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危険と言った舌の根も乾かない内に

書籍化します。詳しくは活動報告をチェック!


「それでは、この場は任せたぞアメリア」

「私たちは、ジェーダンの西に位置しているフォルゲンという町でアルフォンス王子殿下を始めとしたエルメニア王国の方々と会合を行いますので、何かあればそちらまで連絡をしてくださいね、お姉様」

「はーい、了解です」


 日を跨ぐこともなくエルメニア王国に入国し、そのまま海沿いを走ってジェーダンまで辿り着いた私やクラウディア、ヴィルマさんたち護衛部隊の人たちは、遠ざかっていくユーステッド殿下たちの姿を見送り、各々が荷物を背負ってジェーダンの街に入ると、そこは発展した都市とは思えない光景が広がっていた。


「これは酷いですね……建物があっちこち壊されてますよ」


 少し前までは、きっと大勢の人で賑わっていたであろう港町は、今や人っ子一人いない廃墟のように静まり返っていた。

 クラウディアの言う通り、ドラゴンによって倒壊したと思われる建物や瓦礫の山があちこちに見受けられ、この街でどのようなことが起こったかを如実に物語っている。


(……とは言っても、全部の建物が壊されてるわけじゃないんだ)


 その一方、無傷の状態の建物も多く見られた。

 発展した街なだけあって建物が密集している地域も多く、十メートル越えの大型ドラゴンが本気で暴れたならドミノ倒し形式で被害はもっと広範囲に及んでいると思ってたんだけど、実際は私の想像より被害が少ない。


「住民は、もう別の場所に避難でもしてるんですか?」

「そのようです。人口が多いので、幾つかの街に分散する形で避難生活を送っていると聞き及んでいますね」


 私の素朴な疑問に対するヴィルマさんの返事を聞きながら、私たちは舗装用のレンガが砕け、瓦礫が散乱する大通りを進む。

 目指すのは当然、件のドラゴンが居る場所だけど、足取りに迷いはなかった。なにせこの街に入った段階から、大きな音が断続的に響いているからね。


「瓦礫が崩れる音に、地鳴りみたいな足音……これ明らかに、ドラゴンが発信源ですよね……?」

「だろうね。何やってんのかは見てからのお楽しみだけど……お、居た」


 ドラゴンが動き回っていることを示す音を頼りに進んで行くと、今回の目的となるドラゴンをすぐに見つけることが出来た。

 全長や鱗の色は報告に合った通り、目測で十メートルを超えるその紫の竜は、全体的にティラノサウルスに似た骨格をしている【走竜科】のドラゴンだった。

 頭には両側から二本ずつの計四本の角が生えていて、口からは長い舌がピョロピョロと出たり引っ込んだりしている。

 そして何より特徴的なのは、後ろ脚の指の間にある水掻きのような皮膚……これらの特徴に合致するドラゴンを、私は一種類だけ知っている。


「ソラバシリオオリュウ……なるほど、【走竜科】のドラゴンがどうやってここまできたのかと思ってたけど、ここまで走ってこれる力があったなんてねぇ」

「あ、知ってる種族なんですね。どんなドラゴンなんですか?」

「名前の通り、空を走るドラゴン……と言っても、飛び上がることは出来ないんだけどね」


【雷竜目走竜科】に属するこのソラバシリオオリュウは、飛行能力を持たない【走竜科】のドラゴンの中でも稀有な、空中に適応した能力を持つ種だ。

 その実態は空を飛ぶと呼べるものでもないけど、彼らはその名の通り空中を移動する手段を持ち、生存競争を勝ち抜いてきたと考えられる。


「あの足の水かき状の皮膚の形状と、そこから発せられる磁力を駆使して浮力を得て、空中や水上を滑空するように移動するドラゴンでさ。外敵に追いかけられても崖から先の空中や、水上をしばらくの間走って逃げたりすんの」


 これと似たような能力を持つ生物は、前世でも存在している。

 バシリスク属という伝承上の怪物に由来する総称で呼ばれる一部のトカゲたちも、水かき状の皮膚がある後ろ脚を高速で動かし、片足が沈む前にもう片足を前に出し、忍者さながらに水上を凄い速さで駆け抜けるという驚異の生態の持ち主だ。

 ソラバシリオオリュウの能力は、そんなバシリスク属のトカゲの凄い版。磁力を発することでより強い浮力を得て、あの巨体で空中や水上を数百メートル走り抜けることが出来る。


「と言っても、流石に何十キロ……下手したら百キロ以上は離れている巨竜半島からここまで移動するほどじゃないんだけど、泳ぎも得意な種族でさ。時々、犬かきみたいに顔を水上に出しながら、海や川を泳いでたりするんだよ」

