよ。規定の重量じゃなかったり、途中で形が悪くなったりの規格外品だからな。食べてもらえるなら良いんだ」

 綺麗な形じゃないだけで、数グラムしか違わないのに。たったそれだけで流通に乗せられないらしい。品質と味は問題ないのに勿体ない。

 大体は従業員のおやつになったりするが、余る時は廃棄処分にしていると聞いた事がある。

「こっちのお菓子を前回少しだけ持っていったら、かなり好評だったからなあ。剣吾の所のなら喜ばれると思うぞ」

「そう言ってもらえると良いなあ。自分の会社の商品が褒められるのは嬉しいからな」


 そんなことを話している内に時間が近づいてくる。剣吾の事を説明して、転送の範囲を少し大きくしてもらわないといけない。腕輪の石を外してユレアを呼んでみる。

「おーい、ユレア。こっちの準備が出来たけど、頼みがあるんだ」

「何?勇太。この前言っていたお友達と転送の話?」

「おお、本当に異世界に行けるんだな?勇太、俺はいつでもいいぜ!」

 剣吾がはしゃいでいるが放っておこう。ユレアに説明をしてから時間を待つ。俺と剣吾と台車二つ分の荷物は無事に転送された。

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