悪役転生最終話 悪役―結
「“表向き”黒金を攻める、とは
どういう意味なんだ?」
僕の提案にニュートは首をかしげ、
戸惑いを隠せないでいる。
「分かりにくかったですね。
順を追って説明しましょう。」
そう前置きし、今後の計画、
王国と黒金の共存について話した。
まずは、元雷への対応について。
「和睦に関しては、黒金を盾に使って下さい。」
「“また侵攻することがあれば、
黒金への宣戦布告と見なす”」
「そう伝言を預かっているとでも言えば、
終戦交渉は容易かと。」
「・・・賠償金、などは―」
「それは、王国が交渉することでしょう。」
「ただ、今の元雷は武力行使も、
それによる脅しすらできない状況です。
そう難しくはないかと。」
「そうか。そうだよな。」
ニュートは安堵の笑みを浮かべる。
実際、侵攻を受けた地域の被害は大きい。
アルヴァ―ドが消えたことで、
できるようになる政策もある。
資金が欲しいのも当然か。
「陛下。次は、国英の処遇に関してです。」
「ああ。処遇・・・
例の、“表向き攻める”に関係するのか?」
「ええ。仰る通り。」
ニュートの言葉に深く頷き、説明を始める。
「恐らくですが、元雷が片付いた後、
“黒金を攻めろ、屈服させろ”という声も
出てくるでしょう。」
「悪の組織に頼っていては国の面子が―
とか言って。」
「そういう意見が出てくるようなら、
どうぞ乗って下さい。」
「いいのか?」
そう驚くニュートの顔には、
戸惑いと心配があった。
確かに大胆なことを言っている自覚はある。
だが、
「魔王が、並の国英に負けるとでも?」
微塵の不安もない僕の目に、
ニュートの驚きも収まった。
アルヴァ―ドの実力を知っている故、
でもあるのだろう。
「ただし、向かわせるのは
ヒルデやヴァンプのように見境なく暴れる連中や、
所謂悪徳国英をお願いします。」
「・・・“そういう形”で、罰するんだな?」
「ご名答。」
「今後法律で国英を取り締まるとしても、
過去の蛮行まで遡って罰することはできません。」
「ならば彼らの力を吸収し、
その犠牲を双方の役に立てましょう。」
「野蛮な連中はそなたらの養分となり、
王国としても処罰ができる。」
「加えて国英が負け続ければ、
私も貴族たちに黒金への不可侵や、
停戦協定の提案もやりやすくなる。」
「合理的だな。」
こうしてすぐ僕の真意に気付いた辺り、
優秀な方ではあるんだろうな。
派手なアルヴァ―ドの影に隠れていただけで。
だが、それはそれとして。
「陛下。悪い国英の始末はお任せください。
ですが、そこから先は陛下の仕事です。」
「法改正、だな?」
「ええ。例の特権の制限を含め、
国英の暴走を生まない制度の作成を。
違反者を罰する仕組みも必要です。」
「・・・出来るかな? 私に。」
「やるんですよ、陛下。
偉そうな言い方になりますが、
それが陛下の、王族としての役割ではないかと。」
「王族、として?」
「そうです。」
細々しい声に加え、弱気が顔にも表れている。
励ます訳ではないが、
流石にここで折れてもらっては困る。
「ノエラは、不義の子として命を狙われました。」
「その流れとは言え黒金に加入し、
悪役として、魔王を転生させた。」
そしてその魔王の手により、国内での殺戮、
延いては戦争を止めることも出来た。」
「彼女の魔法が、行動がなければ、
新しい魔王は誕生すらしなかった。」
「王族である彼女が、
悪役として戦争を止めたんです。」
ニュートの弱気は収まり、
一転して真剣な顔つきになる。
ノエラの出自に関しては、
やはり思う所があるのだろうか。
「アルヴァ―ドもですよ。陛下。」
意外な名前に、ニュートも目を見開いた。
「やり方はともかく、彼なりに軍事、
国防のことを真剣に考えていたことも事実です。」
呼吸を整え、今一度王にはっきりと言う。
「庶子や不義の子が、命懸けで行動したんですよ。
嫡子のあなたが頑張らないでどうするんです?」
「王族として、政治を変えて下さい。
ましてあなたには、
王という立場まであるんですから。」
玉座にもたれ、深く息を吐いている。
しばらく沈黙が続いた。
そして、
「分かった。必ずやり遂げる。」
目に覚悟が籠った。
更にその体は、今までは感じなかった
“熱意”に満たされているように見えた。
「会談は、ここまでかな?」
「そうですね。
とても有意義な話し合いができました。」
「こちらもだ。」
「この平和が、
いつまでも続くことを願っているよ。」
「・・・陛下。」
微笑みながらも、僕は一つだけ訂正した。
「願っているのは民の方かと。
その願いを実現するのが、為政者の役割では?」
ニュートは感心したように笑った。
そして、
「そうだな。以後気を付ける。」
その顔には、もう弱気も諦めもなかった。
「良かったです。では―」
「あっ、待ってくれ。最後に一つだけ。」
ニュートは僕を引き留め、
真剣な表情で僕の方を見た。
「イリーナ氏の件に関しては、申し訳なかった。
あれは、どう考えても王族が悪い。」
「父に代わって、謝罪する。」
「・・・ノエラには、ちゃんと伝えておきます。」
深々と頭を下げるニュート。
僕はそれだけ言い残し、王宮を後にした。
何はともあれ、
国王との話し合いは無事に終わった。
夜が遅い故の僅かな眠気と、
それを飲み込むほどの充実感。
世界が変わる。
今まで憧れた悪役とも、朽木崩とも違う。
蛇石京という一人の悪役として、
僕のやり方で、世界を変えることが出来た。
決して綺麗なやり方ではなかったと思う。
だがそれでいい。
戦いに勝利した時とは
比にならないような達成感が、
僕の体中に染み渡っていた。
■ 王と魔王の会談。
非公式に行われた話し合いから、
早くも二ヶ月が経過していた。
一ヶ月前に締結された、元雷との終戦協定。
それ以降外部の憂いはなく、
国全体が平和に包まれていた。
だが国内には、唯一王国の敵と呼ぶべき、
悪の組織が存在していた。
「見つけたぞ。ここが黒金の根城だな。」
悪の組織、黒金。
その総本山黒金城を、上から見下ろす者がいた。
白いローブに身を包み、白い翼で空を飛んでいる。
彼はこの国の国家英雄の一人にして、
ヴァンプ・ブラドの弟。
王命により、黒金の制圧に赴いた。
ただしそれは建前であり、彼の本心は、
兄の力を奪った魔王への復讐である。
「兄上。仇は俺が取る。
必ず魔王の首を持ってえぇぇぇぇ!!!」
突然の焼けるような激痛。
加えて体の自由までも利かなくなり、
一直線に地面へと落ちた。
「初めまして。国英の人だよね?」
ハッと、話しかけてきた男を見つめる。
黒い外套と、顔を覆う黄金の仮面。
そして身の毛がよだつ程の、
異常とも言うべき魔力の量。
「だ・・・誰だ、お前!!」
「誰って・・・」
男は悠々とその国英に近づき、
彼を見下ろして言った。
「悪役だよ。英雄さん。」




