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解決会議の様子

投稿が遅れて申し訳ありません。書籍化作業が良い意味で追加され、ウェブ版に咲く時間が取れませんでした。今日から投稿頻度を戻していきますので、よろしくお願いします


 犬が『キューン』とか、『クゥーン』とか、寂しげな鳴き声を上げるのを聞いたことがある人は多いと思う。

 これが犬なりに不安を表明する鳴き声だということは、これと言った勉強をしていなくても何となく理解する人も多いだろう。人間を含め、声を発することが出来る動物たちはこうして感情表現することがままある。

 その中にドラゴンが含まれるのは、そこまで驚きに値しない。哺乳類は当然のこと、ドラゴンと見た目の類似点が多い爬虫類も、人間の耳には聞こえ難いだけで、実は発声器官があったりする種類もいるし。


(そんな風に不安を感じながら、このドラゴンはこの地で何をしたいんだろう?)


 不安を覚えればとりあえず逃げる……これが生存本能に基づいた、あらゆる生き物の行動原理だと思う。

 勇猛なドラゴンであってもいざって時は逃げるし、むしろそうしない方が不可解だ。一体何に不安を感じているのかは分からないけど、この地にストレスの原因があるのなら、そこから離れて然るべきだと思う。餌場に適さないのであれば、尚更この土地に縛られる理由がない


(いやいや……決めつけは良くない。逆にこのジェーダンに、餌場以上の価値を見い出しているという可能性も考慮しないと)


 例えば、魔力不足で痩せ細り、命の危機に瀕してでも求めている何かがジェーダンにあるのではないか……そう考えれば、普通なら餌場としての魅力がない土地に居座り続ける理由になる。

 まぁ問題は、その『何か』が分からないってことなんだけどね……なまじ知能が高い分、行動原理も単純じゃないから現時点では原因に思い当たることがない。


「アメリア博士! 上空らかの状況を記録してきました!」

「ん、ご苦労様。早速見せて見せて」


 私が頭を悩ませていると、上空から街の様子を記録するように指示を出したクラウディアが、シロの背中に乗って戻ってきた。

 彼女が持っていた画板を受け取り、それに挟まれていた大きな紙を見ると、そこには大雑把ではあるけど被害にあったジェーダンの街並みが描かれている。


「すみません、もうちょっとうまく描けたらよかったんですけど……」

「あー、大丈夫大丈夫。こういうのって、分かりやすければいいからさ」


 四角形が並べられてるだけで、注釈が無いと何を書いているのかが分からない、鮮明と言うには大雑把すぎる画けど、ジェーダンの様子を理解するには十分すぎる。

 そのおかげで、私は早速あることに気が付けたのだから。


「ソラバシリオオリュウ……街の大通りばかりを行ったり来たりしてんの?」

「みたいです。建物が密集している場所に突っ込んだりしなくて、被害を受けているのは大通り沿いの建物ばかり。スペースの広い道をずっと行ったり来たりしてる感じですね」


 クラウディアからの報告を聞いて、私はますます訝しんだ。

 野性のドラゴンが人間側の事情を考慮して、建物をできる限り壊さないようにしているとは考え難い。自由に動き回っているって言うんなら、建物くらい薙ぎ倒しながら移動していると考えるのが自然だ。

 実際、ソラバシリオオリュウは巨竜半島では邪魔な木々を圧し折りながら森を移動することも珍しくない。にも拘らず、建物を避けるように大通りばかり移動する……建物が硬くて壊せない訳じゃないっていうのは、ジェーダンの惨状を見れば明らかだしなぁ。


「博士、現時点で何か分かりましたか?」

「大したことは何も。ただ一つ明らかなのは、ソラバシリオオリュウが雷の魔石目当てで動き回っている訳じゃないってことですかね」


 一体どういうことなのか、餌となる魔石を食べることもせずに貯め込んでいるソラバシリオオリュウだけど、その目的が単なる食糧貯蔵という訳ではないのではないかと、私は推測している。

 もし本当に魔石目当てで行動しているなら、街への被害はもっと大きかったはずだ。これだけの規模の都市なら、屋内にも雷の魔石が組み込まれた魔道具が数多く存在しているだろうし、それを感知して建物を壊して取り出す可能性の方が高い。


「でも思い返してみれば、ソラバシリオオリュウが貯め込んでいた魔石は、私が生成したのを除けば街灯に取り付けられていた物……すなわち、大通りに設置してあった魔道具ばかりなんです」


 実際、クラウディアが描いたジェーダンの街並みを参考にして大通りに出てみれば、街灯という街灯は根こそぎ嚙み千切られているけど、無人になった建物の中を探し回って見たら、雷属性の魔石が組み込まれた魔道具を幾つか発見できた。

 栄養失調で痩せ細ってまで貯め込み続ける理由は分からないけど……魔石を貯め込むのは主目的ではなく、別の目的のついでに集めていたのではないかというのが、私の中で今一番濃厚な説だ。

 

