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ウィンビーロの町の霊園の地下にある隠し部屋のようなもの。そこの仕掛け扉はどうやって開くのか。まだわかってはいなかった。
思い出せ思い出せと自分に念じてみても答えが出ないので、もういい。何でもやってやる。
押す。くそ、だめだ。
引く。というより取っ手はない。
忍者屋敷の扉みたいに回す? それも違った。
どこか特定箇所だけを押す? だとしても、どうもよくわからない。
扉には絵が描かれている。右に大きな丸。左にも大きな丸。石柱のようなものの上にそれぞれがあって……
「わかった」
「どういうこと? レン」
「ケイティ、球の接続魔環であれを出して、またあそこに置くんだ」
「やってみる」
と、ケイティが歩き出したから、
「あ、いや、ケイティ、ここからやるんだよそれを」
扉の前からなら間に合う、きっとそんな仕掛け。のような気がする。
(用心深くやるなら、きっとそういうことだ)
扉の前にいながらにして、ケイティが念じる。二本の石柱がある場所。片方の上にはもうない球体の飾りを、魔環の力で、ある状態に戻す。
すると。
ほとんど何の音も立てずに、スーッと、仕掛け扉が奥へと動いた。
「よし」
とこちらが言うと、
「納得」
とケイティも。同時に走り出していた。
進んだ先は、ただ空っぽな広い空間だった。上が霊園だからと言っても、墓もないし、文字もない。ただただ直線的。
そう知った瞬間、さっきの仕掛け扉が動いて元の位置に戻った。
暗さが増した気がする。
光と玉の接続魔環であらかじめ出してある光玉の明るさを、もう少し強めた。このほうが見やすい。
この室内を見て回ってみた。
そこで思い出した。
「今のはケイティか俺のどっちかだからできたんだ」
「黒いペットも見えるしね、二人とも」
翼の生えた黒い猫はまだついて来ている。最後まで連れていくという任務を全うする気だ。
「名前も思い出してきたぞ。ユグドラシルシステムだ。そこへのリンクポートを、誰かが、そう、俺たちと同格の誰かが使って何かしたんだ。だから急いで俺を見つけるところから始めて」
そこで一旦、深呼吸をすると、続けた。
「すべての為、そう、そんなことをこいつが言った。急げっていうようなことも」
『ボクはコイツじゃないにゃ、シュレディンにゃ』
「誰かが洒落やがった名前だな。ああもう、そんなことはどうでもいい。とんでもないことになってるんだ、きっと」
「レン……そうね、そうかもしれない。なら急ぎましょう」
「ああ」
部屋を隅々まで見て回ると、スイッチのようなものを見つけた。
指で軽く押す。
床が段々と高さを変え、低まり、一箇所だけ、階段へと変貌した。
そこを下りると、曲がりながら、さらに下へ。
階段を下り切ると、そこはまた別の部屋。黒くて落ちそうな闇の色。
光玉をめいっぱい強くする。と、
「円がポートのはず」
とケイティが言った。
白い線で黒い床に書かれているように見える。そんな輪がある。
俺も思い出している。そのはずだが進めない。見えない何かが阻んでいて円の所へ行けない。
見えない何か。
その感触は硬い。
火と剣の接続魔環に念じて刺してみても、どうにもならない。熱ではだめ。鋭さでもだめ。ならどうするか。
(もしこれが、この空間の傷のようなものだとしたら)
癒の接続魔環に念じてみた。
すると、目の前の透明な大部分にひびが走り、その内側へと光って消えていくような、そんな何かが存在を示した。手を先へやってみる。進める。どうやら進める。
そんな時、カチリと音が。
接続魔環が落ちていた。そこにあった字は割という意味の字。
段差を進み、円にまで入った。
「これはケイティが持ってろ」
渡されると、ケイティは、色々と考えたようで、それから、右手の人差し指の魔環の並びを葉、割、鉄、刀に変えた。
「準備万端よ」
「じゃあ行くぞ。行き方は思い出した」
魔力に似た力を円へと込める。どの魔環にも込めずに。
すると、その白い線から、真っ白な光が真上へと放たれた。
それが止まると、辺りの景色は変わっていた。
足許に、漆黒の床と、何も混じらないような白い線の円があるのは変わらない。
「来たぞ、ユグドラシルシステムの内部だ。ただいまだな」
「おかえりはまた今度ね」
辺りには草木が生えていた。
外だ。見慣れていることを思い出した外。
円から出て一番近い半球型の建物の壁に背を向けた。それから、出入口から中を確認。
「人がいる。俺たちの仲間に手錠をかけてやがる」
「どうする?」
「二手に分かれて一気に行こう。即リーダー確保が肝心だ」
「了解」
それからは走り抜けた。出会えば、相手が敵だと分かると同時に、木の板をあごへ。それでもだめなら木の机を重ねて身動きだけでも封じる。口も封じたいところだが仕方ない。
「鬼人か、リーダーも恐らく」
倒されていく相手の風貌からしてそうらしい。
外側から攻め、段々と内側へ向かった。こちらの仲間がされている手錠については一旦、無視だ。
できる限り速く走った。
そしてついに、ひときわ大きな魔力を持っているらしい者を発見。だが、彼はこちらの仲間を盾にした。
「あ、このっ!」
「そりゃあ当然だろう。最後まであきらめずに転移手続きをしている奴がいたのではな。待っていた。さあ抵抗するな。何かすればその瞬間に刺す」
持っているものか刃物系の接続魔環か。その手元は見えない。
「くっ……鬼人が、言わば鬼神になったというのに、自分たちの為だけにしか動かない気か? ここのみんなを縛ってまで」
「ふん、交渉する気か」
「当たり前だ。お前のことだって生かして捕らえる」
「なっ、生かしてだと?」
その時だ、彼の後ろから刀が思い切り振り下ろされた。
「嘘つきども、め……」
男はそう言って倒れた。
そんな男を板でがんじがらめにすると、癒の接続魔環を使った。
(いや、そりゃあ、ケイティはやるよな、そういう奴だ)
そうして、彼、格の上がった者と、彼に率いられた者とを捕まえ終えると、彼らを牢に入れた。
水や食事を与え、学習もさせた。娯楽もいい。好きな本を読ませた。
ただ、あまりに悪意のある者や、悪いと気付かぬ者には、神子が教え説いた。
神子というのは、ユグドラシルシステム内部の役割。円滑で穏やかでなければならないシステムの為の。
帰ってきた。
「やっとただいまだな」
「おかえり」
ケイティがそう言うと、辺りにいた神格や遣いも、
「おかえりなさい」
と波のように言い出した。
すると、そこでケイティが、
「どこかにまた行ってしまうの? 管理するのは苦手だものね」
「好い加減にして仕事するさ。魔導学園のあるあの世界なんかを視てもいいかもな」
「すごぉく平和なところを選んだわね」
「呪言師のところがいいか? それとも理術師のところがいいか?」
「どこでもいいわよ」
手を振ってケイティが去っていった。多分、自分の遣いの許にでも向かったんだろう。
見送りながら、すべてを思い出した。
(さて。ああ言ったしな)
椅子に座って、各世界の画面に目をやった。
(おっと、これはおやつにしちゃおうかな)
食の接続魔環を使って『もっちりバタあんドーナツ』を引き伸ばした。
はむ。はむはむ。
(まあこんなものは、もうどうとでもなるけど)
さあ拝見しよう。
お困りなら誰かを向かわせる。解決の為に、だ。できれば、すべての世の為に。




