9.新たな出会い
どうも遅れましてすいません!
なんもかんもテストが悪い!
そう、あのテストさえなければ一週間は早く…
とまあ、そんな戯言は置いといて、無事メンバー一週です。やったぜV。
いやもう本当一ヶ月近くも開けちゃって申し訳ない限りです。
これからも自己満足的にのらりくらりやっていきます。どうぞ、お付き合い下さい。
「んん…」
朝だ。
といっても、この世界の朝は暗く、寒く、気分のいいものではない。
元の世界の様に惰眠を貪る事も無く、もそもそと起き上がって今となっては相棒となったクラスメイトを探す。
「リィンー、何処ー?」
しばらく待っても返事はない。
おとなしく待つか、それとも探しに行くべきか。
「よし、探しに行こう!」
昨日、“簡単に出歩かない事”と、リィンに説教されたが大丈夫だろう。
そもそも昨日だってちょっと知らない道を見つけたから危ないかどうか確認しに行っただけだし、あそこまで怒ること無かったと思う。
今日も朝早くから何処かにいってしまうリィンが悪い。
思いがけない外出の口実に胸を踊らせながら、“こっち”に来てからやっと慣れてきた電子のドアーードアノブに意識(意識?)を向ける事でロックが解除されるーーを開けて湿った風が吹くフィールドへと降り立った。
ここは、裏箱庭の一つ、職人の街、“裏ペタラ”
静かに閉められたドアに掛かっていたプレートにはこう書かれている。
『ゲームオーバーまで、あと9週間』
*
キィン、キィン
リィンを探して歩く事数分。
その音は裏ペタラの街のある施設から響いていた。
「思ったよりも早く見つかったなぁ…」
ロキが言うには、裏箱庭に死んだプレイヤーが転送されるのは朝10時なのだとか。
そこからマッチングまでは裏の世界で過ごし、12時になった瞬間に全員が街の外に転送され、復活するための戦闘が開始される。
それまでプレイヤーの意識は失わせているらしい。
簡単に意識を失わせると言っても相当な負荷がかかると思ったが、流石に大手ゲーム会社のサーバーをハッキングするだけの事はあった。
この仕様はかなり嬉しい。
そもそもプレイヤーでありながら敵サイドである僕達はプレイヤーから恨まれる事が多い。
24時間休むこと無く死亡していくプレイヤーが随時送られて来たらこちらとしても気が休まらない。
つまり、今響いている音は間違いなくリィンが鳴らしているものだろう。
恐らくは練習だろうか。
それなら自分も呼んでくれればいいのに。
そう思いつつ、“修練場”と書かれた看板をぶら下げたドアを開けた。
「やっぱりリィンか、おは「ゼアアアア!」よ…う……」
朝の挨拶が凄まじい気合いによって掻き消される。
修練場で選択して出せるレベルではかなり上位のモンスターは、リィンの一撃によって四散し、そこにはキラキラと粒子が舞っていた。
「おはようリィン、凄い気合いだね…」
「あ、アイド。いつ来たの?」
ここ数日の間で、かなり色々な事が起きた。その中でも彼女との距離が縮まったのは僕の歴代メモリーの中でも上位にランクインできる程の出来事だ。
ロキによって裏世界の主の一人(二人?)の元へと送られた僕達だが、まずは一層の商業の街、ペタラの“裏”、裏ペタラへと配置された。
他の街にも僕達と同じ様に一人ずつ配置させるはずだったのだが、僕達だけ手違いで二人になってしまったのだとか。
他にもそれぞれマール、ノルン、ゾッカの裏にも主がおり、それぞれの主に一人ずつ“家臣”とやらが付くのが決まりらしい。
「それにしてもこんな朝早くから熱心だねリィン。プレイヤーが落ちて来るまでにまだ3時間はあるよ」
「だってあいつら落ちてきたら練習とか不可能だし…」
