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世界樹の世話役神官ですが、役立たずだと辺境に飛ばされました。開き直って辺境でスローライフをします。え、世界樹が枯れかけているって? そんなの知らんがな  作者: 江本マシメサ
第二章 世界樹を育ててみよう!

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夕食

 ひとまず、夕食を食べながら今後について話し合いたいという。

 そういえば、朝食も食べ損ねていたし昼食も追放騒ぎで食べていなかった。

 ラヴィーナの地にやってきてから数時間、食事を失念するくらい切羽詰まったような状況だったのだ。

 食事の話題になった途端、ぐーっとお腹が鳴った。

 誰もいない廊下で信じられないくらい響いて恥ずかしかったが、先を歩く領主様には聞こえていなかったようだ。


 食堂は晩餐会が開けそうなくらいの、長い長い食卓があった。

 そこに二人分の食事が用意されていた。


「あの、こちらには、領主様以外……」

「イグナートでいい」


 皇弟であり、ラヴィーナの領主であるお方を名前で呼ぶなんて恐れ多い。

 けれども私の意見なんぞ聞き入れてもらえないだろう。

 領主様改め、イグナート様の言うことは絶対! なのである。


「して、どうした?」

「いえ、その、イグナート様以外に、こちらに住んでいるお方はいないのかな、と思いまして」

「使用人以外、ここに住んだことのある者はいない」

「そうだったのですね」


 もしかしたら奥方やご子息、ご子女がいるのではないか、と思ったがいないらしい。


「この八年、私を訪ねてくる者などいなければ、近づこうと思う者でさえいなかった。なんせ、帝都では死んだことにされている亡霊だからな」


 どういう反応をしていいものか、わからなかった。

 イグナート様は本来であれば帝都で重要な任に就いて、大勢の人達から傅かれるような立場にいるはずだったのに。

 パーヴァル殿下のせいで、人生が想定外の事態になったのだ。


「ソフィヤ・トィルシナ、お前は帝都に残してきた者はいないのか? 恋人か、婚約者がいるのであれば、呼び寄せてそれなりの地位を与えることもできるが」

「いえいえ、おりません」


 というか、恋人なんていたことすらない。

 神官は結婚を許されていたものの、忙しすぎて恋人どころか、誰かと親しくなる暇もなかった。

 そういえば誰と誰が付き合っているとか、結婚したとか、そういう噂話を耳にしたこともあったような。

 自分には関係のない話だと思っていたのだ。

  あまり気にしていなかったが私もいつの間にか二十歳になり、結婚適齢期も終わりかけに入るような年齢だった。

 恋人もいなければ、友達すらまともにいなかったな……と人生を振り返る。

 それでも寂しくなかったのは、メルヴがいてくれたからだろう。


 と、そんな話をしている間に食事が運ばれてくる。

 前菜は鱈のゼリー寄せ。

 上品な魚の風味が口いっぱいに広がる。

 焼きたてのライ麦パンに合わせるのは、マッシュルームの酢漬けと大雷鳥のレバーペースト。どちらもおいしくって、感激してしまった。

 ふと、イグナート様と目が合う。

 何か問題でもあったのかと思いきや、そんなことはなかった。


「キャビアも載せて食べてみろ」

「キャビア……」


 噂に聞いていた高級品!

 聖教会の食事にも〝パユースナヤ・イクラー〟と呼ばれる、比較的安価な塩辛いキャビアが出ることがあった。

 けれども私が食堂に行く頃にはすべて食べ尽くされていて、口に入ることはなかったのである。


 ガラスの器に惜しみなく盛り付けられたキャビアは、宝石のようにキラキラ輝いていた。

 それを銀のスプーンで掬い、マッシュルームの酢漬けを載せたライ麦パンにそっと載せる。


「――わあ、おいしい!」


 口の中でプチプチ弾け、ナッツを思わせるようなクリーミーな香ばしさを感じる。

 これがキャビアなんだ、と感激してしまった。


 メインは北方鹿(トナカイ)のサワークリームシチュー。

 ここまで乗せてもらったトナカイの姿を、うっかり思い出してしまう。トナカイは使役獣として活躍するだけでなく、食料としても重宝されているのだろう。

 トナカイの肉はナイフを入れるとホロリと解れ、舌の上でとろける。

 おいしすぎて、言葉を失ってしまった。

 デザートはチーズタルト。中に甘酸っぱいベリージャムが入っていて最高だった。

 食後の紅茶もしっかりいただいて、お腹いっぱいになる。

 こんなにたっぷり食べることができたのは、初めてかもしれない。

 普段、粗食ばかり口にしている私の胃がびっくりしないか、少し心配になってしまった。


 食後の祈りを捧げていたら、イグナート様にじっと見つめられていることに気付く。

 もしや、何か粗相をしてしまったのか。


「申し訳ありません。私、もしかして食事のマナーに問題がありましたか?」


 無意識のうちにがっついて食べていたのかもしれない。

 そう思っていたが、イグナート様は首を横に振る。


「いいや、食事のマナーはまったく問題なかった。というか、古い貴族がするような、丁寧すぎるくらいの食べ方だったが」

「そ、そうだったのですね」


 救貧院の院長が元貴族で、食事のマナーにうるさかったのである。

 そんな説明をすると、イグナートは「そういうわけだったのか」と納得した様子だった。

 どうやら身寄りがない私が、貴族みたいな食べ方をするので気になっていたようだ。


「もしや、どこぞの没落令嬢かと思っていた」

「いえいえ、とんでもない! 私は救貧院の前に捨てられていた子どもだったんです」


 イグナート様は反応に困っているような表情を浮かべていた。


「すまない、いらぬことを言った」

「いいえ、事実なのでお気になさらず」


 あまりこういう話はおおっぴらにしないほうがよさそうだ。


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