エピローグ
その日、空は澄み切っていた。
雲一つ無い青空だったが、シグルドはぼんやりと、自室に篭って空を行く鳥を眺めていた。
あの後――ラケシスへの衝撃の告白の後、確かにミレーネとの婚姻は取り下げられた。ミレーネは喜び、ラケシスも喜んでいた。
後にレイディルから教えられたのは、元よりミレーネとの婚姻話に抗議が来るのは、既に見越していた事だと言う事。シグルドを除いた談話が、実はシグルドとラケシスについての今後の話になっていた事。つまり、旅立ちの時と同じく、シグルドは父の思惑に、まんまと嵌まってしまったのである。
更にはミレーネの治療費として、既に国家予算二年分に相当する金が、レフィア家から届いているという事も聴いた。政略結婚など、初めからする気は無かったのではないかと思ったが、そう問うてみると、
「お前が伝説の魔術師ソラス・ナクル殿を連れてきたのは、流石に予想の域を遥かに超えていた。だが、結果最も良い方法を取れるようになって満足しておるぞ」
と父王に笑い混じりで言われ、情けなくなった。
国益際優先である父にとって、シグルドの結婚相手が人形だろうと何だろうと構わないのだろう。伝説の大魔術師を後ろ盾に付ける機会とあっては、レイディルも息子を人身御供にする事に躊躇はしない。
ミレーネの治療費だけでも国庫は潤い、大魔術師を後ろ盾に出来て、レイディルは笑いの止まらない事だろう。思わず「あの糞親父」と、王族らしからぬ言葉を心の中で吐き捨てた。
不意に、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。面持ちを正す気にもなれず、ぶっきらぼうに「入れ」とだけ言うと、勢い良く扉を開けながら、嬉しそうにはしゃぐラケシスが入ってきた。
「見てよ、シグルド、これ!」
そう言って、くるりと一回転する。侍女に見繕って貰ったのか、ラケシスは薄紅色の、フリルが沢山ついた可愛らしいドレスを着ていた。陽光を受けて輝く金髪に、瞳と同じ翡翠色の髪留めが、よく似合った。
「よく似合っているぞ」
シグルドが言うと、ラケシスは嬉しそうにシグルドに飛びつ……こうとして、ドレスの裾を踏んで転びそうになった。慌てて咄嗟に駆け出したシグルドが、ラケシスの体を支え、床に額を打ち付ける直前で止めた。
「全く、危なっかしい娘だ」
ふう、と短く溜息をつくと、ラケシスが「ごめんなさい」と肩を落とした。何も言わずに優しく頭を撫でてやり、窓辺に戻る。今度は転ばないように、慎重にラケシスが歩いてきて、シグルドに寄り添った。
しばらく呆けるように外を眺めていたシグルドを、ラケシスはじっと見ていたが、突然シグルドの服の裾を引っ張って、訊いてきた。
「ねえ、シグルド。私の事は嫌い? それとも、好き?」
唐突に訊かれて、思わずシグルドは口篭った。
嫌いではない。かと言って、愛しているのかと訊かれると返答に困る。良くも悪くも、子供のように単純で純粋なラケシスは、ストレートに感情を表してくる。
だが、シグルドの中にはまだ自分でもよく分からない感情が有った。それは自分でも分かっている。ラケシスを見ていると、どうにも危なっかしくて、ついつい構ってやりたくなるのだ。これを保護欲と呼ぶべきか、それとも愛と呼ぶべきか、シグルドにはよく分からなかった。
少しだけ考えて、重い息を吐き出しながら、
「嫌いではない。しかし好きかと訊かれたら、よく分からない。俺自身、まだお前の事をよく分かっていないせいなのかも知れないが、正直な所、自分の気持ちに整理がついていないのだと思う。答えはいずれ、気持ちの整理をつけてから、お前に話したいと思っているが……」
逃げるような返答だったが、シグルドの本心だった。ラケシスは少しだけ考えたが、「うん、分かった」とシグルドに向かって、太陽に似た笑顔を返した。
窓の外を眺めながら、「綺麗だね」とラケシスが呟いた。
空はあの時――ラケシスと出会い、夜が明けた時と同じように、突き抜ける様な青い空だった。
何の捻りも無いラストに不満を持つ方、それ以前に文法のヘタレ具合やらに苦情がある方も多く見えると思いますが、久々に小説書いた為のリハビリ的作品ということで、一つご容赦を(苦しい言い訳)
もっと色々なシチュエーションを織り交ぜたかったのですが、あまりダラダラと続かせるのも何だかなと思い、割とシェイプアップして投下させて頂いた今作品ですが、書き初めて四日で書き終えるとは、流石に自分でも信じられないくらいです。睡眠時間も忘れて書きまくったりとか。まぁ内容は、それなりに薄っぺらい感じなんですg(汗)
細かく章立てしたのも、ありきたりな話ですので、絵本を読む感じで読んで頂ければなあと思っての配慮だったりしたのですが、短く切りすぎた感も有りで……正直、所々失敗しまくってる感が否めないのですがorz
何にせよ、少しでも楽しんでもらえた方が居れば幸いです。感想などお寄せ頂ければ、泣いて感謝してメッセージ文プリントアウトして家宝にします。
最後に、物語の最後までお付き合い頂いた読者の皆様、本当に有難うございました。