悪役転生第34話 秘密
「どうして黒金が、王族の魔法を使っている?」
アルヴァ―ドの言葉に、この場の誰もが言葉を失う。
嵐に囲まれ、巨大な棍棒で打たれ続けても尚、
ヒビはおろか揺らぎすらしない結界。
そしてそれを展開するだけの、異様に濃い魔力。
あの言葉が勘違いではないことを、
全員が納得するだけの異質さだった。
「魔王様・・・魔王様!」
急に話しかけられてハッとする。
見とれている場合ではなかった。
「悪い。どうした、ノエラ?」
「魔王様、ゼインとレンは?」
「さっき回収した。」
「分かりました。ではこのまま撤退します。」
「分かった。よろしく頼む。」
「はい。」
直後、ノエラは更に魔力を上げる。
結界は更に光が増し、
足元には魔法陣が浮かび上がる。
光の強さが最大にまで高まった時―
僕たちは逃げおおせた。
ブレーカーが落ちたように光が消え、
見覚えしかない光景が広がる。
黒金城の内部。
だが、本拠地に帰って一安心、
というわけにはもちろんいかなかった。
「あの、魔王様―」
「ノエラ。悪いが後にしてくれないか。」
言葉を遮り、申し訳ないと思いつつも続ける。
「今は後処理が優先だ。
まだ森にいる戦闘員への撤退命令に、
負傷者の治療もある。」
「今すぐ色々聞きたいところだけど、
残念ながらそれは後だ。いいね?」
「・・・はい。」
溢れ出る感情を、グッと堪えたうえでの返事。
さぞもどかしいだろう。
もちろん僕も同じ。
すぐにでも話を聞きたいが、やはり魔王として、
やることはやらなければ―
■ 決戦から二日後、黒金城の一室。
中心メンバーが集まるこの空間は、
類を見ない程重い空気に包まれていた。
僕たちが一度撤退し戻るまでの間、
森ではアルヴァ―ド達による残党狩りが行われ、
仲間の一部が討たれてしまった。
誰が悪いという話ではない。
だがそれでも、皆一様に責任を感じていた。
特にそうだったのは、
「・・・ごめんなさい。」
やはりノエラだった。
今にも泣き出しそうな顔で謝罪する。
「何に謝ってるわけ、それ?」
少し間を置き、レオナも口を開く。
「何って・・・私が魔王様たちと逃げたから、
指揮官がいなくなって現場が混乱した―」
「それは仕方なかったんじゃない?
少なくとも、あの場で戦っても勝ち目はなかった。
それに―」
一呼吸間を入れ、ノエラをじっと見つめて言った。
「あの魔法、アルヴァ―ドなら、
王族なら突破も出来たんでしょ?」
体がびくりと震える。
図星のようだ。呼吸も浅くなっていく。
そして、
「すみません魔王様私一度退出―」
席を立ったところを、レオナに手を掴まれる。
「逃げんじゃないわよ。」
ノエラを引っ張り、椅子に引き戻して話を続ける。
「言っとくけど、ここにはアンタを責めてる奴なんて
一人もいないわよ。」
「覚悟はできてるの。私も、メイも、アイツらも。
黒金に入る前からとっくにね。」
アイツら。盗賊団からの仲間のことだろう。
その一部も今回犠牲になっている。
「赦してくれるの?」
「だから、責めてないって言ってるでしょ?」
「傷つけられる覚悟もない奴に、
戦う資格なんてないわ。」
再び場が静まる。
だが、最初に比べれば空気は良くなっている。
犠牲を受け入れ、それでも前に進もうという決意を、
皆が心に宿したからだ。
「グスン・・・スン・・・ありがとう。」
溜まっていたものが溢れ出たのか、
大粒の涙をこぼしてすすり泣く。
「ちょっと、泣くことはないでしょ。」
困惑しつつも、優しくノエラの頭を撫でる。
「前にも言ったけど、アンタ意外と可愛いわよね。」
「やめて。」
「本当、メイの次に可愛い。」
「ウルサイ!」
レオナがじゃれてくれたおかげもあって、
すっかり場が和んで朗らかになる。
悲しみが消えたわけではない。
それでも、立ち止まってはいられない。
前に進めるよう、
空気を変えてくれたレオナに感謝しなくては。
「ありがとうね、レオナ。
おかげで空気が良くなった。」
「別に礼なんていいわよ。」
「いやいや。そういう訳にはいかないよ。」
おかげで本題に入ることもできたわけだし。
「早速だが、ノエラ。聞かせてもらえるかな? 」
「あの魔法や、アルヴァ―ドの発言、
その真相について。」
「はい。」
涙を拭い、緊張した面持ちで話を始めた。
「私の魔法は・・・父親から遺伝したものです。」
「アルヴァ―ドは“国王と同じ”って言ってた。
じゃあ、その父親というのは―」
「お、お待ち下さい、魔王様。」
ここにきてゼインが入ってきた。
「今の国王は確か三十代。ノエラは二十代ですし、
年齢的にそれはあり得ないかと。」
ゼインの補足の後、再びノエラの説明が続いた。
「はい。国王は、父ではなく兄のようなものです。
彼には父親と同じ魔法が発現。」
「私は当初別でしたが、恐らく眷属化の影響で
魔法が覚醒したのだと思います。」
「成程。では、その父親というのは―」
「バリオス・スペリア。
ヴァロマ王国の先代国王です。」
先代王。既に崩御していると聞いたが、
よもやノエラがその娘だったとは。
「そうか・・・うん。じゃあ聞くね、ノエラ。」
「どうして王族の君が、黒金に、
悪の組織に入ったの?」
ノエラの雰囲気がまた暗くなる。
先程ともまた違う雰囲気だ。
やはり答えにくかったのだろう。
だが心に巻き付いた黒い縄をほどき、
ノエラは口を開いてくれた。
「それは・・・・私が王族ではないからです。」
その言葉は、何かを切り落とすための
前置きのようにも聞こえた。
「どういう、意味かな?」
「本当は話す覚悟はしていました。
でも、どうしても踏み出せなくて・・・」
「魔王様、そして皆も。
黙っていて、すみませんでした。」
「国王やアルヴァ―ドとは、
腹違いの兄妹なんです。」
「私はノエラ・スペリア。」
「先代王が、私の母を無理矢理孕ませて産まれた、
不義の子供です。」
その言葉が、意味を持つまでには時間がかかった。
理解が及んだ後も沈黙は続いた。
喉に纏わりつくような不快感が、
言葉をせき止めてしまったからだ。
あまりに重い真実に、
誰もすぐには息を吐けなかった。




