依頼
さっそく本題へと移る。
『それで、今日はどうしたんだい?』
イグナート様がケット・シーの職人達への依頼を簡潔に説明してくれた。
「昨日の雹で、世界樹のための温室が壊れてしまった。それで、巨大な雹が当たっても壊れない、強固なガラスを作ってほしい」
『強固なガラスねえ』
そもそもガラスは人間が作りだした代物で、ケット・シーの職人の専門外だと言われてしまう。
ケット・シーの長の夫、コートさんが意見してくれた。
『壊れないように、レンガみたいに分厚い強化ガラスを作るのはいかがでしょう』
ケット・シーの里のように、ドーム型に積み上げたら基礎も必要ないのではないか、とコートさんが着想を述べる。
「重量が気になる。不同沈下――地盤が歪んで沈み、温室自体が崩れる心配が懸念されるだろう」
問題はそれだけではないという。
「温室としての機能にも、疑問が生じる」
ガラスが厚すぎると太陽光が上手く集まらなかったり、夏場に温室内の気温が上昇しすぎたりなど、懸念点があるようだ。
「着想自体は面白かったように思う」
『ふうむ』
ケット・シーの里にある住居の窓にもガラスは採用されている。
もしかしたら作ったことのある職人がいるかもしれないから、一度相談を持ちかけてみるようだ。
「あとは、丈夫な鉢が欲しい」
『またまた、あんたは難しい問題ばかり持ってくるねえ。どうせ、ただ丈夫なだけの鉢ではないんだろう?』
「ああ。それで世界樹を育てたい」
『やはり、そういう目論みがあったんだね』
何か着想があるのかと聞かれ、私に注目が集まる。
突然聞かれても、パッと思い浮かぶものではない。
「も、申し訳ありません、今は何も思いつかず……」
助けを求めるようにイグナート様を見ると、何か思いついたのか、着想を説明し始める。
「たとえば、この里にある井処魔法のような、水やりを自動でできる鉢とかは作れるだろうか?」
『はあ?』
『いいですねえ、面白いです!!』
コーシュカさんは呆れた表情を浮かべる一方で、コートさんは瞳を輝かせる。
「ただ、世界樹が必要とする水は聖水でして」
『なるほど! では、聖水にする聖術も組み込ませる必要もありそうですね!』
『ああ、はじまったよ』
コーシュカさんが額に手を当ててため息交じりに言う。
なんでもコートさんは新しいアイテムを発明するのが大好きで、一度熱中すると他のことが目に付かなくなるようだ。
紙を取りだし、設計図を書き始める。
さらさら動くペンは止まらない。
『できました!!』
コートさんが考えたのは、鉢の底や雨から水を集めて聖水と化すだけでなく、世界樹の成長によって大きくなり、さらに地中に埋めたら土になるとっておきの物のようだ。
設計図を見たイグナート様は、感嘆するように言った。
「これは……すばらしい品だ」
『ありがとうございます』
ただ、問題があるという。
『この鉢を作るには、特殊な粘土質の土が必要となります』
それは魔力がたっぷり含まれる、魔石土だという。
『それがあるのは、ここからさらに北に行った場所にある森の中に、涸れた湖があるはずなんです』
水流の中で質のいい土だけが残り、低地となっているという。
「わかった。では、我々でその魔石土とやらを採りにいってこよう」
『よろしいのですか?』
「ああ、任せておけ」
その間、コーシュカさんはガラスについて職人達に聞き回り、コートさんは設計図をさらに煮詰めておくという。
『あと、世界樹の一部があれば、鉢がよく馴染むと思うのですが』
「世界樹の葉があります」
取りだして見せると、コーシュカさんとコートさんは驚愕の表情を浮かべる。
『これが、世界樹……!』
『なんてすばらしい力を放っているのでしょう!?』
これがあれば、分析をしてさらに世界樹に合った鉢を作ることができるという。
『預かっていてもよろしいでしょうか?』
「もちろん!」
そんなわけで世界樹の葉をコートさんに預け、私達は鉢を作るための粘度を探しに行くこととなった。




