第12話〜オバケの森へ〜
「チキショー、チキショー! 見失った……! ボクの高級魚缶が……チキショー!」
「もう諦めなよ。とりあえず、トラックが止まるまでじっとしてよう」
「くぅ……そうするしかねえな……」
……って、よく考えりゃ、別にあのニンゲンを取り逃がしたところで、報酬がもらえねえ訳じゃねえのか。
ちゃんと他のネズミも撮ったんだ。
冷静になったボクは、かなり遠くまで来ちまったから、プレアデスともっかい合流するまでが大変だってコトに気づく。
確か、アイツから連絡よこすって言ってたな。
ボクもルナも“ニャイフォン”を見てみたが、プレアデスからの連絡は無え。
「こっちから連絡しとこうか。プレアデスさんに電話かけるね」
「ああ、頼んだ、ルナ」
「んーと……ん? あれ?」
ルナがヒゲをピクリと動かしながら、首を傾げる。
「どーした、ルナ?」
「“ニャイフォン”の連絡先から、プレアデスさんの名前が消えてる……」
「ん? どーいう事だ?」
「プレアデスさんと連絡が取れないってこと……」
「何だと!? アイツと合流できねえと、アイミ姉ちゃんとこにも帰れねえじゃねえか! あの変なトンネルの場所、もうどこか忘れっちまったぞ! ルナ、トンネルの場所、覚えてるか?」
「覚えてないよ……。ど、どうしよう……」
プレアデスとの連絡が取れねえ。“ワームホール”だっけか、ボクらが通ってきたトンネルの場所も分からねえ。
つまり、ネズミの街に置いてけぼりだ。
しかも……。
「まずいよ、兄ちゃん。確か、ネズミサイズになって2足歩行でいられるのはだいたい42時間ぐらいだ、ってプレアデスさん言ってたよ。つまり……」
「このまま帰れねえと、元のサイズになっちまうって事か。そしたら……どーなるんだ?」
「その辺の建物とかよりも僕らの方が大きくなって、ネズミさんたちにも見られて、きっと大騒ぎになっちゃうよ。そしたらネズミさんたちにも、プレアデスさんたちにも、取り返しがつかないぐらい迷惑がかかっちゃう……。アイミ姉ちゃんとこに帰ることもできなくなっちゃうかも」
何て事だ。ふざけんじゃねえよ……。
ボクは“ニャイフォン”の画面を、ネコパンチで思い切り殴っちまった。
ピシリ……。
“ニャイフォン”の画面に、ヒビが入る。
「プレアデスの野郎、また騙しやがったな……。 何か胡散臭えと思ってたんだ。次に会った時は、タダじゃ済まさねえ」
「あ、トラック止まったみたいだよ」
ここの乗り物は、ボクらの世界のニンゲンの乗り物と違って、うるせえエンジンの音がしねえみてえだ。
ダンプトラックに乗ってたネズミが降りて行ったのを確かめてから、ボクらもそっと荷台から降りた。
ここは、森のような草叢の中の敷地だ。近くに大きな工場みてえな建物があって、さっきの運転手のネズミはそこへ向かって行った。
「もう、どっちみちネズミどもに見つかっても、一緒じゃねえか?」
「ダメだよ、見つかるだけでもきっと騒ぎになるよ。でも、かぶり物は、もうビリビリだよ……」
「そんな偽モン、どっちみちバレバレだろ。その辺に捨てとけ。……それにしてもここ、でっけえ工場だな」
ガチャガチャと色んな機械の音がする中、ネズミどもが楽しそうに働いてるのが見える。竹や材木で、何かを造ってるようだ。
さあ、どうしたもんか。もう日が暮れちまう。
トラックは草叢の細長い道を走ってきたみてえだが、敷地の門が閉められちまっている。このままじゃ、また門が開けられるまで、工場の敷地から動けねえ。ガチャガチャうるさくて、たまったもんじゃねえぜ。
敷地から出るには、鬱蒼と茂った草叢から抜け出すしかなさそうだ。
「この草叢から抜け出そうぜ」
「でも、もう暗くなるよ?」
「大丈夫だ。ボクらは暗闇でもよく見えるだろ? 見つからずに移動するなら、この草叢を抜けて行くしかねえよ」
「……お化けとか、出てきそう」
「お前、急に弱気だな。オバケなんざ、いる訳ねえだろ。いるとすれば、ドデカいバッタやコオロギとかぐらいだ。そんときゃ返り討ちにして食っちまえばいい。夜の森の大冒険が始まると思ったら、ワクワクするだろ?」
「それは兄ちゃんだけだよ……」
ルナを半ば無理矢理説得して、ボクらは夕闇に広がる森のような草叢へ、足を踏み入れた。
闇の中に、コオロギやらキリギリスやらの鳴き声が響く。見慣れた草花が、不気味なぐらいデッカい。
「怖いよ……」
「大丈夫だってばよ。ちゃんとついて来い」
「ついて来いって、どこ向かってるのさ」
「とにかくこの森みてえな草叢を抜けるんだよ。デッケえコオロギやら取っ捕まえてメシにして、一旦どっかの洞穴で寝れりゃあベストだ」
すっかり日も落ちて、ボクらは真っ暗な草叢の中をひたすら歩く。道が全く無え。完全な手探りだ。開けた場所に出るどころか、歩けば歩くほど闇夜の草叢の深みへと誘われるばかりだ。
小一時間ほど歩いた頃だろうか。ルナの様子がおかしい。
「に、兄ちゃん……」
「何だお前、足ガクガクじゃねえかよ。ションベンでもしてえのか?」
「違う……。あれ……見て……」
ルナが指差した先を見てみた。
暗闇の奥に――。
黄色く光る目が、2つ見える。
背筋に寒気が走った。まさかこの森には、本当に化け物が棲んでいるのか……?
「お、おい! ルナ、隠れるぞ!」
「ひ、ひぃぃぃ……!」
黄色い2つの目は、だんだんと音もなく近づいてくる。
すぅーっと、すぅーーっと! 真っ直ぐこっちに向かって来るじゃねえか……!




