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第26話 一緒の食べましょう

「妖精の王侯貴族が集って情報交換をする場所だ。なに、サティは俺――私の傍に居てくれれば大丈夫だ」

(すみません、まったく大丈夫な気がしません!)

「サティ」

 

 アルバート様は私の顔を見て、申し訳なさそうに眉をへにゃりと八の字にする。これはノワールがしょんぼりする感じにそっくりだ。


「サティがあまり好まないのも理解しているが――外堀を埋めるためにも一度、私の妻として参加して欲しいのだ」

「あ」


 外堀。恐らくミデル公爵への対策なのだろう。

 他にも理由があるのかもしれない。それでも一番はアルバート様が私のことを思っているからこその提案だと、遅まきながら気付く。


(私のことを考えてくださったのに……)

「……それに今回、パーティーに出席するのは、《領土の死》の原因である毒と泥について他の領地で同じことが起こっていないかの確認も含まれる」

「!」

「我が領地は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 春が来ない、その言葉の意味が私にはよくわからなかった。そんなことがあり得るのだろうか。妖精の国ならありえるなんでもありな気がしなくはない。


「季節の変動があった……とかではなく、春の草花が咲かなくなったという事ですか?」

「そうだ。今この領土は冬と秋しかない。私が一年ほど眠っていても状況は好転しなかった」

「一年も!?」


 思わず声を荒げてしまったが、アルバート様は当然とばかりに首肯した。


「別段珍しくもない」

「そう……なんですね」


 季節は巡るもの。しかし天変地異だけではなく、呪いやら毒が妖精の国の至る所で起こっているとしたら、情報交換や意見を出し合うのは正しい。領主として当然な行いだ。


「ミデル公爵が諦めさえくれれば、私が春の妖精女王として覚醒しても問題ないのですよね?」

「それも含めてオベロンたちに相談だな。どちらにしてもサティの現在の器では、春の権能を一度使っただけでも肉体に相当の負荷がかかるだろう」

「そ、そう言えばそうでした……」


 この場所に来てからオベロン様に確認するなど光明が見えたので、楽観視していた。ジャガイモが食べられるなどで浮かれていたのも大きい。


「思い出したのなら、あとはハッーシュドォポティトを食べながらにしよう」

「ハッ! そうでした。お茶の準備も終えたので食べましょう!」


 テーブルにハッシュドポテトを揚げた大皿を置いて、お茶の準備をする。アルバート様はどこかそわそわしながらも、私が席に着くのを待っていた。


「アルバート様?」

「……今日も私に食べさせてくれるのだろう?」

「!?」


 期待の眼差しをするアルバート様の姿に負けて、一口サイズのハッシュドポテトを食べさせる。


(こ。これはなんだか恥ずかしい!)

「んっ……! ………………」

「ど、どうでしょう」

「美味い。な、なんだ、このサクサク感、後からくるもちっとした感触。ほどよい塩っ気」


 アルバート様の美味しそうな顔に私も一口食べる。


「うん、今回は成功っぽいです! はあー、久し振りのハッシュドポテト。そうこの塩っ気とほくほく感」


 転生して十数年ぶりの味わい。感動してじっくり味わう。

 今回は潰して調理するので、男爵イモのような特徴を持つ《パタィタ》を使ったのが良かったのかもしれない。


(ああ、泣きそうなほど美味しい! 肉じゃがにコロッケ、ジャガイモとチーズグラタン、ポテトサラダ、ジャガバター……ああ、作りたい料理がいっぱい)

「……これは食べた分だけ、力が漲る」

「へ?」


 突然アルバート様がとんでもないことを言い出した。そういう気分とかではなさそうだ。


「しかも魔力も食べた分だけ増えた」

「えええ!?」

「これはもしかしたらサティだけの権能なのかもしれない」

「えっと……春とか関係ないような? あるいは気のせい……?」


 そんな食べたら食べた分だけ強くなるなんて、どこの料理アニメ展開だ。そんな風に思っていたのだが、シルエさんも一口食べた瞬間、背中の蝶の羽根が美しく輝いた。


「これは――春の権能ですね」


 はい。確定してしまいました。

 一拍おいて、私はシエルさんを二度見してしまった。


「え。……え??」

「間違いありません…」

「春の権能は大きく分けて、植物を芽吹かせること、浄化、魔力強化、能力向上、治癒だ。ちなみにサティの作ったこのハッーシュドォポティトは浄化、魔力強化、治癒、能力向上が付与されている」

(まさかの権能が発動しているなんて……!)


 権能の覚醒は、ミデル公爵が動く理由になってしまう。また囚われてサティ()を否定して、エーティン様にしようとするのだろうか。


「(そんなの絶対に嫌!)……ミデル公爵が乗り込んできますか!?」

「それはない。……と言うよりも、この権能はエーティンとは全く異なる新しいものだ。君が新たな妖精として得た権能だということにすればいい。確かに君はエーティンの生まれ変わりかもしれないが、君はエーティンそのものじゃない。サティという名の……私の伴侶だ」

「アルバート様」


 この人は私をエーティンの生まれ変わりと認めても、エーティン自身だとして認識しない。私を見てくれる。サティとして生きて良いと些細なことだったとしても、その事実が嬉しくてたまらない。


「ほら、冷める前に食べてしまうぞ」

「は、はい!」


 止まっていた試食タイムが再開された。場の空気も少し柔らかなものになる。


「実に美味ですね」

「おい、シルエ。お前、食べ過ぎじゃないか?」

「はははっ、何を言っているのですか」

「まだまだお代わりも作れますから! と、言いつつ私も食べます!」


 私たちの料理に家事妖精(ブラウニー)や、子犬妖精(コボルト)が姿を見せる。子犬妖精(コボルト)はホブゴブリンと同じように家に住み着く妖精らしい。

 犬の顔を持つゴブリンの亜種で、私の手のひらほどの大きさの小人たち。色違いの帽子に動きやすい市民服、鼻が少し長く、目はつぶらでした。ゴブリンならアニメやゲームで見たことがありますが、実際の容姿はわりと可愛らしい。絵本の『小人の靴屋』などに出てくる小人のよう。


 さっそくお裾分けをしたら子犬妖精(コボルト)たちは歓喜していた。アルバート様は「サティの料理が」と少しムスッとしていたので、「また作ります」と意気込んでみたら耳を赤くしながら「ああ」と微笑んだ。


(ふふっ、あとでノワールにも食べさせてあげよう。妖精だから食べても平気よね)



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