第22話〜9匹のネズミの家族〜
「ニャアアアーー!!」
チップはボクの声にびっくりしてピョコンと跳び上がり、こっちを振り向いた。そして涙目のままジッとボクを見た後、ハッとしてもう一度ピョコンと跳び上がる。
「わわ、君たちは一体!?」
ボクらがネコだと気付いた瞬間、足を止めてその場に固まった。
後ろにいた大人のネズミが、大声を出す。
「チップ、早くこっちへ! 食べられちゃうよ! ネコは僕たちの天敵だ!」
「おとうさん、知ってるよ。でも、僕らと同じ大きさだし、服も着てるし……僕の知ってるネコさんとは何だか違う気がする。それに、ここにはネコやイタチは絶対に来れないはずじゃなかったの?」
「そうだけど……。ひとまず、チップは下がってて。ここは僕が行くよ」
大人のネズミが細長い棒っきれを持って、ジリジリと近付いてくる。警戒されてるみてえだ。
「はじめまして。君たちは、ネコさんですか? どうしてここに?」
チップたちの父ちゃんだろう。
棒を構えながら息を殺して、ボクらをジッと見ている。
ネズミはネコにとっての食いモンだ。警戒されるのも無理はねえ。
とりあえず、何か答えなきゃな……。
「あ、ボクはネコのゴマっていうんだ。コイツは弟のルナ。その、ボクら、何ていうか……、かくかくしかじかでネズミサイズになって来たんだが、その、この世界のネズミの奴らと、ちょっと話してみてえなあ、ニャンて、ハハハ……!」
頭が真っ白になり、自分でも何を言ってるか分かんなくなった。
ルナが前足でボクの口を塞いだ。
「どうも初めまして、ネコのルナといいます。びっくりさせてごめんなさい。まず、僕らはあなたたちを食べたりはしませんから、安心してください」
ルナの言葉を聞いたネズミの父ちゃんは、構えていた棒を下ろした。
「ちょっと訳ありで、このネズミさんたちの世界で迷子になってしまったんです。しばらく帰れそうにないので、ネズミさんたちにまずは挨拶をしておこうと思いまして。僕らは、そこの洞窟の奥にいます。お世話になることがあるかもしれませんが、その時はどうかよろしくお願いします。それでは失礼します」
ルナが頭をペコリと下げたので、ボクも同じように頭を下げた。
上目遣いでネズミの父ちゃんを見ると――。
「そういう事でしたか、ネコのゴマさん、ルナさん。僕はネズミの【ピーター】です。この一家の主です。ゴマさんとルナさんさえよろしければ、うちに寄って行きませんか?」
「ねえねえネコさんたち、ぜひ来てよ来てよ!」
いつの間にか来ていたチップが、ピーターって名前のネズミの父ちゃんの後ろから、ヒョコッと顔を出した。
さっきまでビービー泣いてたナッちゃん、トム、他のネズミどもも家から出てきて、ボクらの方へ駆け寄って来る。
「みんな、こちらのネコさんたちは僕らのこと食べたりしないから安心して。うちに来てもらおうよ」
ネズミの父ちゃんが言うと、ネズミ一家のみんなが口々にボクらへの歓迎の言葉をくれた。
「さんせーい! ようこそ、不思議なネコさんたち!」
「さあさ、一緒においしいご飯でも食べましょう」
「ほっほ、早くも次のお客さんが来なさったのう」
やっぱり、ネズミどもは、めちゃくちゃフレンドリーな奴らだった。
もちろん、誘いに乗らねえ手はねえな。
「そんな、迷惑じゃないですか……?」
遠慮気味なルナにも、
「気にせずに、うちでのんびりしてよ。子供たちも、新しいお友達が増えて喜ぶさ」
ニンゲンみたいにニコリと笑いながら、誘いかけるネズミの父ちゃん。さすがのルナも、「じゃあ……お邪魔させていただきます」と返すしかなかったみてえだ。
デッカい木の家へ向かいながら、今度はネズミの母ちゃんが話しかけてきた。
「はじめまして。母の【マリナ】です。ネコさんは、お魚が好きなのよね。新鮮なお魚があるから、楽しみにしててね」
優しそうな母ちゃんだ。
新鮮な魚だってさ。コイツはご馳走になるっきゃねえ。
「このボクの舌を満足させられるか、ネズミどものお手並み拝見だな」
「こら、兄ちゃん! 失礼な事言わないの!」
ボクら、ネズミどもにめちゃくちゃ歓迎されてる。
この世界に居場所ができた気がして、ボクは嬉しかったんだ。ルナもきっと、そうなんだろう。今までに無えぐらい、安心した顔してるからな。




