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第一話 英雄、タイムリープする


「な、なん......で......!」


視界に映るのは胸から突き出た鉄の剣。

その剣は───勇者の血で塗れている。


───魔王城、玉座の間。

彼女は、仲間の剣に背後から貫かれていた。


「は、なせっ......!」


後ろで剣を握っている手を振り払うと、誰も座っていない玉座へと駆け出した。

急いで胸にリキュア(回復魔法)をかけながら巨大な玉座の肘掛けに肩を預け、仲間を睨む。


「おお、勇者カリン。目つきが仲間に向けるそれではないですよ?」


そう両手を広げながら言うのは僧侶アンクル。

勇者パーティーの中でももっとも世界平和を願っていた彼が、勇者──カリンを刺した張本人だった。


「アンクル......貴様......魔王の手先か!!」

「常人なら即死の傷を負ってもなおそれほどの覇気を出せるとは......さすが歴代最強の勇者といったところでしょうか」


明らかな致命傷とこの態度。アンクルは完全に殺す気で刺してきたということを理解し、カリンは剣を抜く。

高い回復能力と自己回復魔法で生きながらえているが、それも長くは続かないだろう。


「(死は遠くないが、私はそれまでにコイツを殺す。一体何が目的かは不明だが......アンクルをこのまま野放しにしておけば世界の平和は訪れない......!)───ドルガ!チクサ!アンクルを捕らえろ!!」


勇者パーティーの残り二人。

戦士ドルガと魔法使いチクサに向かってカリンが命令するが、二人とも動こうとしない。


「クソッ、お前らもか......!」

「......すまん、カリン」

「......ごめんなさい。アンクルから話を聞いてしまったから......」

「なに、話......?」


チクサが気になる単語を出した。

それを聞いて、カリンがアンクルに問い詰める。


「おい、話ってなんだ......答えろアンクル!」

「ああ。あなたを生かしておいては不味い、という話ですよ」

「は......?」


いまいち話がつかめてこない。

一体何が不味いというのか。

それに元々アンクルはこういう話し方だったが、この場面ではいよいよ時間稼ぎのようでカリンのイライラを募らせていた。


「どういうこと......いや、魔王が居ないことと何か関係があるのか?」


思い当たる点は一つある。

この玉座の間には、いるはずの魔王が居なかった。

そこであっけに取られていたところを刺されたわけだが、それが何か関係しているのだろうか。


「ご明察です。我らは魔王が生まれない為に、勇者を殺しているのです」

「クソ......この期に及んで新しい情報ばっかり出してきやがって......!もういい、殺す......!」

「私を殺しても無駄ですよ。私を敵と見るなら、王国全土が敵に回るのですから」


完全にアンクルは狂っている。

カリンはこれ以上話しても無駄だと判断し、自身の剣を構えた。


「『ルミナスブレード』......!!」

「ドルガ、頼みます」

「......『絶対防御の構え』」


カリンとアンクルの間にドルガが立ちふさがる。


「どけ!殺すぞ!」

「......カリン。すまない、本当に......」

「まず、どうして勇者が生まれるのでしょうか」


カリンが走り出した。

戦闘しながらはできないと回復をやめて自身の超人的な量のアドレナリンに頼るが、もって残り数分だろう。


「世間の答えは、魔王が生まれているから。───ですが、真相は違う」


光の速度の剣がドルガに防がれた。


「魔王が居なくても勇者は生まれていたのです」

「『無形の拳』」

「ぐっ......!!」


見えないナニカにつぶされるようにして、ドルガが地面に叩きつけられる。


「ですが、それでは辻褄が合いません。魔王を倒すのが勇者の使命......では、魔王が居なかったら?」

「『不可視の歩法』」

「ら、『ライトバインド』!!」


カリンの体が光の輪に拘束される。


「答えは、勇者による力を示すための反乱。使命を失った勇者はすべからく壊れていきました......新たな魔王の誕生です」

「『柊』」


光の輪が霧散する。

ついにカリンは、アンクルに手が届く距離まで来ていた。


「......私がそうなると?」

「現に、貴方はこの世界を手中に収めうるだけの力がある。だから、長い年月パーティーを組んだ仲間が必要だったんです」

「確実に殺すために、か......」

「はい。中途半端な時期に殺し損ね、貴方が誰も必要としないワンマンパーティーになってしまえば道中死ぬ確率こそ上がりますが、もし死ななかった場合は誰にも止められませんから」

「だが、次の勇者はどうなる?このままでは永遠に終わらない負の連鎖だぞ」

「......過去、幾度も魔術師たちが連鎖を断ち切ろうと挑戦してきましたが......これが最善なのです」


明確な殺意をもったカリンを前にしても、アンクルは怯える様子を微塵も見せない。

相手の手の内は知っている。今ならいつでも殺せる。

だが、アンクルの顔を見たカリンはその腕の剣を触れずにいた。


「......死ぬつもりだったのか」

「ええ、この旅の初めから」


「ドルガとチクサにはいつ話をした?」

「少し前です。あなたが朝のトレーニングをしている間に」


「私はこの後どうなる?」

「英雄カリンは魔王を倒したと、世界中に知らしめます。私が死んでもその手筈は整えてあります」


淡々と、確認するだけのような会話が続く。

使命を失ってしまったカリンには、何も残っていなかった。


「ごふっ───」


カリンの口から大量の血が吐き出される。

胸から漏れ出る血の量も増して、ついにはカリンが膝をついた。


「さすがに限界だな......」

「......でしょうね。遅すぎるくらいですよ」

「......すまない......最後に介抱を頼めるか?」

「ええ、もちろんです。ドルガ、チクサ......こちらへ」


アンクルが二人を呼ぶと同時にカリンが倒れる。

心臓を貫かれてなお身体に負担を掛けていたのだ。その反動は急激にカリンの命を奪っていく。


「こ"へ"ん"あ"さ"い"......カ"リ"ン"......」

「......ふ、チクサ。......泣いているのか?」

「カ"リ"ン"ぅ"ぅ"ぅ"......」

「はは、涙を拭ってあげたいが......すまん」


すでに瞳孔に光は無く、かろうじて細い糸のような意識だけが残っていた。


「ドルガ、そこにいるか......?」

「......ああ」

「いつも寡黙だな......君は。だが......優しさは人一倍だ」

「............ああ」


もう、指一本すら動かせない。それでも、最後を裏切りのままで終わらせたくは無かった。


「......アンクル」

「......」

「使命を......全うしたな」

「......はい。これが私の生まれた意味で、生きる理由です」

「......ふ、だからって、殺してくれるなよ............」

「......申し訳ありません」


目を伏せるアンクルをカリンはふっ、と一息で笑い飛ばす。


「じゃ、そろそろ先に......いや、アンクルは地獄か......?はは......」


カリンは小さく笑うと、まぶたを閉じた。

虚空を歩かされていた英雄は、多くの人々に囲まれて最後を迎えられる夢を見て眠りにつく。


───その、はずだった。


「おう、嬢ちゃん。ずっとそこ立ってると邪魔だぜ?」


聞き覚えの無い男の声が聞こえてくる。

ぱ、と目を開けると視界に入って来たのは大きな木の板とそれに貼られたいくつかの紙。

カリンはこれに見覚えがある。ギルドのクエストボードだ。


「おい、大丈夫か?」


肩に手を掛けられて、やっとそれが現実であることを理解した。

勢いよく後ろに振り返り、背後に立っていた男に掴みかかる。


「な、なんだ!?」

「......すまない、今はいつだ!?魔王誕生からどれだけ経った!?」

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