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社畜転生したら【クエスト】が鳴り止まない〜地球の物資を取り寄せて、限界集落を大陸最強の街にする〜  作者: 月神世一


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第一章 【クエスト】で異世界転生〜報酬で地球の品物を取り寄せて、辺境の村を大陸最強に育てます〜

「異世界に来てまで、まだ仕事が来るのかよ」

 ルナミス帝国、皇城・謁見の間。

 大理石が敷き詰められた広大な空間に、帝国の中枢を担う貴族たちが居並んでいた。彼らの視線の先には、最奥の玉座に座るマルクス皇帝。そして、その御前に立つ一人の男がいた。

 仕立ての良い漆黒のスーツを着崩した男——黒木陸人くろきりくとだ。

「黒木陸人よ。此度の国難を救った貴殿の功績は、筆舌に尽くしがたい」

 皇帝の低く響く声が謁見の間に落ちる。

「よって、貴殿に帝国北部の公爵位を与えよう。あわせて、金貨十万枚の恩賞と、新たな領地を——」

「——お断りします」

 静かな、だがはっきりとした声が響いた。

 ざわっ、と貴族たちがどよめく。皇帝の恩賞を秒で蹴るなど、不敬罪で首が飛んでもおかしくない。

 だが、陸人の背後に控えていたポポロ村の面々は、まるで動じていなかった。

「り、陸人様!? 公爵ってすっごいお金持ちになれるんじゃないんですの!?」

 みかん箱を小脇に抱えた人魚族の少女、リーザが目を¥マークにして身を乗り出す。

「陸人さんがそう言うなら仕方ありませんね。ポポロ村は独立国家として帝国との全面戦争に移行します。自警団、第一種戦闘態勢へ」

 月兎族の村長キャルルが、安全靴の踵を鳴らしてダブルトンファーを構えかけた。

「アホかウサギ! ここでドンパチやったらウチの銀行が不良債権まみれで吹っ飛ぶわ! 陸人、もっと上手いこと条件闘争に持ち込まんかい!」

 猫耳族の財務担当ニャングルが、算盤を弾きながらキセルを咥えて怒鳴る。

「お前ら、少し黙ってろ」

 陸人が短く窘めると、三人はピタリと口を閉じた。

 陸人は皇帝を真っ直ぐに見据え、言葉を紡ぐ。

「陛下。俺はしがない一介の調達係です。公爵なんて仰々しい肩書きを背負えば、現場の動きが鈍くなる。今まで通り、緩衝地帯ポポロ村のイチ業務担当として扱ってください」

「……ふむ。底知れぬ無欲さよ。だが、それでは帝国のメンツが立たんな」

「ならば、実利で頂きましょう。帝国全土の物流関税フリーパスと、魔導兵器部品の優先調達権。それから——」

 陸人は背後のリーザを親指で指した。

「うちのアイドルの新曲を、帝国の国営放送網でヘビーローテーションする独占枠を要求します」

「陸人様ぁぁぁっ!」

 リーザが感極まって泣き崩れる。

 皇帝はほう、と興味深げに顎を撫でた。

「権力より、物流と身内の夢を取るか。よかろう、黒木陸人。貴殿のその手腕、まさに帝国が欲した才覚だ。その提案、すべて丸呑みにしてやろう」

「ありがとうございます」

 陸人は深く一礼し、ポッケからポポロシガーを取り出して火を点けた。

 紫煙を細く吐き出しながら、陸人は内心で深く、深くため息をついた。

 ——どうして、こんなことになってしまったのか。

 俺はただの、中堅商社の資材調達部員だったはずだ。

     ◆

 ——3年前、俺は満員電車にいた。

 金曜日の午後九時半。日本の首都圏を走る通勤電車は、疲弊したサラリーマンたちを寿司詰めにしている。

 黒木陸人(28歳)も、その一人だった。

 無茶な納期、上司からの丸投げ、下請けからの泣き言。それらを一人で捌き切り、なんとか迎えた週末。

 薄給の明細を思い出し、陸人はつり革を握りしめながら微糖の缶コーヒーを見つめていた。

「お疲れさまぁ。ねえ、ちょっといいかしら?」

 不意に、隣から声がした。

 見れば、ピンク色の芋ジャージに健康サンダルを履いた、やたらと顔立ちの整った女がいた。年齢は十代後半に見えるが、手にはなぜかロング缶のチューハイが握られている。

「……なんでしょうか」

「あんた、死んだ目をしてるわねぇ。典型的な社畜ってやつ? ねぇ、異世界とか行ってみない?」

 プシュッ、と女がチューハイを開けた。

 電車内で酒を開けるな。ていうか未成年じゃないのか。

「行きません。月曜には三次請けの資材の納期調整が残ってるんで」

「あー、そういうのもういいから。私、世界神のルチアナなんだけどさ。今月のノルマ……じゃなくて、世界のバランス調整のために人材が必要なのよ」

「意味がわかりません」

「大丈夫、あんたには特別に『ユニークスキル』をあげるから。はい、これ採用通知ね!」

 ルチアナと名乗ったジャージの女が、べしっ、と陸人の額に一枚の紙切れを貼り付けた。

 その瞬間、視界が強烈な白い光に包まれた。

「ちょ、まっ——!」

「ボーナスはないけど、頑張ってねー!」

 ルチアナの無責任な声が遠ざかり、陸人の意識は途切れた。

     ◆

 頬を撫でる風の感覚で、陸人は目を覚ました。

「……ん?」

 身を起こす。満員電車の息苦しい空気は消え失せ、見渡す限りの青い空と、緑の草原が広がっていた。

 自分はまだ、スーツ姿のままだ。手には微糖の缶コーヒー。

「なんだ、ここは……」

『ピコン』

 不意に、脳内に電子音が鳴った。

 目の前の空間に、半透明のウィンドウが浮かび上がる。

【クエスト E-001:異世界の大地を踏みしめよ】

【内容:最初の一歩を踏み出す】

【報酬:50P】

「……は?」

 なんだこれは。タスク管理ツールか何かか?

 訝しげに思いながらも、陸人はとりあえず立ち上がり、草原をずぼっと一歩歩いた。

『ピコン』

【クエスト達成】

【50Pを獲得しました】

【現在の所持P:50P】

 ウィンドウの文字が切り替わり、達成のスタンプが押されたかのようなエフェクトが弾ける。

 風が吹き抜け、どこからか見知らぬ鳥の鳴き声が聞こえた。

 陸人はスーツの埃を払い、微糖の缶コーヒーをぐいっとあおってから、静かに呟いた。

「……異世界に来てまで、まだ仕事が来るのかよ」

 社畜の異世界生活は、たったの50Pの報酬から幕を開けた。

 遠くから、何かを切り裂くような少女の悲鳴が聞こえてきたのは、その直後のことだった。

読んでいただきありがとうございます。

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