恐怖の尻揉み魔、見参!!
結構唐突な内容ですが、生暖かい目でご覧下さい。
お腹が一杯になって、既に睡魔が私を眠りに誘おうと、囁いてくる。
『ほらぁ…寝ちゃおうよ?今ベッドに沈めば気持ち良いよぉ~?』
『キャハハッ!眠れぇ~!全て忘れて微睡みの世界へ堕ちちゃいなよ?』
全て……忘れる……。何を……?
『あっ!お前ぇ~!余計な事を言うなよっ!!』
『何だとぉ~?やるかぁ~?コイツめぇ~!』
私の脳内で作り出した睡魔同士が喧嘩を始める。
ポカポカと両者殴りあい、最終的には両者共に消えた。
そう、眠気が去ってしまったのだ。
そして思い出す。アルビオレと、ルルさんはあの後どうなったのか?
ガバッと飛び起きた私は、辺りを見回すが誰も居ない。
食器などが片付けられているから、どうやらマオカもこの部屋の中には居ない様子。
扉の前まで音を立てない様に歩いて、コソコソと進み、ゆっくりと数センチ程、扉を開けて廊下の様子を伺うが、そこには誰も居なかった。
辺りはまだ明るい。私が睡魔と戦っていたのは、僅かな時間だったみたいだ。(まぁ、戦ったっていうか、勝手に睡魔同士が戦って両者共に消えたのだが)
私は若干ふらつく身体を叱咤しながらも、定番の男の子ルックで、邸をうろつく事にした。
ドレスじゃ思うように動けませんからねぇ。
長い髪を帽子の中に隠し、古くてヨレヨレな上着と、裾がほつれているズボンを履いた。
あら、不思議?冴えない風貌の少年の出来上がり!
って、誰が冴えないだ!コラッ!!などど一人ツッコミをしつつ、私は自室から静かに外へ出たのであった。
自室から出てまだ十分程度ですが、既に迷子です。
この邸……無駄に広く無いですかね?
しかもどこも似たような造りの扉ばかり。
嫁の逃走防止には役立ってますよ……ええ。
この分だと、奥の手を使うしか無いな。
その奥の手とは、窓の外に生えている木を伝って降りるという、原始的な貴族の令嬢にはあるまじき行為だ。
しかし背に腹は変えられん。よっしゃ、この迷宮の様な邸から外に出るためには多少の危険も致し方ないな。
私は手近な部屋に入ると、窓を開けてバルコニーから周りを見回した。
するとちょうど良い場所に、木が生えている。
流石に何もせず、そのまま木に飛び移るのは不味いと考えた賢い私は、体にシーツを裂いて作った命綱を巻き付けると、バルコニーの端にも命綱を結んだ。
「ヨシッ!女は度胸だ!!」
どうやら邸の三階部分に居るらしく、結構な高さであった。
木登りに慣れている私でさえ若干足が竦んでしまったのは秘密だ。
「とりゃっ!!」
ジャンプで枝にぶら下がる。おおうっ!中々に頑丈な枝だな。私の体重でもびくともしないぞ?
ハッハッハッ~!楽勝ですなっ!直ぐに地面ですよ!と、調子に乗ったのが良くなかった。
今はとても反省している……いるので、誰かぁ~!!助けて下さ~い!!
そう、調子に乗った私はスルスルと枝から枝を伝って降りていたんだけど、途中で枝がボキッと折れて…ね?
うふふ……現在絶賛宙ぶらりんですが、何か?
しかしえがった~。命綱付けといて本当にえがった~。
無かったら即死だったよ。
しかしどうするべきか……。このまま宙をブラブラしてるのかね?私は。ふぅ…。
そして私の全体重が、腹にめり込んで苦しくなって来ました。
こんな見出しの話が、王都を席巻するんじゃない?
【侯爵家の若き花嫁、内臓にダメージ!?邸のバルコニーから投身自殺?】などという恥ずかしい話題がっ!!
嫌じゃ~…流石に私もそんなの、死んでも死にきれんよ~。
ジタバタと、どうにか枝を掴むため、左右に揺れてみます。
「ぐぇぇぇ……苦ちいっ!ぐぇ…ぐぇぇぇ……」
苦しみながらも枝を掴むため奮闘する私でしたが、お腹が限界です。モゲルわいっ!
