拒否された接触
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「…………理由をお伺いしても? なぜ避難民への聞き取り調査の許可を下さらないのでしょうか?」
事態解決のため、エルメニア王国政府側こそが最大限に協力すべきこの局面での、まさかの拒否発言にユーステッドは眉根に皺を寄せながらも務めて冷静に問いかける。
内心では『この状況下で何を渋っているのだ』と怒鳴りたくなったが、ここはあくまでも外交の場。感情的に騒ぎ立てる場所ではないと、隣に立つ大使やセドリックからも教えられている。
「……避難民たちは、ドラゴンによって住んでいた街を追われ、心身ともに疲弊しきっている。今ドラゴンの話題を出されては心的外傷を刺激され、療養の妨げになる恐れがある。人道的観点からも、現時点での大規模な聞き取り調査は控えてもらいたい」
「現時点で……それはつまり、少し時間が経った後であれば調査に協力してくださると?」
「あぁ。だが危急の事態であるのは私も理解している。なので聞き取り調査に協力してくれる者を私の方から募集をかけてみようではないか」
その言葉を聞いたユーステッドは眉間の皺をさらに深くしながらも、音を立てずに息を吐いて胸の中に溜まった熱を吐き出し、『分かりました』と表面上は納得したかのように振舞うと、隣に立つ帝国大使が小声で話しかけてきた。
(下手な言い逃れをしようとしていますが、その確証がない以上、この場での深追いは禁物ですぞ、殿下)
人道的観点……その言葉を盾に、明らかに言い逃れようとしているアルフォンスだが、今回エルメニア王国へ訪問し、アルフォンスとの会談をすることになった上で、彼の人物像については調べている。
アルフォンスを含めたエルメニア王家は元より、上流階級の既得権益を守ろうとしている帝国の第三皇子ジルニール派と親交が深い……要するに、ジルニールたちと同様に権威主義者なのだ。
発表される政策や声明、伝え聞く人柄からしても、平民の心的事情などに心を砕くタイプにも見えない……それが今回に限って、平民をダシにした人道的観点などを盾に使うことに、ユーステッドは不信感を拭えなかった。
「避難民と言えば、商会の従業員たちの所在についてもお聞きしたいのですが……」
そんな中、思い立ったかのように商会の代表たちの内の一人が、手を上げながらアルフォンスに問いかけた。
当然と言えば当然だが、貿易港の街であるジェーダンには国内外の商会から従業員が派遣され、支社の運営を任されたり、運送を任されたりしている。
そう言った商会の従業員たちも、ソラバシリオオリュウの襲来に伴って避難しているはずなのだが……この質問に対しても、アルフォンスは装ったかのような平静な表情で答えた。
「ド……ドラゴンの襲撃の際、現場は混乱を極めてた状態で、避難者たちは身元の照合を行わないまま各地の避難先へと送られた。その為、どの町にどのような人間が避難しているのか、我々も把握し切れていない。身元の照合は現在取り急ぎ行っているので、今しばらく待ってもらいたい」
これに関しては、アルフォンスの言い分は特におかしいものではないと、ユーステッドも考える。
災害時などでよくあることだが、避難者たちが混乱の末に家族や知り合いと離れ離れになり、お互いに生き延びていても合流することに時間が掛かる。
特にジェーダンのような住民の数が多い街では、崩壊したコミュニティの再編にはより多くの手間と時間が必要となるのだ。こういった現場の事情を踏まえ、遠距離通信魔法の開発も急がれてはいるが、現在の魔法技術ではそれも難しい。
(だが……五十日以上も経って避難者たちの身元照合が殆ど出来ていないというのはどうなのだ……?)
