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雨降りの巫女と氷結の魔法士  作者: 渡辺 佐倉


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ヨイヤミという人

 辺境の町につくと一同はそのまま魔獣が多数生息しているという場所へ向かうことになった。

 補給するにしても休むにしても、この町は貧しすぎる。


* * *



「火魔法士は下がれ!!」



 人同士が戦争をしている訳ではない。

 魔獣が多数発生しているポイントに行くとすでに多数の冒険者や魔法士達が交戦中だった。


 あの時と違って遠くの見えないところに魔獣がいる訳ではなかった。


 前衛にいる訳ではないけれど、魔獣の気配がする場所に私はいる。

 怖いか? と聞かれればとても怖い。

 今まで自分がどれだけ安全なところにいたのかと気が付く。


 ふるり、と思わず身震いすると、指揮官用のジャケットを来たディーデリヒ様が私の手を握ってくれた。

 その手が温かくて、少し落ち着く。



「巫女様は我らがお守りいたします」


 そう言うと訓練の時と同じような陣形を組んで、数人一組で水魔法士の皆さんが魔獣に突っ込んでいく。

 そこにいたのは本で見た獅子に似た魔獣だった。


 魔獣は前足をどんどんと打ち付ける様にしては突進を繰り返していた。


 それを躱しながら水魔法士達は圧縮した水を魔獣にぶつけていた。

 ディーデリヒ様は指揮官のため後方、私とともにいる。


「他の魔法士の人は氷の魔法が使えないのですか?」


 私はずっと気になっていたことを聞く。


「使えるものもいますが、効率が悪いんだよ。

俺のは血統魔法だからそうでもないけど」


 貴族の中には特別な魔法が使える人間がいるとラウラ先生の授業で聞いたことがあった。

 ディーデリヒ様のものもそれなのだろう。


 数頭いた獅子の形をした魔獣は魔法士達にどんどん追い詰められていく。


 私は空を見上げた。

 雲が薄くなってきている気がした。


 その後も、イノシシに似た魔獣に大きなムカデの魔獣を魔法士達は立て続けに倒した。

 小さな怪我はあったものの、戦線を離脱するほどの大きなけがをした者は誰もいなかった。


 魔法士達はそのまま野営の準備を始めた。


「やあやあ、さすがは天下の水魔法使いの皆さんですねえ」


 この場に不釣り合いな、軽い口調の男が気が付くと皆の近くまで来ていた。

 その男はディーデリヒ様と私のところまで来ると「久しぶりぃ」となれなれしい口調で言った。


 ディーデリヒ様はその軽い雰囲気に怒った風もなく「そっちこそよく生きているね」と答えていた。

 ディーデリヒ様はお仕事をしている時とそれ以外で少し口調が違う。

 このしゃべり方は少なくとも仕事のそれではない。


「まあ、俺の力は大したことがないから上手くしのいでるよ」


 男はそう言った。


「彼女が俺の同族ちゃん?」


 男は私に向かってそう言った。

 同族と言われても訳が分からなかった。

 その男は赤みの強い金髪に燃えるような赤い目をしていた。

 黒い瞳の私と同族と思える部分は何もない。


「それにしても仲良しなことで」


 男が私とディーデリヒ様のつないだ手をみてそう言った。

 これはただ、彼が優しいから怖がる私の手を握り締めてくれていただけだ。

 そういうのとは違うとちゃんと私も分かっている。

 男は張られた大きなテントの中に準備されたダイニングセットのうち一つの椅子に座るとこちらを眺めて目を細めた。

 男の名はヨイヤミというらしい。

 異国の名で漆黒のことだと教えてもらった。


 彼の色は漆黒からほど遠いし、彼の見た目はこの国の人間の特徴な気がした。

 この国の人々と姿かたちがよく似た人が暮らす別の国があるのだろうか。


「私は、この国で生まれたと聞いています」


 そう伝えると「俺もそうだよ~」と相変わらずかるい口調でヨイヤミさんは言う。

 この国の中のさらに同族ということなの? 私がよくわからなくなってしまうと、ヨイヤミさんはふふっと声を出して笑った。


「俺もね、君と同じような呪いが使えるんだよ」


 その言葉も口調も声色もとても軽かった。

 なので最初冗談を言っているのだと思った。


 私は少なくとも自分の目の前が常に雨なことについてそんな軽くは言えない。

 それともこの人の能力は軽く言える様ないいものなんだろうか。


 でも、いいものなら“呪い”なんて言い方をしないことにすぐに気が付いた。



「俺と引き合わせたってことは言っていいんだよね?」


 ヨイヤミさんはディーデリヒ様にそう聞いた。


「そのつもりで呼んだ。

邸に貴様は呼べないし、隣国との戦争の最中に呼び出す訳にもいかんだろう」


 ディーデリヒ様はそう言った。

 私には彼らの会話のほどんどの意味が分からなかった。

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