ぐぇぐぇ言いながらユラユラ揺れていると、下から知らない人の声が聞こえて来た。
「あん?珍しいな?侯爵家で自殺かぁ?物好きだぜぇ~」
と、暢気な男性の声が聞こえて来る。
私はこれが最後のチャンスだと思い、最後の力を振り絞って、助けを求めた。
「ぐぅ……たっ…助けて…下さっい…ぐぇぇぇ…」
「あ?自殺してんじゃねぇのか?事故か?まぁ、助けてくれってんなら、助けてやるぞ坊主~!」
私の助けが通じたのか、男性はイソイソと持っていた槍を、こちらに構える。
えっ?ちょっ…ちょっと待ったっ!!まさかとは思うけどそれ、こっちに投げませんよね?
「おう、坊主!男なんだから情けねぇ悲鳴は上げんなよぉ~?」
そう言うと、ニヤリとその男性は笑って、槍をぶん投げて来た。
「ぐぇぇぇ……ぐぇぇぇ……止め…ぐぇぇぇ…」
もうそんな悲鳴しか出ませんからっ!!
男性が投げた槍は、私の身体を苦しめながらも助けていた命綱のシーツを寸分も違わず、分断して邸の壁面にズドンという音を立ててめり込んだ。
そして命綱のシーツを分断されたと、いうことは私はそのまま下に落下したのであった。
「うっ…ぎゃぁぁぁぉぉぉぁぁぁ~!!」
ポスンッ……。
ぁぁぁぁぁ~?あっあれっ?いつまで立っても痛くないぞ?私は潰れたトマトのような感じで潰れている筈なのに。
ソロソロと瞑ったままだった、両目を開くと、目の前には野性味を帯びた男性の笑い顔が、見えた。
「ヒャハハ…坊主…男の癖に、情けない悲鳴だったなぁ…ヒャハハ…」
私は夢中でその男性の悪びれない顔を、ペチペチと叩いてしまっていた。気が動転していたせいで、余計な事も口に出してしまった。
「ちょっと!誰が坊主よっ!!信じらんないっ!バカー!バカー!!」
冷静に考えてみれば助けてもらったのに、何て事をしがらなら言ってしまったのか。
だけど、気が動転していたその時の私は、ワアワア言いながらずっと男性を叩いていたのであった。
少しして、男性は意外そうな表情をすると、私のお尻をいきなり掴んで来た。
「きゃっ!なっ…何?何で…えっ?どうして?」
突然の意味不明な行動に、私は更に混乱するがこの男性の放った次の一言で、一気に冷静になった。
「あん?ふむ……。そうか…間違いなく女だな。尻が女の尻だしなっ!」
尻で女かの判断をするなよっ!!
助けてもらっておいて何だが、コイツ…変態じゃ無いのか?
「ふっ…。俺様位の尻フェチならば、この程度…朝飯前だぜ……」
何を言ってるのかしら、この変態は?
「礼なら要らないぜ?女を助けるのは騎士の仕事だからなっと!」
更にお尻をグニグニ揉まれる。
ちょっ…ちょっと待てっ!!貴方…今、何て言ったの?騎士って言わなかった?本当に?女性のお尻を
揉む騎士がどこにいるのよっ!って?ここにいるのか?
「貴方……。騎士だったの?これで?」
野性味を帯びた、無精髭の男性の顔をマジマジと見てしまう。
これが騎士とは……堕ちたな。
いまだに私のお尻をモミモミしてくる、男性の腕をつねると、「痛ってぇなぁ……」などと言いながらも、放してくれる。
「ヒャハハ…俺様は正真正銘の、近衛騎士だぜぇ…?」
うげっ!まさかの近衛騎士?高位貴族しかなれない筈……えっ?この人、これで高位貴族なの?
「ほっ…本当に?」
私があからさまに疑うと、男性はやれやれというジェスチャーをしながら、近衛騎士の紋章を見せて来た。
ううっ……。私ごときの階級では、本物か偽物か何て判別はつきませけど~?
でも、紋章の偽装は極刑だから多分本物だよね?
