1957104
中町通りから少し外れた路地裏。
そこに、いかにも「怪しい骨董品を置いてます」と言わんばかりの、ボロい木造の店があった。
軒先の看板には、かすれた文字で『星降る夜』と書かれている。
気の抜けたベルの音を鳴らして中に入る。
店内は埃っぽく、古道具が雑多に置かれ、古い時計の秒針を刻む音だけが響いていた。
「……いらっしゃい。冷やかしなら帰って」
奥のカウンターから、気だるそうな声がした。
そこにいたのは、タバコを吹かしながらノートパソコンを叩いている女性だった。
黒いシャツをラフに着崩していて、見た目は俺と大して変わらない、20代そこそこの女性に見える。だけど、その目つきは妙に据わっていて、ただ者じゃないオーラが漂っていた。
「あの、張り紙を見たんですけど、ここで合ってますか?」
「張り紙?」
女性は面倒くさそうに視線をノートから俺に移した。
「もやがかかった、従業員募集のやつです。自分にしか見えないみたいなんですけど……」
その瞬間、女性の目が鋭く光った。
タバコを灰皿に押し付けると、彼女はふん、と鼻で笑って立ち上がる。
「……へえ。本当に見えるんだ。あんた、名前は?」
「紺野幸也です」
「私は小川春奈。この店の店主。まあ、とりあえず合格よ。ついてきなさい」
春奈さんはそれだけ言うと、カウンターの奥へとズカズカ歩いていく。
なんだか強引な人だなと思いつつ、俺も後に続いた。
案内されたのは、店の最奥にある、これまた年季の入った事務スペース。
そこには、今時ドラマでしか見ないような、磨かれた『黒電話』がポツンと置かれていた。
「これのダイヤルを回しなさい」
春奈さんが顎で黒電話をしゃくる。
「え、どこにかけるんですか?み、身分証とか取り上げられる感じですか?」
「何言ってんのよ。別に取り上げたりしないわよ。あとかけるんじゃない。1957104、とダイヤルを回すのよ。ほら、早く」
言われるがまま、俺は黒電話の前に立ち少し震える指で
1……9……5……7……1……0……4とダイヤルを回す。
レトロな音を立ててダイヤルが戻っていく。
最後の『4』が戻りきった、その瞬間。
地響きかと思う程の音が響き、足元床が、重々くしスライドし始めた。
俺は慌てて飛びのく。
現れたのは、暗がりの奥へと続いている、頑丈なコンクリート造りの下り階段だった。
「……え、地下室?」
「ただの地下室じゃないわよ」
春奈さんはポケットから新しいタバコを取り出し、火をつけながらニヤリと笑った。
「ようこそ、紺野くん。ここから先は、地球にやってくる宇宙人たちの生活を支える、ウチの『支店』よ。さ、行くわよ。ぐずぐずしない」
階段をトントンと軽快に降りていく春奈さんの背中を見つめながら、俺はごくりと唾を飲み込んだ。今なら引き返せる。だけど……
どうやら俺は、とんでもない世界の扉を開けてしまったらしい。




