悪役転生第33話 発覚
地響きがする。それも一定の間隔で。
地震ではない。だとすれば―
「何だ、あれは?」
ゼインは驚きのあまり、開いた口が塞がらなかった。
他の皆も、動揺を隠せてはいない。
三十メートルはあろうか。
漆のような艶をもつ、深い青色の巨大な鎧。
棍棒を手に木々をなぎ倒し、
ゆっくりとこちらに向かっている。
「魔王様、あれって―」
「ああ。蒼大だろうね。」
「蒼大」
紅之衛と共に名前が挙がっていた特殊個体。
“大”と聞いたときからまさかとは思っていたが―
すると、鎧が歩みを止めた。
棍棒を大きく振り上げる。
そのまま逆手に持ち直し、
振り下ろして地を震わせる。
形容し難いほどの衝撃。
地鳴りが遅れて腹を打つ。
当然僕たちも影響を受け、
地面から大きく跳び上がった。
比喩でも誇張でもなく文字通り。
「みんなぁ! 生きてる?
生きてたら返事をしてくれ!」
上昇が終わり、
地面に落ち始めるあたりで生存確認。
柄にもないが大声を出す。
「平気!」 「大丈夫です!」
レオナとノエラの声は聞こえた。
レンとメイ、ゼインの声はなかったので、
不安になって周囲を見回す。
真っ先に目に入ったのは、
自由落下に身を任せるレンとゼインの姿。
くるり、くるりと、ゆっくり空中で後転している。
二人とも顔は青ざめ、為す術がない状況。
「あ、やばい。」
反射的に声が出た。
急いで触手を伸ばし、蛇の中に格納する。
これで落下死の心配はない。
次にメイを探したが、こちらは必要なかった。
既にレオナが動いていた。
足からの咆哮で宙を駆け、一瞬でメイを捕まえる。
メイはレオナにしがみつき、
レオナもそんなメイをしっかりと抱きしめている。
いわゆるお姫様抱っこ。
だが、これで安心とはいかなかった。
「アンタら、黒金でしょ?」
レオナたちの前に、翼を広げた女が現れた。
爬虫類のような翼だ。
頭の角に、両手に生えた鱗と爪。
所謂竜人族のような見た目だが、
銀色の装飾に彩られた純白の軍服。
グラディオとは別の白騎士。
「だったら?」
次の瞬間、女の口から熱線が放たれる。
レオナも咆哮で反撃。
相殺できたものの位置が悪く、
レオナたちは勢いよく落下した。
そちらに目をやるも、
ビイィィィィィン―
反対からけたたましい音が聞こえた。
灰色の髪の男がノエラを狙う。
竜人のような女と同じ服装。
さっきの攻撃は超音波の類だろうか?
ノエラは空間転移で敵の攻撃を躱し、
逆に背後から斬りかかる―
結果は相打ち。
男は直前で気付き、背後のノエラに超音波を放った。
一方でノエラの矛も相手の腕を斬りつけており、
負傷で超音波の威力も下がる。
ノエラも何とか体勢を立て直し、
空間転移で無事着地した。
レオナたちの所へ移動したようなので、
僕もそちらに向かおうとした。
その瞬間―
「お前が新しい魔王か?」
敵が目の前に現れた。
竜巻を足元に発生させ、
こちらを見下ろすようにして宙に浮いている。
肩まで伸びた綺麗な白髪。
そして純白の軍服は、
金の装飾によって彩られている。
情報通り。見間違う筈もない。
「如何にも。僕が魔王だよ。」
「アルヴァ―ド・スペリア。」
勇者降臨、といったところか。
だが、一番嫌なタイミングでの顔合わせ。
「グラディオは?」
「倒した。」
僕の返事を聞くと、
やっぱり、とでも言わんばかりに笑い始める。
そして、
「魔王を名乗るだけはあるんだな。」
そう言って、人差し指と中指、
二本を合わせて僕に向ける。
すると―
胸に鈍い衝撃が走る。
何かが当たった感覚こそあるが、
視界には何も映らない。
音も風圧も感じなかった。
「ッ!? アア!」
遅れて、焼けるような痛みが胸に広がる。
呼吸が詰まり、思わず声も漏れる。
墜ちる体とは逆方向に吹き出る血が、
僕に事実を突き付ける。
斬られた―
理解よりも先に痛みが走る。
ダイヤモンドを吸収した体を傷つけるほどの斬撃。
しかも、
ザクッ、ザクッ―
連続攻撃。
軌道が見えず防御も難しい。
周辺の空気を操り、レオナたちの元へ。
何とか致命傷は避けたものの、
途中背中や脚を斬られた。
レオナたちと合流するも、
皆消耗していて連戦は難しい。
逃げるしかない―
「逃がさねぇぞ。」
強風が背中を押す。
見ると、僕たちの背後と側面、
三方の巨大な竜巻が行く手を阻んでいる。
囲まれた。
前方には白騎士三人。おまけに蒼大までいる。
無理か―
心の中でそう呟く。
流石に声には出せないが、正直かなり危うい。
というか死ぬのでは?
胸の奥で本当に焦り始める。
・・・回復しなければ。
再生能力で傷を癒さないことにはどうしようもない。
だが、消耗故か再生が遅い。
時間稼ぎを―
「ねえ。そもそも何であなた達ここにいるんだ?
まさかグラディオが―」
「・・・いや。アイツは誰にも言わなかったよ。
お前たちの狙い通り、な。」
「まあでも・・・
王族の情報網を舐めるな、って所だな。」
「成程。じゃあ、その鎧は?
グラディオが倒れたのにどうして―」
「そういう魔法、ってだけだ。」
「アイツが死んでも鎧は消えない。指揮権の委譲さえ
済ませておけば、当人がどうなろうと操れる。」
今は穏やか。
だがすぐに彼の眉が動き、眉間にも皺が刻まれる。
一瞬の沈黙。そして―
「・・・だがなぁ!」
いきなり声を荒らげる。
怒りと共に、彼の気迫も段違いになる。
「アイツが敗れた以上、もう新たに鎧は作れない。」
「台無しだよ。お前らのせいでなぁ!」
彼の感情と共鳴するかのように、
竜巻の勢いも強くなる。
一瞬でも気を抜くと吹き飛ばされそうだ。
「やれ、蒼大!」
号令がかかる。
蒼大が棍棒を振り上げ、そして叩きつけ―
気が付くと、嵐の音が消え、
周囲は凪に包まれていた。
見上げると、紫色のドームのようなものが、
棍棒の一撃を防いでいた。
僕は思い切って、この魔法の主に尋ねた。
「助かったよ。でも・・・
使って良かったのかい? ノエラ。」
「・・・はい。」
僕以上に、レオナとメイは驚いていた。
ノエラの気配が、今までのそれではなかったからだ。
異様に“濃い”魔力に加え、
体の輪郭を覆うような紫の光。
妖しくも威厳のある光を放ち、
両手を掲げてこの結界を維持している。
そして、僕たちよりも遥かに驚いていたのは、
他ならぬアルヴァ―ドであった。
両の目を皿にし、動揺で息遣いも荒くなっている。
「何故・・・いや、誰だ? どうして―」
「どうして黒金が、王族の魔法を使っている?」
核心を突く彼の問いに、口を開く者はいなかった。