つまりは、私よりも高位な貴族様であり、偉いのよ。そうは見えないけどね。
「疑ってしまい、申し訳ありませんでした!!それに助けて頂いて、お礼もせずに……」
私は今までの無礼を詫びるため、頭を下げたのだが、男性から帰って来たのはこの一言だった。
「だ~か~ら~!お礼はいいって言ってんだろ~?尻も揉ませてもらったしなぁ~ヒャハハハ~」
う~ん。やっぱり下品。
「そこで何をされて居るのでしょうか?」
背後からいきなり声を掛けられる。
うわあっ!この声は……も…もしやラハグローさんでは…?
チロリと、横目で見ると間違いなくラハグローさんだった。
うぎゃ~こんな姿を、している事がバレたら……侯爵家の嫁に相応しくないですね、離縁しましょうか?とかになるのでは?
それは困るっ!
アルビオレと、王子の隠れた愛の育みが近くで見れなくなっちゃうっ!!
私がアワアワ慌てていると、そんな私ごとマントに包み込みながら、男性はヘラヘラと笑いながらラハグローさんに軽く言葉を返した。
「おう、ラハグローじゃねぇか?久し振りだな?」
「貴方様でしたか……。そちらの方はお連れ様で御座いましょうか?」
私がマントに隠れつつも、高速で頷くと、男性は察してくれたのか、ラハグローさんの言葉を肯定してくれる。
「あん?そうだけど、まさか俺の連れに興味を持ったなんて言うつもりじゃねぇよな?」
「ふぅ…。当たり前で御座いましょう?アルビオレ様が、貴様の到着を待ちわびておりましたので、お迎えに伺った所存で御座います…」
アルビオレが、この男性の到着を待ちわびている、ですって?
えっ?新たな恋敵……ライバルって奴かしら?
王子と無事結ばれたくば、俺を倒して屍を踏み越えて行け的な?
そっ…それはアリね?この尻揉み魔……黙っていればワイルド系で行ける外見ですからね?
はっ!そうかっ!その設定使える!?
王子のお尻を揉もうとする男の魔の手から、アルビオレが王子を守り、愛が育つ……行けるっ!!
私が妄想に耽って居ると、何故かまたお尻を揉まれた。
「きゃっ!ちょっと!何で揉むのよっ!!」
上目使いで睨みつけると、男はまた妙な事を口走る。
「いやぁ、だって何か尻を揉んで欲しそうだったし?それに何でって聞かれると、そこに尻があるから!って答えるしかねぇなぁ………」
「何だそれっ?しかも揉んで欲しかったのは、王子の尻であって、私の尻じゃ無いわよっ!!」
「はあっ?いくら俺が尻の伝道師でも、男の尻は揉まねぇなぁ……。しかも王子のかぁ…揉んだら即、打ち首だろぉ?お前…凄いこと考えるなぁ……」
うぎゃっ!ついポロリと、言っちゃったっ!!
ふっ…不敬罪で……打ち首ですかねぇ…。どうしよう。
あにゃにゃにゃにゃ…。どうしよう?どうしよう?
混乱の極みにある私に、男が囁いた。
「ふーん…。黙ってやってても良いけど…?」
「ええっ?本当に?貴方、実はいい人だったの?」
「ヒャハッ…タダじゃねぇがな?」
この男…高位貴族の癖に、貧乏人から金取るのか……世知辛い世の中だね?
「あまり手持ちは無いわよ?でも、もう少しすれば実家からモロコシが届くから……」
「ヒャハハハッ…違げぇよ?金じゃねぇ…ましてやモロコシでもねぇ……」
じゃあ何だって言うんだ、この尻揉み魔は?
ん?尻揉み…魔?って、まさかっ!!
「尻だっ!会うたびに尻を揉ましてくれるだけで良いぜぇ?」
「お断りしますっ!!」
「お前に拒否権は無いぜぇ?尻揉まれんのと、打ち首とどっちがましだぁ?」
どっちも嫌だが、打ち首されたら確実に死ぬからね?尻は揉まれても死にません……うぐぐ…背に腹は変えられん。
「揉みで……お願いします………」
私が尻揉み魔に屈した瞬間であった。
この尻揉み魔は、実は話に出てます。
詳しくはブクマお礼の300件の話を参照して下さいませ。
別に読まなくても問題は無いですが。
そいつが、今回の尻揉み魔です。