「……そう言えば、ジェーダンで暮らしてた人たちって、今どうしてるんですか?」

「幾つかの町々に分散して避難生活をしていると聞き及んでいます。これだけの規模の都市の住民全員を一つの街に避難させるとなると、スペースも食料も足りませんしね……ですが、なぜ急にその事を?」


 私からの質問にヴィルマさんがスラスラと答えると、少しだけ首を傾げて聞き返してくる。


「ちょっと気になることがありましてね……すみませんけど、ちょっと報告ついでにヴィルマさんたちに頼みたいことがあるんですけどいいですか?」


   =====


 アメリアたちが王国入りをし、調査を始めたその翌日。貿易都市ジェーダンの近郊にある町、フォルゲンに帝国関係者一同は集まってきていた。

 これと言った名産品もない町ではあるが、幾つもの街道と通じることでジェーダンに届いた海外からの輸入品を大陸各地へ運ぶための仲介地点となっており、数多くの貸し倉庫や馬車の停留所、果てには国内外に存在する商会系列の建物が存在する、エルメニア王国や諸外国にとって重要な場所だ。


「即刻、あのドラゴンを討伐すべきだ!」


 そんなフォルゲンの中心部に存在する館……他国との協議や商会同士の階段の場として用いられる迎賓館に集まり、アメリアからの調査報告を受けた商会の代表やその代理人たちが、口を揃えて叫んだ。


「ジェーダンの港が使えない期間が伸びれば伸びるほど、経済損失は増していく! 正規軍を派遣し、一刻も早くジェーダンを開放しなければならない!」

「聞けばあのドラゴンは弱っていっているというではないですか! 今なら取り戻せるのでは!?」

「む、うぅ……っ」


 利益を守る為、商人たちが自分たちの理屈を思うがままに叫んでいる中、渦中のアルフォンスは悔し気に唸る。

 商人たちに言われなくとも、ジェーダンを一刻も早く開放しなければならないというのはアルフォンスにだって分かっている。ジェーダンは貿易の要衝……ここをドラゴンに占拠されてしまえば、エルメニアだけでなく周辺諸国にとっても大きな痛手となる。

 だからエルメニア王国側は幾度に渡ってドラゴンを討伐しようと動いたのだが、結果は惨敗。気もそぞろな様子のドラゴンに羽虫のようにあしらわれ、負傷者と破損した装備を増やすだけだった。


「こういう有事のために、我々は税を支払って軍や国を支えている……そうではないのですか、アルフォンス殿下!」

「そうだ! こういう時にしっかりと働いてもらわなければ、我々が支払ってきた税金は一体何だったんですか!?」


 しかし、そう言った現実を理解しようともしない商人たちは、『自分たちの利益を守れ』と声高に叫ぶ。

 彼らも自分たちや従業員の生活が懸かっている以上、必死になるのも仕方のない事ではあるが、複数の国家全体の問題になっている状況下で、こうも自分の事しか考えていないかのような言動ばかりでは呆れを感じざるを得ない。


(聞けば、王太子殿下直属の優秀な騎士もドラゴンと交戦して負傷したと聞いたな)


 ……その人物の実家に思うところはあるが、まだ若いながらも次期国王の身辺警護を任され、剣も魔法も巧みに操れる信頼が厚い騎士が敗れた。個の武力でも集団の武力でも太刀打ちできない生物を敵に回すことがどれだけ恐ろしい事か、軍に属する身としてはよく分かる。

 アルフォンスとて、それが出来るならとっくにやってるだろうに……今この場でドラゴンの恐ろしさを最もよく理解している、他国からの支援者という立場から会議に参加しているユーステッドは、アルフォンスの事を若干哀れに思いながらも、情に流されないように自分を律し、隣に座る帝国大使と小声で打ち合わせをしてから手を上げる。


「発言よろしいでしょうか、アルフォンス王太子殿下」

「あ、あぁ。許す、申してくれ。ユーステッド殿下」


 このジェーダンで起こった事変解決会議の議長も務めているアルフォンスの許可を取ると、ユーステッドは帝国大使と共に立ち上がってこの場にいる全員を見渡しながら口を開いた。


「ウォークライ領でドラゴンを飼育し、実際に大型竜の対応を経験した身としては、かのドラゴンを討伐するのは現時点では悪手であると考えます」

「で、ですが……! ジェーダンを早く開放しなければ貿易が止まる! 経済損失は、既に莫大なものとなっているのですよ!?」

「あのドラゴンは日に日に痩せ細って弱っているのではないかという話も聞きます。今なら討伐も可能なのでは……? ユーステッド殿下たちはドラゴンを何頭も引き連れてこられたのですから、その力で討伐することだって……!」

「確かにジェーダンを占拠されたことは、我が国としましても決して無視できない損失です。しかし、現時点では討伐よりも移動させることの方が被害は最小限で済むと、我々は考えております」


 若輩者で侮られやすいユーステッドの言葉に、商人たちが矢継ぎ早に反論をするが、そこに老獪な外交官として知られる大使からのフォローが入ることで、やや興奮状態にあった商人たちも一旦冷静さを取り戻し、ユーステッドの言葉を聞く姿勢を取る。