持っていた剣を軽く振って消失(最初はこの操作すらも練習を続けた)させながら、リィンがぼやく。
「まぁ、そうだもんね。それに、まだステータスも心もとないし」
ロキによってボーナスされた経験値のおかげで、僕達のレベルは20前後となっている。
昨日まで闘っていたプレイヤーのレベルは10前後。
もう十分とも言えるが、戦闘のリズムを掴むためだ。
この修練場は毎日の日課となっている。
この修練場はロキが用意した物らしく、ロキ曰く『フィールドに出てモンスターを狩れない分ここで無限にPOPさせてあげるからがんばってねー』と。
隣のリィンはその言葉に暫く絶句していたが、無感動な僕に気づいてそれがどれだけ凄い事か熱弁してくれた。
今ではこの修練場無しには生活出来ない状況だ。
ちなみにこのリィン、もとい神無さんは重度のネットゲーマーらしく、それらしい用語をたくさん教えてもらった。
POP=出現もその一つであり、かなりお世話になっている。
「あら、私達の可愛い家臣さん達」
「やあ、僕達の可愛い家臣さん達」
「「ご機嫌いかが?」」
「あ、おはようアイリス、イリス」
現れたのは裏ペタラを支配する裏世界の主、アイリスとイリスだ。
いつもニコニコしている双子で、喋り方も特徴があり、見た目も綺麗だ。
このゲームを作ったヴァーテック社が気に入ってるのがわかる。
ちなみにアイリスとイリスという固有名は本人が名乗っているもので、アイリスとイリスの頭の上に表示されるHPバーの横に書かれているのは“アリス”という三文字だけ。
神無…リィンさん曰く、固有名を持つ敵はネームドBOSSという物で、かなり上位の敵だとか。
アリスーー改め、アイリスとイリスはニコニコ笑いながら言う。
「朝の修練はいい事ね」
「僕らは朝食を食べるけど」
「「一緒にいかが?」」
相変わらずの読めない笑顔で誘われる。
裏世界の主の家臣、それが何をすべきかはロキは教えてくれなかった。
ただ、その分アイリスとイリスから要求されれば断ることはできない。
ここは大人しく朝食にありつこう。
そう考えた時。
「いえ、私達はまだ修練が残っておりますので」
リィンが断った。
え、断っちゃうの?
そう思ったのは束の間で。
「そっかー」
「それではさようなら」
「「私(僕)達の可愛い家臣さん達」」
そう言い残すとアリス達は瞬時に姿を消した。
「って、なにやってんのリィン!?せっかく招待してくれたのに!」
「え、もしかして一緒に食べたかったの?」
驚いた様に目を見開くリィン。
「いや、なんか家臣として断るわけにはいかないっていうか…」
そこまで驚かれるとは。
こういう誘いを断るのって当然の行動なのかな?
「相手は中に人が入ってないNPCでしょ?相手は所詮プログラムなんだから、決められた行動しか出来ない。プレイヤーが“いいえ”と選択するたびに怒る様なプログラムを入れる程、ヴァーテックは暇じゃないわよ」
この異常事態に難なく動いて適応してる辺り、単なるプログラムじゃないと思うんだけどなぁ…
まあいいや。ネットゲームはリィンの方が先輩なんだし、任せておこう。
「それより、折角二人で修練場にいるんだし一緒にやらない?もっとレベルを上げたいし、実戦経験も少ない訳だし」
当初の彼女からは考えられない程に前向きな発言。
裏箱庭生活の3日目くらいから、彼女はタガが外れた様に積極的に戦闘に参加している。
「そうだね。俺もそろそろこの武器の扱いに慣れたいよ…」
「ぷっ…くくっ……それが出た時の貴方の顔ったら…」
「わ、笑うなよー…折角攻撃に全振りしたのに、こんな武器が出るとは思わなかったよ…」
ぼやきつつもこの世界を共に戦う相棒の姿をイメージする。
(硬く…長く…力強く……)
