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リンクリング  作者: 阿川時定


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1

 ふと顔を上げたら景色が変わった。夜の闇から無の世界のような闇に。

 それからすぐ、心に声が響いた。

『やっと見つけましたよ!』

(え?)

 そう思ったちょうどその時、また景色が変わった。今度は森の中。

 ふと風が心地良過ぎて見やると、なぜか自分は全裸だった。完全な闇と言えるほどの闇に包まれた瞬間から風が気持ち良過ぎた。


『お供するのがボクだけでごめんだにゃ』

と、さっきとは違う声が聞こえた。

 辺りを見ると、左後方やや上空に、翼の生えた黒猫を発見。

『それと、その姿は元々の姿にゃ。この世界での、にゃ』

(この世界での?)

『さあ、とっとと戻ろうとするにゃ。確か、闇の港ってところにレンは行かなければならないにゃ』

(なんで)

『すべての世の(ため)にゃ』


 訳がわからないが、どうやらどこかを目指さなければならないらしい。

 元に戻るためにも行かなければならないのならと、一歩、踏み出した。全裸で。


 数分歩いたところで家屋を見つけた。変質者と思われないように要件を早口で言う準備をしつつ、窓から中を(のぞ)いた。

 中世西洋風の家。

 中に人の姿はない。

(お邪魔させてもらおう。あと風呂に入りたいけどな)

 玄関前に立つと、

(申し訳ない!)

 扉を開け入った。素早く部屋を見回る。

 鏡があった、それで見る限り、二十代くらいに見える。

(少し若くなってる)

 箪笥(たんす)を見つけると開けた。


 着こなしなど気にせず選ぶ。なかなかの見た目にはなった。そこへ、あの空飛ぶ黒猫の声が。

『泥棒ですにぇえ。それに不法侵入だにゃ』

(仕方ないだろ、いつか返すってことにするしかないって。というか、思うだけで会話できるお前の存在も意味が分からないよ)

『ボクは伝聞とお手伝いを任されたにゃ』


 そこへ、数人分の足音が。

 物陰に隠れよう。

 それから彼らの声が届いてきた。

「今日もうまくいきましたね兄貴。鍵開けの腕、上げたんじゃないんですか?」

「はっは、そうかもな」

(泥棒はよくない、よくないぞ)

 どうもよからぬ連中に思える。

 彼らはさらに、

「十分盗んだ、ほかへ移るか」

(やっぱり。誰かに恵んであげる話もしない。義賊じゃなさそう。でもどうしよう、持ち主に返してあげたいけどこのままじゃ)

 ドサッと、袋が置かれる音が。(おそ)らく盗んだものだ。


(あれだけでも。というかここを誰かに教えられれば)

 すると、黒猫は隠れもせずに声を。

接続(リンク)魔環(リング)でもあればにゃあ。一つだけでも』

(ちょっと。隠れてよ)

『レンにしか見えないから平気だにゃ。声もレンにしか聞こえないにゃ』

(特別な存在なのか)


 リンクリングとやらさえあれば捕まえることもできそうなのか。たとえそれが一つだけでも。確かに空飛ぶ黒猫はそう言った。

 隠れた所から見える机の上に何か光る指環(ゆびわ)らしきものを見つけた。

 そっと近づき、手に取る。


 そういえばこの世界の言葉がわかる。文字も。指環を見て思ったのは、その指環を彩る宝石に「木」という意味の字が浮かんでいるからだった。

(なんで俺、わかるんだろ。そうだよ、接続(リンク)魔環(リング)だ、あれは)

『忘れてしまっていたんですかにぇえ』

(この世界での姿がある、元々体を持ってた? 元の世界に戻れる頃にはこの謎も解けるんだろうな)


『さあ。ボクはお供を任されただけだからにゃぁ』

 その声を聞きながら、木の接続(リンク)魔環(リング)を右手の人差し指にはめた。

(何かあればこれで)

「あ、誰だてめえ!」

 彼らのうちのリーダーではなさそうな誰かの声だった。

(気絶で済め!)

 右手人差し指の指環、木の接続(リンク)魔環(リング)に「魔力」を集中させると、床板が上へ伸び、その男のあごに当たった。すると男はその場に崩れるように倒れた。


(よし、ほかのやつらも)

 こっそり近付いてはあごを狙い打ち。反撃を許してしまうかもと思いながらも、リーダーまでをも気絶させることに成功。きっとそうだ、しばらく待っても動かない。


 辺りは明るく、

『今のうちに警備ギルドに届けるといいにゃ』

 ということで、まずは縛り上げた。そして、木の板に乗せて連れていく。


 この世界の理に魔力が深く関与していることをなぜか覚えている。その魔力を、自分がなぜか多く持っていることも。木の板を余裕たっぷりに長く長く浮遊させ続けられていることでもそれを実感。

 警備ギルドという単語についてもなぜか知っている。


 なんとなく、この家屋を背にして左を見た。そちらに町がありそうな予感がした。

 歩いていく。三人と袋を板で運びながら。

 すると看板を見つけた。こうある。

「この先クレンティの町」

 まっすぐ向かった。

 警備ギルドに届けると、

「ああ、これあたしのだったのよ、ありがとうねえ」

「いえいえ」

 そんなやり取りが何度かあってから、別の場所を目指したくなった。

(そうだ、なぜかわかってる。なぜか知ってる。レンジャーギルドに行けば稼ぎながら旅ができる。ええっと、最終的にどこに行かなきゃいけないんだっけ)

『闇の港にゃ』

(本当に港なのか店名か何かなのか)

 そう思いながら、歩き始めたかったのだが、ふと思いついた。

「この服、誰かの服だったりします?」

 すると、

「ああ! それは俺のシャツ!」

「それは俺のズボン!」

 そういう訳で、お礼にお金を(もら)ってそれで新しいのを買い、着替えて返した。


 これで、自分の身を包むものは、買ったものだけだ。

 さてと。じゃあまずは、レンジャーギルドに行くとしよう。名はどうするか。元々からこだわってはいない。元のまま、レンでいいか。

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