 その事にユーステッドは隣に立つ帝国大使に内心で感謝しつつ、息を吸い込んで意識的に胸を張りながら発言した。


「原因は不明ですが、ジェーダンに留まり続ける大型竜は人間に襲われても殆ど暴れることなく大人しくしています。建物への被害も限定的で、商船などが壊された報告もない。しかし、ドラゴンという巨大な戦力を投じて討伐に動けば、向こうも本格的に反撃に出て、ジェーダンに壊滅的被害が出ることは必至。最悪街を一から作り直すことになりかねません」


 そう言われて、商人たちも思わず口を噤んだ。

 早く港を開放して損失を取り戻したいと思っているのに、瓦礫の撤去や建物の立て直しなど、大規模な港町を一から作り直すとなれば、巨額の資金が必要となる上に、実際に港として使えるようになるまでの期間の見通しが立たなくなるからだ。


「そして弱っているからと言って、倒せる保証はありません。調査したところ、件のドラゴンに秘められた魔力は依然として莫大……最悪、その場から逃げ出す可能性があります」

「それは……むしろ望むところではないのですか? ドラゴンが居なくなりさえすれば、我々としては問題ないのですが」

「いいえ、むしろ力を以ってして撃退した場合、知能が極めて高いドラゴンが獲る行動について、我々が同行させてきた専門家はこうも言っています……人間を完全に敵と見なし、以降人間を襲い続ける可能性が高いと」


 ドラゴンは知能が高く温和ではあるが、それと同時に執念深くて外敵には容赦しない生物だ。

 力尽くで活動域から追い払ったとなったら、その実行人である人間という生物を敵視するようになり、数多くの人間が暮らすこの大陸を移動し続けることになる。

 今でこそ、ジェーダンという魔力濃度が低い場所で活動してはいるが、これで魔力濃度が高い場所に移り住まれたら、弱った体を癒し、見かけた人間を危険排除の名目で襲い続けるようになる可能性が高い。

 それをドラゴンを身近で飼育し、巨竜半島にも何度も出向いた第二皇子が、世界唯一のドラゴン研究者からの言葉を用いて説明すると、流石の商人たちも自分たちの主張を引っ込めざるを得ない。

 

「帝国で噂のアメリア・ハーウッド博士……ですか。確かに、ドラゴンについて彼女以上の知識を持つ者はこの世にいない以上、下手にあのドラゴンの討伐や撃退に動けば、エルメニア王国……最悪、大陸にとって大きな災いとなりかねないという説を否定することは出来ませんが……」

「あ、あぁ。そうだ、我々もそれを危惧しているのだ」


 そこに便乗するようにアルフォンスが主張する。苦渋から一転、その表情はまるで助け舟を出されたかのように安堵が浮かんでいた。

 確かにこれ以上に無謀無策の突撃を兵士たちに命じるように突き上げがされなくなれば、気持ちは理解できるが……そう言う割には、アメリアという専門家が到着する前に何度も討伐を試みようとしていたという情報を聞いていたユーステッドは、怪訝そうに少しだけ眉根を寄せる。


「ですが、力尽くでジェーダンから追い払うリスクも高い、どこかに行くと期待して待ち続けるにしても、あのドラゴンが街を占拠してから既に五十日以上! 具体的な原因と解決策を導き出さない事には……!」

「それについては、ハーウッド博士がジェーダンにテントを張り、二十四時間体制で鋭意調査中です。現時点での博士からの調査結果は既に皆様に通達した通りですが……アルフォンス王太子殿下。ここでエルメニア王国側に調査協力を求めたい」

「調査協力だと……それは一体何だ?」

「ジェーダンから避難した住民たちへの聞き取り調査です。現在王国軍の尽力によって被災者たちは全て退避していますが、彼らにドラゴンがやってくる前にジェーダンに何らかの変化はなかったか……ドラゴンがあの地に留まり続ける理由が無いのか、彼らの証言から探っていきたいと、ハーウッド博士は主張しています」


 ……この協力要請は、普通に考えれば簡単に許可されるだろう。この場にいた殆どの人間はそう考えていた。

 手間はかかるが、聞き取り調査というのはさして難しい話でもない。まして事態解決に繋がるかもしれないなら、許可しない理由がない。


「……断るっ」


 しかし、アルフォンスはこの要請をバッサリと切り捨てたのだった。


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― 新着の感想 ―
あ、ことわっちゃった? この節を読んで、久しぶりに人間の行動に目が向きました。 もしわが子?卵?が原因ならかわいそうすぎる!! 早く解決してあげてほしいです。
まだ卵の殻すら割れてねぇ雛鳥の様な王太子殿下だったのだな!アルフォンス玉太子殿下はよォ!!
大通りばかりを行ったり来たり、そして聞き取り拒否・・・、卵か幼体をパレードかなんかで見せて回ったのか? たぶんパレード以外では魔力を遮断するようなものに入れてるんだろうな。 だからソラバシリオオリュウ…
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