ポンッ
出て来た。
俺とこの世界を戦う相棒。それは、固有名“ジャイアント・ナッツクラッカー”和訳すると、“巨大な胡桃割り機”となる。
現れたのは、ただの胡桃割り機をそのまま大きくした物だ。全長2mちょいの巨大な棒となんら変わりない。
戦うにも、そのまま殴るしか出来ない様なシロモノだ。
これは、裏箱庭生活の初日にアリス達からプレゼントされた物で、唐突に武器ぐらいならそれなりに高級な物を用意してやるからイメージしろ、と言われた。
焦って何かイメージしようとするものの上手くいかず、今朝アラームで鳴らした胡桃割り人形をイメージしてしまった結果がこれだ。
現れたナッツクラッカーを見て無表情を貫くアリス達と、横で爆笑するリィンが対照的だった。
…僕?しばらく絶句していたよ。
ちなみにリィンがプレゼントしてもらったのは“エルダーナイトタルワール”
和訳すると老騎士の曲刀となる。
名前からして既に強い上、レベルアップを重ねたリィンのステータスも合わさって暴力的な強さを誇っている。
リィン曰く、タルワールというのは主に暗殺か曲芸に使われる武器で、老騎士がそれを使うのはどうなのかと言っていた。
確かに見た目も黒塗りで光を反射しない様、マットブラックの塗装が施されている。
こんな刀を振り回す老騎士は嫌だ。
ちなみに、暗殺用の武器という事で急所判定(これもリィンから教えてもらったが、目や首などの実際の急所)の時のダメージが他の武器と比べて大幅にブーストされている。
そのおかげでリィンの攻撃力不足はほぼ解消されたと言っていい。
ちなみに俺の胡桃割り機には能力らしい能力は無い。
まあ、当然なんだけどね!
ナッツクラッカーを出された時はアリス達に抗議したものの、
『出されたモノは戻せないしー』
『もう一回出すことも出来ないしー』
『『初心者武器セットでも使うー?』』
と言われ、無念だが妥協した。
この初心者武器セットは、望む形の武器を創り出す事が出来るが、性能は低いわすぐ壊れるわで裏箱庭生活での最初の数戦でしか使ってない。
まあ、最初の数戦をこなした後でアリス達に呼ばれた訳だが。
そんな訳で表箱庭(表?)のプレイヤーも、そろそろプレイヤーメイドやダンジョンドロップの武器に切り替える時期だろう。
アリス達によると、プレゼントしてもらったこの武器の性能はかなり高く、ゲームサーバーでも上位に食い込むレベルの武器らしい。
自慢げに話すアリス達が可愛かった。
「さて、やりましょうか。まだこの村が静かなうちに」
右手と左手、両手に一本ずつタルワールを構えたリィンが入り口付近のパネルのスタートボタンをタッチする。
「そうだね。ドンドン稼いじゃおう」
俺もナッツクラッカーを構え、突如として現れた敵と相対する。
余談だが、裏箱庭まで落ちてきたプレイヤーは、翌日の朝10時まで自分のメニュー画面を操作する以外の行動が出来なくなる。
その間に装備の変更や、職人系プレイヤーはスキルを戦闘系の物に変える事が出来る。
実際はスキル変更にかかるペナルティも、この時は発生しない。
その為、スキルだけなら同レベルのプレイヤーと遜色ない程になる。
…それでも、戦闘の勘は取り戻せないのだが。
そして、戦闘についてはロキが説明した通りだが、ロキでも説明してなかった事がある。
それは、“家臣に切られた場合”である。
家臣に切られたプレイヤーは、“ステータスが初期化される”。
具体的には、全てのステータスがLevel1のものとなり、スキルはすべて削除される。
その後、始まりの街マールへ転送される。
最初、ロキから個別に聞かれた時は自分から表に返していいのかと聞いたのだが、ロキの返答は想像を超えていた。
