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雨降りの巫女と氷結の魔法士  作者: 渡辺 佐倉


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※ディーデリヒ視点

※ディーデリヒ視点


「これは……」


 フェリクスからの報告書を受け取ったディーデリヒは声を詰まらせた。

 そこにはユイがここに来るまでに受けた虐待の数々が書き記されていた。


 思わず紙を握りそうになって、寸でのところでこらえる。


 彼女の体格からしてまともな食生活はしていなかっただろうとは思っていた。

 だが、孤児院の経営状況はどこもギリギリのところが多い。

 だから仕方がない部分もあったかもしれない。そう思っていた部分もあった。


 けれど出された報告書に書かれていたのはそんな生易しいものではなかった。

 彼女が自分自身のことを呪われているから不遇だったと思ってる様だったがそんなものではない。


 直近の国立の研究所でさえ、一人だけ残飯を食事として出されていたと書かれていた。

 その上、研究とは名ばかりの体に負荷を与えてどのようなことが起きるかという実験が繰り返されていた。

 なんの目的かもわからないプロジェクトの一環として、一人毎日奴隷の様に暮らしていた。


 そして我々の部隊に嫌がらせとして押し付けられた。



「雨の中で火力を保てる火魔法士がどれだけいる」


 彼女がいるだけで水以外の魔法士はかなり行動が制限されてしまうのだ。

 彼女がいる間はおそらく戦争の形が変わるだろう。


 それに今まで誰も気が付かなかったのか。

 彼女の力が偶然だと思うならこのように虐待をする必要はない。

 ユイの力が本物だと気が付いていたからこそ人々は彼女を冷遇なんて優しい言葉じゃ表せない様な酷い目に合わせ続けたのだ。


 彼女の力に気が付いていたなら、それがどのくらい尊いものなのか分かる筈だろう。


 彼女が干ばつに苦しむ地域に行けば、そこは緑に覆われる地となるだろう。

 それにおそらく、長雨に苦しむ地に一度行った後、別の地域に彼女が行けば雨雲を共に連れて行ってくれるだろう。


 その可能性を彼女に今までかかわってきたすべての人間が捨てたのだ。

 魔法士ではないかと研究者や役人が何度も彼女の元を訪れていた。

 けれどその誰もが彼女の境遇を知っていた筈なのに見捨てた。


 自分が彼女に肩入れをしすぎている自覚はあるが、憤りが隠せなかった。


 彼女に見捨てられていたという自覚は無い。

 ただ人の役に立ちたいと健気に頑張っている。


 勉強の覚えも早いし、マナーも順調に身についていると聞いた。


 俺は彼女をどうしたいのだろうと考える。

 フェリクスがしたり顔でこちらを見ることがあるけれどあえて無視をしている。


「恋人にすればいいじゃないですか?

来年には彼女成人ですよ」


 そういう問題ではないのだ。

 今悩んでいるのは、そんなことではない。


 彼女を危険な目に合わせていいのかどうかだ。

 彼女を戦場に連れていくか、このままこの屋敷と領地を行き来してもらうか。

 もちろん部隊員全員で彼女を守る、本当に危険な目に合わせるつもりは無い。


 けれど、彼女の力が真に人々に素晴らしいものだと理解されるのはおそらく戦場に立って、その力を見せつけたときだろう。


 彼女の連れてきた雨雲を使って魔獣をせん滅したとき、それが一番だと思った。

 それなのに太陽をみてまぶしそうに目を細めた彼女を見てから決意が鈍っている。


 今の状態でも充分水魔法使いには益がある。

 潤沢な雨水で訓練できることも、上空の雲を捕まえて水として魔法を発動する練習も彼女がいるからこそだ。


 それだけでかなり彼女は役に立っている。


 けれど――


 俺は自分につき従う人間に責任を持たなければならない。


「ユイに旅の準備を」

「かしこまりました」


 フェリクスはそう言って頭を下げた。

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