嬉しくない再会
書籍化します。詳しくは活動報告をチェック
「え? 聞き取り調査の協力に応じてくれない? マジですか?」
「はい。避難活動やその後の生活で大きな混乱があるからとのことですが……」
ユーステッド殿下にエルメニア王国側に対して聞き取り調査の協力要請をしてもらうように頼んだ翌日、その結果を届けに来たのは、意外なことにティア様だった。
元々、ティア様は避難民たちへの慰問のために王国入りしたんだ。だから今回、調査という私の仕事に関わるとは思わなかったし、てっきり護衛の兵士の人が連絡係をするのかと思ってたんだけど……。
「ティア様の慰問活動も止められてるんですもんね。向こうは私たちが避難者たちと接触するのが嫌なんですかね?」
「可能性としてはあり得ると思います。私も連絡役を任せられた以上、可能な限り詳細な情報を集めてはいますが、現時点では何とも言えません」
支援物資と共に慰問活動をエルメニア側から跳ね除けられたティア様は、自ら私たち調査班と、ユーステッド殿下たち外交班、王都に存在する帝国大使館、帝都ヘルザイム、その他関係各所を繋ぐ連絡役を名乗り出たらしい。
まぁ、合理的な判断だと思う。ティア様と共に行動するシメアゲカエンリュウのゲオルギウスの飛行速度は馬とは比べ物にならないし、この状況下で遊ばせておくには勿体なさすぎる存在だ。
「通信魔法が完成すれば、こういう手間も省けるんでしょうけどねぇ。……何でしたっけ? 確か連絡先との距離があればあるほど精度が不安定になる他にも、壁みたいな遮蔽物があっても魔力が弾かれるんでしたっけ?」
「専門家ではないので確かなことは言えませんが、私もそのように伺っています」
通信魔法は、その利便性から飛行魔法と同様に積極的に実現化が目指されている魔法の一つだ。
要するに、魔法の力を使って電話みたいなのを実現させようとしている訳なんだけど、距離による魔力出力の減衰の他にも、壁などの遮蔽物に対しても弱いのだとか。
どうやら魔力には物体に弾かれやすいという特性があるらしく、物理的な破壊力を持つ魔法に変換でもしない限り、物体を突き抜けることは出来ない……つまり、建物の中にいる相手への通信が難しいというのが、通信魔法を実用化させる上での障害らしい。
(窓を開けた状態みたいな、それなりの大きさの隙間があるなら大丈夫とは聞いたことがあるけど……)
いずれにせよ、無い物強請りしていても仕方がない。ここはティア様の力をありがたく借りるとしよう。
「それで、前回の報告から何か進展はありましたか?」
「いいや、今のところは何も……ただ、ソラバシリオオリュウにはこの地で暴れられない理由があるんじゃないかって発想に至ったってくらいです」
そもそも今回の事は色々とおかしいことだらけなんだけど、その中でも一番の疑問はやっぱり、攻撃されても大した反撃に出ようとしないことだ。
人間の命や建物を考慮してって訳じゃない事くらいは分かる。本来であれば、害意と共に攻撃を実行した時点で、自らの生存のために猛然と反撃に出ていたはずだ。人命や建物を配慮する理由が、ドラゴン側に一切存在しない。
しかし、結果は死傷者ゼロ。建物への被害も比較的軽微……外敵に対して明らかに手加減をしたのだと分かる被害に対し、私はジェーダンで派手に暴れられない理由があるという可能性に思い至ったのだ。
「でもそれが分かれば苦労しないんですよねぇ。こういう事例をみるのは、私自身初めての事ですから」
そもそもの話、ドラゴンたちが人間の領域にまで進出し始めたのは近年の事だ。人間の活動域で、人間との関わりを経て、彼らの活動にどのような変化をもたらすのかについては、殆ど分かっていない。
「ただ、何か掴めそうな気はするんですよ。今回と全く同じ状況下じゃなくても、ドラゴンが似たような行動を取ったのを何パターンか確認したことがあるんです。そこから検証と推察を重ねて解決まで持っていくんで、ちょっと待っててください」
「分かりました。お姉様も、何か必要な物があればいつでも申し出てくださいね」
「今のところは大丈夫です……まぁクラウディアは『お風呂入りたい』って泣いてたけど」
涼しくなったとはいえ、動き回れば汗を掻く程度には暑い時期だ。そんな気候の中で結構扱き使ってたから、そこそこ汗を掻いている。