『んー?別にいいんだよ。その変わり、ステータスウィンドウと頭の上に出てくるHPバーの横に〈死に戻りマーカー〉をつけさせて貰うから』
『〈死に戻りマーカー〉?』
『そーそー。そのマーカーがついてる人が再び裏箱庭で負けた場合は、強制ログアウト♪素晴らしいよねー』
『え、強制って、え…いつまで?』
『んー…10週間。ゲームが終わるまで、今か今かと意識の覚醒を10週間待ってもらうよ。…壊れちゃうかもね?』
ロキは心底楽しそうな声で、絶句する僕に構わず続けた。
『この処置は、裏箱庭に落ちた人達が、結託して勝者と敗者の決定した出来レースを仕組まない様にしたんだ。いくらペナルティがあるとはいえ、自己犠牲の精神丸出しのつまらない奴が出て来ないとは限らないからさ?死んだ奴には、正真正銘のデスゲームをやってもらうよ。何、最初から落ちてる人に頼んで負けてもらえばいい。…相手もマーカー持ち?人間の醜さを見せてもらうよ』
『でも…だって…僕達は人殺しをする必要は無いって…』
『ここまできて尻込みするのかい?…君のお姫様を守るんじゃ無いの?』
『…っ!』
そうだ。
俺は、守ると決めたんだ。
リィンを……神無さんを。
『さて、それじゃ報告おわりー。リィンちゃんの方には君から言っておいてね、王子様?』
『えっ…』
そう言って、ロキは姿を消した。
…ここまでが僕の伝えてもらった全てだ。
同時に、リィンに伝えた全てでもある。
リィンに伝えるかどうかはかなり迷ったが、マーカーが外からでも用意に確認出来る事を知り、伝えることにした。
だが、その時のリィンの顔を見て、伝えた事を後悔した。
翌日から一人で戦うことを覚悟した程だ。
だが、翌日になってみるとむしろ晴れやかな表情で、戦闘を楽しんですらいる彼女の姿があった。
この一週間で、どんな心境の変化があったかはわからない。
だが、彼女は誰よりも真剣にゲームをプレイし、誰よりも楽しんでいた。
「ギャァァァァオ!!」
呼び出されたのは、陽の塔第一層のボスを任されている二頭の飛竜だった。
今では俺達二人の肩慣らしとして、日々お世話になっている。
「あはっ!あははははは!!」
笑ながらタルワールを投げ、切りつけ、叩き下ろす。
戦闘に関してはほとんど彼女任せで、俺は後ろで見てるだけのことが多い。
「よっ…と!」
俺はただ、こうやって彼女の討ちもらした敵を叩いているだけだ。
攻撃全振りのナッツクラッカーの一撃はかなりの物で、飛竜は一撃で四散した。
「よっしアイド、どんどんいくわよ!」
おとなしかったリィンも、今ではすっかり戦闘狂だ。
それでも対人ではすごく落ち着いている。あのあたりの切り替えは学びたいな。
「はいはい」
苦笑しつつも、新しい死亡者が降ってくるまでの時間を有効に使うため、急いでリィンの元へ行く。
“裏箱庭”始動から一週間。
裏ペタラには、リィンとアイド以外、現在唯一人の住民もいなかった。
*
「遅い!」
「ごめんごめん…ええっと…ルリ」
箱庭のゲーム開始から一週間。
早くも第4層までの攻略が終わり、俺達も上位のプレイヤーとしてそこそこ名前が通るようになってきた。
だが、第4層の攻略を終えてボスを倒した時、今まで一緒に戦ってきた愛剣と、リィンの両手剣が折れてしまったのだ。
それで二人で相談した結果、“職人の街”ペタラへと足を運び、新たな剣を探す事にした。
「待ち合わせに遅れるとか、どんな神経してんの!?てか、軽々しく名前で呼ばないでよね!」
「ごめん…でも俺、ルリって名前しか知らないし……」
「そんなの私だって知らないわよ。自分で考えておきなさい」
理不尽だった。
そもそも、俺が考えるって言ってもリアルネームすら知らない訳だし…