ウォークライ領で災害が起こり、避難者たちが各地へ散開するように逃れても、辺境伯軍なら二週間あれば避難者たちの情報をセドリックの元に集約させられる。
幾らジェーダンからの避難者たちが多いとはいえ、それだけの期間があれば避難先の町の公表と、そこに避難した住民のリストアップくらいは出来そうなものだが、アルフォンスはその辺りの事を誤魔化すような答弁を繰り返している。
そうこうしている内に、出席者たちの予定も押していたこともあって、会議は終了。まだまだ追求したいことも山のようにあったが、ユーステッドたちは議場を後にするのだった。
「ふぅ……」
「お疲れ様でございます、ユーステッド殿下。如何でしたかな? エルメニア王国への外交の感想は」
「……率直に言えば、これで良かったのかと反省すべきことが多々あった。緊急時ということもあって、やはりこれまでとは勝手が違うな」
帝国大使にそう問いかけられ、ユーステッドは先ほどの会議での立ち振る舞いについての反省をしていた。
国境に隣接する辺境を治める立場の人間には、外交能力も求められる。だからユーステッドも前々から国外との交渉に同行し、学びながら経験することもあったのだが、その殆どが急を要さない状況下でのことばかり。
今回のような差し迫った状況ともなると、会談の様相もまた変わってくるのだ。
「だがこれしきの事で立ち止まってはいられん。この情勢下で帝国の未来を掴むためにも、力を貸してほしい」
「えぇ、勿論ですとも」
ユーステッドから真っすぐな視線と言葉を受けた帝国大使は、恭しく頭を下げる。
ジェーダン封鎖という一大事に帝国に残してきた者たちも、帝国から連れてきた者たちも踏ん張っている。ここで自分だけ弱気でいてはいけないと、ユーステッドは自分で自分を鼓舞した。
「……しかし、まさかティアーユの慰問活動まで止められてしまうというのは予想外だったな」
今回の事態を受けて、帝国側は避難民向けの救援物資と共に皇女であるティアーユを慰問に向かわせたのだが、何とそれを門前払いするかのように遠慮されてしまったのだ。
救援物資を送ろうとして拒否されることなど、そうそうありはしない。避難民たちのことを思えば、相手国に借りを作るとしても『救援物資分くらいなら』と受け入れるものである。
「確かに、アルバラン帝国とエルメニア王国の仲は良くない。しかし、慰問まで理由を付けて頑なに拒否してくるとは思わなかった」
一応、アルバラン帝国もティアーユを慰問に向かわせる上で気を配ったのだ。
事が事だけに、見た目の威圧感が強いドラゴンはあくまで移動手段とし、避難地から視認できる距離へは近寄らせないようにして避難者の心的外傷を刺激しないようにしたし、救援物資を交渉材料にして政治的やり取りも控えた。
周辺諸国への人道的アピールという側面もあるが、それは外国への支援としては別に珍しくない。今回に限って拒否される理由が見当たらないのだ。
「そもそも避難地の名前すら公表されないというが妙な話だ。そのせいで、商会の代表者たちも従業員を自力で探し出せないと不満を零している」
その上、エルメニア王国は避難先として選ばれた町すら公開しないのだ。アルバラン帝国もそれとなく理由を聞き出そうとして見たものの、支援も慰問も必要ないの一点張り。
他ならぬ被災地となった国の政府が言うことだから無理強いは出来なかったが、救援に訪れた他国を無碍にするような行為とも見られ、外交礼儀的にも普通はあり得ない。
「エルメニア王国は、避難者たちと外部を切り離そうとしている……そう考えられますな」
「それは、接触と共に情報の伝達を阻もうとしている……そういうことか?」
「えぇ。何が彼らをそこまでさせているのかは現時点では判断材料が不足していますが、ここまで頑なな態度を取られると、そう疑わざるを得ないかと」
つまり後ろ暗いことがあるということだ。
避難者たちがエルメニア王国にとって都合の悪い情報を持っていて、それを隠蔽するために支援も慰問も拒否している……言われてみれば、確かにそう疑いたくなる状況と対応だ。
「分かった……協力要請が拒否された経緯についてはアメリアに報告。我々は我々で、エルメニア王国に勘付かれないように秘密裏に動くぞ」
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