第13話〜チキュー空洞説〜
「おーい。おはよう。おーい!」
誰かに体を揺すられて、ボクは目を覚ました。知らん間に、畳の上でぐっすりと眠っちまったらしい。
体を揺すっていたのは――プレアデスだった。
「あ、おうお前か、プレアデス……もう朝か?」
「おはよう、ゴマくん。魚の缶詰食べなかったの? 出かける前、そこに置いといたのに」
「何だと!? ……ああ、昨日は眠くて、メシどころじゃあなかったのかもな」
途端に、「グギュウー」と腹の音が鳴る。よし、さっそくメシだ、メシ。
ボクは魚の絵が描かれた缶詰に爪を立てて、開けてみた。イワシのような匂いが鼻に飛び込んでくる。
ってか、地底にも魚がいるのか……? いや、今はそんニャ事どーでもいい。
「おい、ルナ起きろー! メシだぞ、メシ!」
「んんー……ふぁーあ……、あ、おいしそうなにおい!」
プレアデスは、部屋のカーテンをササッと開けていく。
ボクは、味の薄いイワシっぽい魚にかぶりつきながら、明るくなった部屋を見回してみた。
天井に4つほど、カメラみてえなモンが取り付けられている。何に使うんだろうか。
窓の外に目をやると、薄いピンク色の空が見えた。昨日プレアデスと一緒に歩いてた時よりも、外が明るいように思える。
このボロ部屋に来る直前は夕方で、そんで夜が来て、朝になったって事なのか? 地上と同じように、昼と夜が繰り返されてるんだろうか?
ボクの分の魚を全部飲み込んでから、窓から顔を出してみた。
空の真上には、地底にあるお日様――“セントラル・サン”だっけ?――が光り輝いている。
昨日見た時もそうだった気がするが、“セントラル・サン”は地上で見るお日様と違って、ずっと空の真上にある。昇ったり沈んだりしねえのだろうか。
そもそも、何で地の底にお日様があるんだ。信じられねえ。不思議な世界だ。
席についたプレアデスが魚の缶詰をプシュッと開けると、ヤツはまるでニンゲンみたく2本の棒っきれを片手で器用に動かし、魚の肉片を口に運びやがる。
知ってるぜ。箸ってやつだ。
「……君たち、どんな食べ方したんだよ……。後で机の上を掃除しなきゃね」
食事を終えたプレアデスは溜め息をつきながら、ボクらが撒き散らした魚汁を拭き取った。
「悪りいな、ボクらはこういう食い方しかできねえんだ」
「ごめんなさい、お行儀悪くて……」
「いいよ。多分、“地上世界”は、こことは文化も違うだろうからね。……もう一度聞くけど」
プレアデスはすうっと息を吸う。
「ゴマくん、ルナくん……、君たちは、本当に“地上世界”から来たんだね?」
言葉のペースを遅くしながら、じっとボクの目を見て尋ねてきた。
コイツ、何かロクでもねえ事たくらんでんじゃねえだろうか……。
一瞬そんな気がしたが、とりあえず返事をする。
「ああ、何度も言ってるだろ。逆にボクらにとっちゃ、地の底にこんな世界がある方が驚きなんだってばよ。なあルナ」
「うん……」
「……そっか、わかった。じゃあ、君たちにこの世界の事を簡単に説明するね」
プレアデスは、持っているバッグからデッカい紙を取り出し、バサっと机の上に広げた。
その紙に、青のマーカーペンのような物で、グルリと円を描き始める。
「これが僕たちの住む星、【ガイア】さ」
プレアデスはペンの先で、描いた円を指し示した。
「ガイア? なんだそりゃ」
「僕たちが住む星の事さ」
「あ、もしかしてチキューの事か?」
「チキュー?」
ルナが補足説明をする。
「お姉ちゃんから聞いたんですけど、僕らが住む星の事を、地球って呼ぶんです」
「なるほど、地上ではそう呼ぶんだね。ここニャガルタでは“ガイア”と呼ぶのさ。覚えておいてね。さて、このガイアの絵にちょっと描き足すから、よく見てて」
プレアデスは、青い円の内側にくっつくように、3匹のヘッタクソな、2本足で立つネコの絵を描いた。
「一体お前は何を描いてるんだ」
「ふう、描けた。これは、ガイアの断面図だよ。このように、ガイアの重力の中心は、地殻にあるんだ。つまり、僕たちは今、地上の裏側に重力でくっついてるってこと」
「……どういう事だ?」
プレアデスは青い円のど真ん中に、今度は黄色のマーカーで小さく円を描いた。
「この黄色い丸が、地底世界を照らす“セントラル・サン”。ガイアの中は空洞になっていて、その中心に、“セントラル・サン”が浮かんでいるんだ。つまり、この地底世界では空の上がガイアの中心で、この地面が、ガイアの表皮つまり地殻の裏側で……」
「おい、待て待て。訳が分からねえよ」
いっぺんに説明しやがるから、頭が追いつかねえ。チキューのど真ん中に、もう1つのお日様があるって事か?
「つまりね、例えば今、この世界の地面を真っ直ぐに掘って行くと、地上に出るってこと。わかる?」
「わからねえ。あはは。ルナ、コイツ頭おかしいぜ」
ところがルナは、涼しい顔して言う。
「……つまり僕らは、地球の内側の端っこに立っているんだよ。そして地球の内側のど真ん中に、もう1つのお日様が浮かんでるんでしょ?」
「その通りだよ、ルナくん!」
ルナは得意げにヒゲを動かしながら、プレアデスの顔を見上げた。
「僕らは今、上下逆さまになった状態で、地上世界の真裏にいるんだよ。だからこの世界ではお空の上が、地球の真ん中。そこに2つ目のお日様が浮かんでるって事じゃない? だから、地面を掘っていけば、上下逆さまになって、地上に出られるって事だよね」
「そうそう、そういう事!」
プレアデスはうんうんと頷いて、声のトーンを上げる。
「……ルナお前、頭いいな」
ルナの説明のおかげで、だいたい分かった。
ボクらが住むチキューの中は、実は空っぽの空洞になってたんだ。そして地表の真裏――つまりチキューの内側に、ネコだけが住む世界が広がってた――という訳だ。
さっきまでのハイテンションだったプレアデスは、途端に声をひそめた。
「実はね……」