「んー…ルリリ…ルリっち…ルリ坊…ルリ子……」
「ちょ、ちょっと何よそのネーミングセンス!?」
「ルリ男…ルリナ…お、ルリナなんていいんじゃね?どうよ、ルリナ」
突如として舞い降りた天啓。
ルリナ…ルリナ。どうよこの響き。
なんか最初からそんな名前だった気さえする。
「ふ、ふざけるんじゃないわよ!てか、なんでよりにもよってその名前なのよ!ネーミングセンスも終わってるし!」
罵倒された。
「お、終わってなんかないやい!終わって…ないと、いいんだけどなぁ…」
自信満々だっただけに、ここまでストレートに罵倒されるとダメージがでかい。
なんかルリが変な事言ってた気がするけど、気にならないレベルだ。
「はぁ…もういいや。とりあえずペタラに行こうよ、ルリナ」
「は、はぁ?なんであんたにルリナって呼ばれなきゃならないの!?しかも遅れたあんたが何言ってんのよ!」
「ルリって呼ばれるの嫌なんだろ?もうルリナでいいよ、呼びやすいし」
何故か取り乱しはじめるルリ。
この子が慌てるのは凄い珍しいので、当分このネタで弄ってよう。
「ま、待ちなさいよ!」
「ほらほら、急いでー」
構わず転移門へ行く。
このゲームでは、陽の塔以外の場所へは転移門を使う事でそのまま移動出来る。
唯一、陽の塔のみがダンジョンやフィールドをわざわざ通らないと辿り着けない様になっているが、ないよりはよっぽどいい。
それと、最近学んだのがルリの扱いについてだ。
相手にしない、放置するなどを繰り返すと、なんだかんだで最後にはついてきてくれる。
根が寂しがり屋なのかもしれない。
「うし、じゃあ行こっか。転移、ペタラ!」
「待てっつってんでしょうが!もう!……転移、ペタラ!!」
突如、光が体を包み込み、何も見えなくなる。
少しの浮遊感の後、目の前に広がってるのは今までいた騒がしい“剣の街”とは違い、“職人の街”然とした落ち着いた空気だった。
「おお…凄いね。まさに職人って感じで」
「貴方とは大違いね。まぁ、空気だけが職人でも困るわ。問題は私達の剣に相応しい物を作れるか、それだけよ」
「あ、“私達”って事はパーティーとして意識してくれてるの?やっぱり」
本人としては自覚ないんだろうけど、やっぱりポロッともらしてしまう物なのだろうか。
そういう所、抜けてるって言うか、可愛いよなぁ…
「だ、誰がアンタの事なんて!べ、別に私は…」
「はいはい。そういえば、なんかこの街、空気がおかしくない?」
「え、静かって事?確かにいつものあなたの騒がしさと比べれば雲泥の差だとは思うけど…」
「違う違う。なんかさ、みんな沈んでるって言うか、んー…葬式みたいなムード漂ってない?」
「え…ああ、なるほど。確かに活気が少ないっていうには静かすぎるね。まるで自重してるみたいだし。あのマークと関係あるのかな?」
指差すルリの先を見ると、ことさら不幸そうな顔をした人が酒場に入って行く所だった。
「マーク?どれ?」
「ほら、HPバーの横。ギルドマークとも違うみたいだし…」
本当だ。その男の頭上には、トランプのジョーカーの様にデフォルメされた死神のマークが書かれている。
その死神はやけに不気味で、デフォルメされたからこそのより凶悪な雰囲気を漂わせている。
(こういう所の観察眼はするといんだよなぁ…)
嬉しいような悔しいような…
「じゃあ聞き込み行きますか。まずはあの酒場で」
「え、ちょ、ちょっと早すぎない!?」
「問答無用ー。ほら、行くよー」
「え、…わ、わかったわよ!行けばいいんでしょ行けば!」
強引に同意を得て扉を開ける。
職人の街ということで、僕達みたいな他の街から来た人は珍しく無いようだ。
あまり注目されることもなく落ち着いて様子を伺えた。
