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雨降りの巫女と氷結の魔法士  作者: 渡辺 佐倉


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新しい服、新しい場所

 大体いつも一所にいられる時間というものは限られている。

 それがどのくらいの期間なのか、私はよく知っている。


 けれど、このお屋敷は暖かくて幸せでいつもより早く時間が経ってしまったように感じられた。

 勉強がとても楽しかったのもここを離れがたい理由の一つだ。


「一時の別れですわ」


 ラウラさん……、ラウラ先生はそう言った。

 私の力を使うために一度部隊の皆さんと辺境へ行くことになったと伝えられたのは一週間ほど前のことだった。

 ここへ来てからもう二か月近く経っていた。


「私はここでユイさんのことをお待ちしております。

ユイさんの好きそうな本を探しておきますね」


 私は本を読むのが大好きになった。

 この屋敷には書庫があってたくさんの本が収められていた。


 その本もきっと私が長くいるとカビが生えてきてしまうだろう。


 辺境にはこの屋敷にいる魔法士の半分ほどとディーデリヒ様が一緒に行く。

 フェリクスさんは今のところ同行するか分からないと言っていた。


 その道行用の洋服の改めて準備してもらった。

 この屋敷では基本ワンピースやブラウスとスカートのセットアップで過ごすことが多いけれど、戦闘を目的とした今回の行程ではふさわしくないだろうという事になった。

 最初に着替えとしてもらっていた軍服に似たデザインのブラウスとズボンももちろん持っていくけれど、それ以外に吊りズボンとシャツを何枚か、それからしっかりとした素材のブラウスを仕立ててもらった。


 この屋敷にやってきた仕立て屋さんは街にある仕立て屋の人と違って流れる様な美しいシルエットの服を着ていた。

 と言っても孤児院にいたときは誰かのお古ばかり着ていて、服を仕立ててもらったことは無い。


「彼女、だいぶ体格が安定したから採寸もお願いしますね」


 ラウラさんがそう言う。

 ここ二か月で私はだいぶふっくらとしたと思う。


 『まだまだ痩せすぎです』とラウラさんは言うけれど前よりずっと体はしっかりした気がした。


 それ以外に薄墨色に金糸と銀糸で刺繍を施された丈の長いゆったりとしたワンピースも作った。

 私が雨降りの巫女として誰かと会う時に着る巫女の服らしい。


「青空の色の方が良いのに」


 とラウラさんは怒っていたけれど私はこのとろみのあるしっとりとした生地と美しい刺繍が好きだと思った。

 それにディーデリヒ様は「きれいだ」と言ってくれた。


 薄墨色なのは雨でぬれたときも美しく見せるためらしい。

 水を含んでもつやつやとする鈍く光る特別な絹でできているそうだ。


 私の力が呪いなのか、それとも本当に巫女と呼ばれる様な力なのかは分からないけれど、この服にふさわしい働きが出来ればいいと思った。


 辺境の町は町と呼べない位さびれていた。


 実際、ここへ来る途中道はどんどんと悪くなり、ついに馬車が走れる道というものはなくなりそこからは徒歩になった。

 スカートで来なくて本当に良かったと思う。

 今回のために準備された靴もとても歩きやすいし軽い。


 けれど、こういう時雨が降り続けていることに申し訳なく思う。

 雨が降っていなければもう少し足元がマシだったかもしれない。


 だけど、雨が降っていることへの文句は誰の口からも出ない。

 私はなんの荷物も持っていないけれど、馬車からおろした荷物を担ぐ人、その場で組み立てた手押し車の様なものに荷物を積み込んでいる人もいるのに、誰も私に何も言わない。


 今までの暮らしでは何かあるごとに嫌味を言われていたのに今はそれが無い。

 それが逆に申し訳なさを募らせる。


「雨を止めることが出来ればいいのに……」


 思わず私がそう言うと、横を歩いていたディーデリヒ様はこちらを見た。


「いつかコントロールできるようになるさ」


 それは単なる慰めだったのかもしれない。

 けれど、私をみたディーデリヒ様の視線は真剣なものだった。


 だからその言葉は私の中にすとんと入ってきて、そして納得できた。


「頑張ります」


 私はそう返すとディーデリヒ様は私に微笑みかけた。

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