おまけにジェーダンは海風が強い場所で、長時間活動することで髪の毛とか肌とかは結構ベタベタしてきた。街が壊れたことで普段より風通りがいいのか、街の何処にいても磯の香りが漂ってくるし。
「フォルゲンで入浴の準備を手配しておきますね」
そんなクラウディアの事情に、ティア様は苦笑しながら答える。
まぁドラゴンに乗って行けば、フォルゲンなんてすぐに到着する場所にあるし、休憩時間にでもお風呂に行ってもらって問題ない。
変化を見逃さないよう、ソラバシリオオリュウは二十四時間体制で観察しないとだけど、クラウディアがお風呂行ってる間は私が見ておくし。私はソラバシリオオリュウの観察が楽しくてお風呂どころじゃないし。
「いずれにせよ、お気を付けください、お姉様。実際のところはともかく、エルメニア王国に怪しい動きがあるのは事実のようです。護衛は常に傍に控えさせておいてくださいね」
「ん、了解です」
近くに控えているヴィルマさんたちに視線を送りながらそう念を押すと、ティア様はゲオルギウスの背中に乗って飛び去って行った。
「博士ーっ。ただ今戻りましたーっ」
それに入れ替わる形で、白い小柄なドラゴンに乗った人影が空から近付いてくる。
引き続き、上空からの観察を務めていたクラウディアとシロのコンビだ。彼女たちは地上に降り立つと、画板に挟まれていた紙を私に手渡す。
先日よりもより正確な、現在のジェーダンの見取り図だ。建物がどれくらいの数が建っていて、その内のどれが壊されているのか、それが細かく記されている。
「おかえり。何か発見あった?」
「えっと……実は一つだけ『あれ?』って思ったことがあって、大したことじゃないと思うんですけど、念のため」
そう自信なさげに言いながら、クラウディアは見取り図を指差す。
「何か二つだけ、壊れ方が激しい建物があるんです。ほら、この二つ」
クラウディアが指差したのは、いずれも大通りに繋がっている大きな建物のようだ。
「他の建物はぶつかった拍子に崩れたって感じである程度原型が残ってたのに、この二つだけやけに念入りに壊されて瓦礫の山になってるって言うか……実際、ソラバシリオオリュウもこの二か所によく向かっているみたいですし」
私は新しい見取り図と、昨日から観察し続けたソラバシリオオリュウの移動経路を照らし合わせてみる。
確かに、この二か所を行ったり来たりしていたように思う。この建物になにかあるって事だろうか?
「ヴィルマさーん、ちょっといいですかー?」
私はそばに控えていたヴィルマさんを呼びつけ、彼女に見取り図を見せつける。
「ヴィルマさんたちって、今回の任務に際してジェーダンの地図を頭に入れてましたよね? この二か所って、何があるか分かります?」
「……片方は聖南創神会の大聖堂。そしてもう片方は、エルメニア王家の別荘がある場所ですね。アルフォンス王太子殿下と、カーミラ第一王女殿下が滞在していたという」
王家の別荘と大聖堂? なぜそんなところを念入りに……? 野性のドラゴンが興味を示す要素があるようには思えないんだけど……。
「でも私にとっては実に興味深い……! 早速、この二か所を徹底調査してみましょう!」
俄然、私は興味が湧いてきた。この二か所の一体何が、ソラバシリオオリュウをここまで惹きつけるのか……事態解決とは別に、この事を追究しなければ気が済まなくなってきた。
という訳で、私は早速クラウディアたちを連れて移動を開始しようとした……その矢先。こちらに向かって近付いてくる集団を目にした。
「失礼致します。アルバラン帝国よりお越しの、アメリア・ハーウッド博士と調査隊の方々でよろしいでしょうか?」
大型竜が滞在する今のジェーダンに近付いてくる人間がいるとは思わなかった私たちは、彼らが近付いてくるのを驚きと共に見守っていると、彼らは私たちの前で立ち止まる。
その正体は、ガシャガシャと音を立てる二十名近い鎧姿の兵士たち。そしてその先頭に立つ、ドラゴンが闊歩し、あちこちに瓦礫が散乱するこの場には似つかわしくない、瀟洒な侍女服に身を包んだ中年女性。
「初めまして。私、エルメニア王国第一王女、カーミラ殿下の筆頭侍女を務めております、ターニャ・リーヴスと申します。少々、お時間よろしいでしょうか?」
やけに圧の強い『初めまして』という言葉を発しながら私を鋭い眼差しで見つめる、私の産みの母だった。
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