他のゲームで情報収集の場として扱われる通り、この“箱庭”でも情報収集する時の鉄板として酒場は存在している。
というより、酒場ぐらいしか街で集まれる施設が無いので必然的に集まってしまうのだが。
「んー…よし、あの人にしよう」
「え、ちょっと、勝手に決めないでよ!」
僕が最初に選んだのは、酒場の隅でフードを被り、静かにグラスを傾けている人物だった。
「ゴメン、ちょっといい?」
酒場というのはあまりにも陰気なこの街の酒場で、あまりにも自然に溶け込んでいる。
ということは、他のゲームでも経験を積んだベテランプレイヤーか、この街に馴染んだベテランプレイヤーのどちらかだろう。
とちらにしても、話しかけて情報を貰えれば万々歳、パーティーを組んだり武器を貰えれば勝ち組の仲間入りだ。
どんなゲームでも、ベテランの援助ほど心強い物は無い。
「…何?」
そう帰ってきた言葉は、ちょっと場違いな程に綺麗な声。
まさか女性プレイヤーたとは思わなかった(このゲームで性別詐称は不可)ため、少し言葉が引っ込む。
「あ、いや…ちょ、ちょっt「ちょっといいかしら?」………」
本当に…頼りになる相棒だ…
まあ、台詞を遮られたことはこの際置いておく事にして、情報の入手だ。
女性ということで心配だったけど、同じ女性のルリがいる。
幸いルリも目的は了解している様だし、上手いこと情報だけ引き出そう。
って訳で、ここは黙っておくのが得策!べ、別に、異性に話しかけるのが苦手とかじゃ無いからな!
「貴方、この街に来て何日?私達、始めてこの街に来て困ってるのよ。少し話を聞いてもいいかしら?」
おお…僕以外には凄い礼儀正しいな。
言葉の端々から上から物を見ているムードが漂うのはこの際置いておこう。
「えー…めんどくさい」
「はぁ!?」
なんとこの少女、落ち着いた雰囲気、声に加えて、相当な面倒臭がりの様だ。
気怠げな声に加え、フードの中の髪をかきあげる仕草、椅子を立ち、足早に出て行こうとする動作、全てが僕達と話すのを拒絶している。
「って、ちょっと待って!」
冗談じゃない、いきなり逃げられるなんて後後ケチがつきそうだ。
それに、あの酒場で相手に話しかけてすぐ逃げられる様な奴の相手をしてくれる人もいなさそうだ。
ここはなんとしても捕まえないとっ…
「なーんてね♪」
「……はぁ?」
慌てて扉を開いて追いかけようとした僕の鼻先に、その人は立っていた。
「ちょっと、いきなり走り出さないで
……え?捕まったの?」
後ろから走ってきたルリも驚いている。
「んっふっふっー。君達は知ってるよー。確か、ルリちゃんと……そう、シオル君だ」
「え、何で知ってるの?」
「君達は有名だからねー。めちゃんこ強い剣士の2人組、シオルとルリってので有名だよ。特にルリちゃんは、女性プレイヤーなのに男性プレイヤーをも蹴散らす勢いだからね」
なるほど…それで俺たちのことを知っていたのか。
俺の名前が出るのが遅かった気がするが、気にしても仕方ない。
「…って、僕らもしかして有名プレイヤーの仲間入り!?やった!」
「うーん…あまり目立ちたくは無いんだけど…」
「まあまあ、そんな有名プレイヤーのお二方に協力出来たとあればボクとしても自慢になるしね。んで、何が知りたいんだっけ?」
フードの少女が興味を持ったみたいだ。
これが有名プレイヤーの力か。
ルリは嫌がってるみたいだけど、ありがたく使わせていただこう。
「えっと…いい武器を探してるんだ。それでこの街に来たんだけど、様子がおかしいから気になって…」
よし、ちゃんと話せているぞ僕。
なんだかこの人、女って感じがしないんだよなぁ…喋りやすいからありがたいんだけど、どうも気になる。一人称の所為かな?
