第25話〜ボクの家族〜
『危険です。すぐに脱出してください』
サイレンが鳴り響く。
ここはマグマのど真ん中だ。こんな場所で脱出なんかできるわけねえ!
「プレアデス、このままボクら焼け死にたくねえぞ!」
「大丈夫! 僕を信じて!」
あまりの熱さと息苦しさ、そしてプルートのジジイの「ヒョロほぉおおおお!? オホホホォーー!!」とかいう泣き声のせいで、気が狂っちまいそうだ。
どうにか正気を保って、顔を上げると――。
「ルナ……? おいルナ!!」
ルナが目をつむったまま、動かねえ。ゆすっても反応が無え。
「おいルナ、死ぬなよ……? しっかりしろ、ルナ!」
声を出してるつもりだが、先にボクの意識が途切れそうだ。
「よし! 動力装置復旧。でも長くは持たない。最高速度で地上まで抜ける!」
「プレア……、頼むぞ……」
プレアデスの奴も、この時ばかりは頼もしげだった。ていうか、今はコイツしか頼れねえ。
クソ、意識が遠のいていく――。
「ルナ……、絶対死なせね……え……ぞ……」
地上まで持ってくれ……! 頼む……!
『危険です。すぐに脱出してください』
『すぐに脱出してください。間もなく機体が崩壊します』
『機体が崩壊します。機体が崩壊します――』
ひんやりとした感覚に気付いて、ボクは目を覚ました。
すぐそばに、1匹のネコが倒れている。
……ルナだ!
「おい、ルナ! ルナ!!」
「んーー……。あ、兄ちゃん……?」
無事だったみてえだ。
ボクも、体は何ともない。
助かったんだ。
本当に、本当に良かった……!
「ルナ、背中に火傷してるじゃねえか。大丈夫か?」
「痛い……」
「……軽い火傷だ。すぐ治るだろ。見ろよルナ。ボクら、帰ってこれたぞ」
「……ほんとだね」
目の前には、見慣れた景色が広がっていた。
白く輝くお日様。青い空、白い雲。緑いっぱいの森。車の音。そして、行き交うニンゲンの姿。
懐かしい空気の匂い。雪はすっかり解けて、あったけえ陽射しが降り注いでいた。
ボクらは、よく散歩に行く神社の、裏にある林を出た所にいたんだ。
「ルナ、帰るぞ」
ボクらは、4足歩行に戻っていた。
着ていた服が、ボクのもルナのもビリビリに破けている。それを見て、あの体験はやっぱり夢じゃなかったんだなと確信した。
“ニャイフォン”とやらは、どっかに失くしちまったが。
あの変な乗り物――“パルサー”はどうなった?
周りを駆け回って探してみたが、それらしい物はどこにも見当たらねえ。
……にしても、よく棲家の近くに帰って来れたな。ラッキーにも程があるってもんだぜ。一生分の運を使い果たしちまったかもな。
「兄ちゃん……プレアデスさんたちは?」
「……そのへんでくたばってるんじゃねえの? 見つかる前に、さっさと帰るぞ」
「うん、もうあんな怖いのは嫌だよ」
もう1度周りを見回してみたが、プレアデスの奴もプルートのジジイも、姿はどこにも無かった。
「そうだ。あの穴は……!」
神社の広場にある、こぢんまりとした祠。その後ろの地面に、ネコだけが暮らす地底世界へとつながるデッカい穴があるはずだ。
「……あった」
ボクは祠のそばへ駆け寄った。
祠の後ろの地面には、まん丸い大穴が変わらずポッカリと口を開けている。
真っ暗闇の穴からはヒンヤリとした空気が吹き上げていて、少し離れた所にいても冷たく感じた。
「ルナ、もうこの穴に近づいちゃダメだ。他の奴らにも気をつけるように言っておこうぜ」
「うん……そうだね。もうこりごりだよ」
ボクとルナはボロボロの服を脱ぎ捨てて、歩き慣れた道に出た。
橋を渡ると……見えてきた。
飼い主の、アイミ姉ちゃんの家と――。
ボクらの棲家の、ガレージだ。
「……ゴマ!? ルナ!!」
「メルさん!」
「メル姉ちゃんっ!」
メルさん。じゅじゅさん。ユキ。ポコ。
懐かしさすら感じる家族の姿を見て、思わず「ニャアー!」と声を上げちまった。