「へぇ……そうなんですね」


 クラウディアは私の話を興味深そうに聞きながら、メモ帳に何かを書き込んでいく。得た知識を自分なりに解釈し、記録しているんだろう。

 

(ただまぁ……水上を走って海を泳げるって言っても、こんな場所まで来る理由が無いんだけどね)


 わざわざ魔力な潤沢な土地から離れ、魔力濃度の薄いジェーダンに移動する理由が分からない。

 これが普通の動物だって言うんなら、餌を探し求めて人里に迷い込んでも不思議には思わないんだけど、ドラゴンたちは魔力を感知する能力がある。大気中の魔力が殆ど存在しないこの港町に、わざわざ泳いでまでやってくるというのは、辻褄が合わないのだ。

 生物学に絶対はないと言えばそれまでだけど……あのソラバシリオオリュウにとって、何らかの異常が発生したと考えるのが妥当だろう。


「後もう一個特徴的なのが、あの長い舌。実はあれって、一部のドラゴンや爬虫類たちが持っている臭いを感知する為の器官なんだよね」

「へ……? 舌で臭いを感じ取るって……どういうことですか? 普通は鼻で臭いを感知するんじゃ……」

「その常識を覆す種が居るのが、生物学の面白いところでさ……しかも嗅ぎ分ける力も尋常じゃないの」


 これは大型のトカゲやヘビなども持っている能力で、ザックリと説明すると、彼らの舌先に空気中の匂い成分を感知する機能が備わっていて、中には数キロメートル先の獲物の臭いを捕捉するという、犬よりも更に優れた嗅覚を持っている種族もいるが、それがドラゴンともなるとその比ではないのではないかと考えている。


「昔、あれとは別個体のソラバシリオオリュウに魔石を餌に協力してもらう形で、ゲーム形式の実験に付き合ってもらったことがあるんだけど、その時にやった臭い当てゲームでも百発百中だったからね」


 かくれんぼをしたり、複数個の木の実を用意して目隠しした状態でその臭いを嗅ぎ分けられるかどうかとか、色んな方法で嗅覚を試したんだけど、彼らはこの手の臭い当てゲームでミスしたことは、私が実験した限りでは一度もない。ドラゴンとしての知能の高さも相まって、極めて正確に臭いを判別する能力を見せつけてくれた。


「……それで、博士。このドラゴンは特別温和な性格をしているという事は……」

「あぁ、それは無いです。危害を加えられたら普通に暴れますよ」


 ヴィルマさんからの質問に、私はそう答える。

 自分より強い種族から逃げる能力を持っているけど、彼らもまたドラゴン。いざって時は本気で戦うし、中型ドラゴンまでなら撃退できる力も持っている。

 もし自分よりもずっと弱い人間に危害を加えられたのなったら、普通に相手を倒すことを選ぶだろう。なにせそれが一番手っ取り早いからね。


「なのにあの個体は殆ど暴れなかった……大型竜が本気で暴れたら、街への被害がこの程度で済むわけがない」

「こ、これでもまだ『この程度』なんですね……!」


 後ろでクラウディアが生唾を呑み込む音が聞こえる。

 一見すると大惨事に見えるジェーダンの惨状だけど、これでもまだマシな方っていうのは、アラネス湧水山で起きた大型竜同士の激突を鑑みれば明らかだ。


「とは言っても、気が立っていない訳でもないみたいだけどね。襲われたことによるストレスは、間違いなくあるみたい……普通に考えれば、近付くのは危険か」


 その証拠に、あのソラバシリオオリュウの瞳孔は鋭く、荒い鼻息の音も聞こえてきている。

 そんな状態になってまで殆ど暴れなかった理由……そしてこの魔力濃度の低い土地に留まり続けている理由は、こうして遠巻きから見ている内は皆目見当付きそうにない。


「となれば……よし」


 私は意を決してシグルドの背中から飛び降り、背負っていた大きなリュックサックを地面に降ろすと、ヴィルマさんたち護衛部隊の人たちに向かって穏やか心情のまま告げた。


「そんじゃあちょっと近づいて様子見てみるから、ここで待っててください」

「近付いたら危険って言った舌の根も乾かない内に何言ってんのこの人!?」





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― 新着の感想 ―
四本の角、長い舌、水かきのある足。 ソラバシリオオリュウ、かっこいいです!紫色とか、信じられないくらいきれいでしょうね。 ティラノザウルスに似ているそうですが、魔力を糧にするならそれほど鋭い歯はいらな…
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