「あぁ…なるほど。外から来た人でも知らないんだね」
「やっぱり何かあったんですか?」
勿体ぶる様な態度。
何かあったのだろうか。
ここはゲームの世界だ。何があってもおかしくは無い。
「何人かの頭の上についているマークみたいなの、わかる?」
「あぁ、さっき見たけど…」
「それ、≪キルマーカー≫って呼ばれててね。話によると、キルマーカーを持っている状態で裏箱庭の勝負に負けた瞬間……永久にこの世界からログアウト、らしいね」
「……………え?」
話された内容に思考が停止する。
永久にログアウト?それはゲームに参加出来ないどころか、死ぬって事?そんなの……
「…デスゲーム?」
「まあ、そうとも言うね」
隣のルリとも思考が一致する。
デスゲーム?そんなの…
「無茶苦茶だろ…」
「ボクもそう思う。このサーバーを乗っ取った“ロキ”とか言う奴の事情が変更でもされたのかな?まあ、始まったもんは仕方ないよ。精々死なない様に鍛えないとね」
「それで、≪キルマーカー≫とやらはどうやったらつくの?」
ルリが肝心なところを思い出させてくれる。
そうだ。確かにその通りだ。
≪キルマーカー≫さえつかなければ、いくら死んでも戻って来ることは可能だ。それもプレイヤー同士の戦いなら負けるとは思ってない。
それなら≪キルマーカー≫さえ回避していればいい。
「ああ、忘れていたよ。確か、ここで死んだ人は“裏箱庭“に転送されるんだっけ?んでそこにいる番人?みたいな2人組にHPを全損、つまり殺されるってことだね。されると、≪キルマーカー≫付きで強制生還。ただし、経験値やスキルはオールリセット」
「…はぁぁ!?」
あんまりな内容だ。
つまりは裏箱庭で戦闘中、邪魔してくるのだろうか。
そもそも番人がどんなものかもわからないし、オールリセットした上で死んだら負けなんて辛すぎる。
「えっと…≪キルマーカー≫付きでも裏箱庭で勝てば戻ってこれるの?」
「そうらしいよ?と言っても、まだ≪キルマーカー≫付きで死んだ人はいないらしいけど」
「そっか…………じゃあ、番人ってどんなモンスターなの?」
それなら裏箱庭で勝てばいい。
だが、問題は番人だ。
見たところ、街の人の2割が≪キルマーカー≫をつけている。
これは恐らく、死んだ人の殆どだろう。
死んだ人の殆どを屠れるほどの化け物なら、特徴を聞き、対策をとる必要がある。
「あぁ、あいつらはモンスターじゃない」
「…………え?」
「いい?裏箱庭の番人、それはプレイヤーだよ」
「だって…プレイヤーって俺らと同じ…え?」
「そう。裏箱庭の番人として存在し、私達を恐怖のどん底に落とした化物…それは、確かに中にプレイヤーが入って動いていた」
「そんな…」
と言うことは、番人もあのロキの演説を受けていたのだろうか。
それとも、最初から番人としてゲームをプレイしていたのだろうか。
今、どんな気持ちで裏箱庭にいるのだろうか。
「あぁ、それと、もう一つ。その番人の特徴だけど…」
特徴。
そうだ。中に入っているのがプレイヤーだからと言って、普通の姿をしているとは限らない。
もしかしたら、中身がプレイヤーなだけで見た目や能力はダンジョンボスレベルというのもありえる。
「見た目は普通のプレイヤー。黒髪と青髪の男女2人組で、名前は…アイドとリィンだったかな?でも、とにかくめちゃくちゃ強いらしいから、気をつけてねっ。まあ、ボクが知ってるのはこのくらい……って、何処行くの?」
「……っ!!」
その言葉を聞くやいなや、ずっと黙っていたルリが走り出した。
「ちょっと!どこ行くの!?」
「ずっと…ずっと探してた…やっと見つけた……!」
「そこ、ストーーーップ!」
「うわっ!?」
瞬間、体が宙に浮く。
横を見ると、ルリも同じ様に浮いていた。
「焦らない焦らない。ルリちゃん、何かあったの?」
それはフードの少女による物だった。
身動きしにくい体をなんとか捻って後ろを見ると、フードの奥は見えなかったが、こちらに手を向けているのがわかる。
「やっと見つけた…会わなくちゃ、神無に!」
「?神無??」
「あ、いや、リィンに…」
どうやらフードの少女の魔法は相当な様だ。
魔法を見たのは初めてだが、手も触れず、予備動作も無しに浮かせられるって、もしかしてかなり強いんじゃあ…
「そっかそっかー…でも、会いに行くには死なないといけないんたけど……」
「決まってる!このままフィールドに出て、死んでくればいい!」
「ちょっ!?流石に無茶だろルリ!」
「うっさい!」
ルリは初めて見る焦りの表情を浮かべている。
こちらの話なんて聞いてくれなさそうだ。
「んー…でも、会った所で無理だよ」
「…何が?」
「そのリィンって子、番人なんだよ?裏箱庭に落ちてきた人を皆殺しちゃうほど強いんだよ?武器も満足に無い君達じゃあまともに話が出来るほど戦えるとは思えないなぁ…」
「っ!」
その通りだ。
俺達は武器を探しに来たのであって、死にに来たわけじゃない。
そもそも、ルリに探し人がいたこと自体初耳だった。
………探し人なら、俺もいるんだけどね。
「じゃあどうしろって言うの!?貴方にはわからない!私がどれだけ探していたか!私が今、どんな気持ちでいるか!!」
「うん、わからないね」
「だったら!」
「でもね、」
その少女はすぅ、と息を吐き…
「気持ちがわからなくても、手伝いは出来るよね?」
フードを、取った。
フードの奥、その向こうの綺麗な黒髪を揺らし、告げる。
「改めてこんにちわ。私の名前はラウフ。貴方達のパーティーに混ぜてくれない?」
今までの口調とは裏腹に、意思の強そうな切れ長の目が印象的だった。
アイド(以下主)「やあやあ皆さん、こんにちわ。後書きのネタが無え!?って事になり、急遽キャラ劇場をやることになりました。今回のゲストは、アリス兄弟のイリスちゃんとアイリス君でーす!」
イリス(以下イ)「よろしく」
アイリス(以下ア)「よろしくー」
アリス(以下両)「ご機嫌よう」
主「いやあ、作者のネタ切れに付き合わされてお互い大変だね?」
イ「そうそう」
ア「それでも登場回数が増えるのはいいよね」
両「「ねー♪」」
主「そうだねそうだねー。今回の作者によると、個人的にはアリス兄弟が一番のお気に入りらしいよ?よかったねー」
イ「それはそれは」
ア「とても嬉しいね!」
両「「で、本命はどっち?」」
主「え!?ほ、本命?えっとそれは…あ、ありがとうリィン。この紙に書いてあるみたいだよ!」
イ「それはよかった」
ア「いいからさっさと」
両「「開けなさい(開けてくれない)?」」
主「は、はい!えっと…これは……」
作者『二人組だからこそ価値がある』
両「「……はぁ??」」
主「あ、ちょ、殴らないで…ってイリス!やめて!うわっ!なんで僕が……」
イ「それではなろうの皆さん」
ア「そして身内の皆さん」
両「「次回もお楽しみに!」」
主「え、これ次回もやるの?でもこれリレーだから次の人がやるかどうかなんてわかんな……」
イ「気にしたら負けよ」
ア「ついでにアイド君、君は僕達と一緒にあっち行こっか」
両「「さあ、おいで?」」
主「あーれー……」
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