第12話〜ボロアパートで〜
見た事もねえ色と形をした草木、建物、乗り物、道路、全てがネコサイズの、2足歩行のネコだけが暮らす世界。
ボクとルナも慣れねえ2足歩行で、慣れねえ景色の中、ひたすらプレアデスについて行く。
「なあプレアデスよお」
「ゴマくん、どうしたんだい?」
「何で地下なのに、お日様が出てんだよ」
ボクは、ピンク色の空に煌々と輝く、オレンジ色のお日様に向けて前足を伸ばした。
「ああ。あれはね、正式には【セントラル・サン】っていうんだ」
「“セントラル・サン”だと? あれはお日様じゃねえのか」
「それについては……、部屋に着いた時にでも解説するよ。外を出歩き続けるのは危ないから、ちょっと急ぐよ。あ、ご飯もちゃんと用意してあるから」
プレアデスは、持っているカバンから、魚の絵が描かれた缶詰みたいなやつをちらつかせてきた。
次に連れてかれる場所は、どんな所なんだろうか。せめて、伸び伸びと寝られる場所にしてくれよ……。
周りを見れば、やはり服着たネコばかりが2足歩行でその辺をウロウロしながら、ネコ同士でペチャクチャ喋ってやがる。
そしてやっぱり、ネコどもの表情が何となく暗いような気がしたんだ。
変な形の建物のうちのいくつかが、崩れ落ちて煙を上げている。道路もひび割れて、通れなくなってる場所があった。
物々しい雰囲気だな。一体この街に、何があったんだ?
「おおーい、ゴマくんとルナくん。君たちが住むアパートはこっちだよ」
今のプレアデスの言葉を聞いて、ボクは思い出した。
これ、昨晩に見た夢と、同じ場面じゃねえか!
今もきっと、夢を見てるんだ。
なら、さっさと目を覚ましちまおう!
ボクは自分の頬をつねり、ヒゲを引っ張ることにした。
思いっきり引っ張って、今度こそ、この変な夢とおさらばしてやる。
うりゃ!
「い゙っ……!」
「到着。一緒に住む貸し部屋は、このアパートの2階だよ」
っ痛ててて!?
バカな! 痛いだけで、目が覚めねえじゃねえか!
「何してんの、兄ちゃん……」
「ゴマくん、早く中に入るよ。さっきも言ったけど、外は危ないからね」
ルナもプレアデスも、ボクが痛がってるのをしれっとスルーしやがる。
クソ、これは現実だってのか。てことは、昨晩見たのは正夢って事か……?
プレアデスに連れてこられた所は、3階建てで横長の、ボロっちい建物だ。壁は埃や土で汚れていて、窓は所々ヒビが入っている。
ギリギリくぐれるようなサイズの扉を開けると、ギィーっという音が薄暗い廊下に響いた。
中に入ると、ウンコのようなニオイと埃のニオイが混じった空気が、ムワッと鼻をついてきやがった。
2本足で、ギシギシきしむ階段を上っていく。実に時間がかかる。4本足なら、このぐらいスタスタって上ってやるのに。
「おいプレアデス、こんなきったねえとこに住めってのか?」
「うん。見た目はボロアパートだけど、部屋は悪くないと思うよ。……着いた。この部屋だよ」
2階の廊下の、突き当たりのすぐ右側にあるのは、ボロボロになった木の扉。プレアデスは扉の鍵穴に鍵を突っ込んだ。キィーという音が鳴って、扉が開く。
そこは、ボロッボロになった畳の部屋だった。ホコリ臭え。薄暗い電球が天井に2つ。いくつかの座布団に四角形のテーブルがある。畳の上には、汚れて黒くなったボールや、腐りかけて欠けている積み木が置かれていた。
「おいルナ?」
「んー……。眠い……」
ルナは、首をコクリコクリとさせている。
「なあ、プレアデスよ。段ボールのでかいやつとかあるか?」
「段ボール? 何に使うんだい?」
「寝床に決まってるだろうがよ」
「変わったところで寝るんだね。布団ならあるよ。そこのふすま開けてみて」
言われるまま、所々破れたふすまを開けてみると、何やらフカフカした物が畳まれていた。なるほど、そいつを敷いて寝るのか。早くルナの奴を寝かせてやらないと。
ボクがいつも包まっている毛布よりもフカフカした布団とやらで、ルナを包んだ。埃臭くてカラダに悪そうだが、地べたに寝かせるよりはマシだろう。
ルナは、すぐにスースーと寝息を立て始めやがった。
さて、帰るための条件とやらを聞こうじゃねえか。
「なあプレアデスよ、ボクらが帰るためには何すりゃイイんだ?」
「その事についてはまた明日、伝えるね。僕は、これからまだ夜通しで仕事があるんだ。今日は疲れただろうから、ゆっくり休むといい。君たちはこの部屋から外には出られないようにしてあるから、何かあったら僕のニャイフォンに連絡ちょうだい。それじゃ、また明日朝にね」
「おいこら! 待てよ!」
プレアデスはそそくさと部屋のカーテンを閉めると、まるで逃げるかのように扉を閉めて鍵をかけて、出て行っちまいやがった。
追っかけようとしたが、鍵が開かねえ。こんなボロボロの部屋だから、どっかから脱出しようと思えばできそうだが……。
それより、アタマも体もヘトヘトに疲れちまった。仕方ねえ。言われた通り、ここで寝ることにするか。
ルナの奴は、死体のように眠ってしまっている。
こうしてボクらは、見知らぬ地底の世界“ニャンバラ”ってとこに来てしまったんだ。
正直に言うと不安だった。帰れる保証も無え。どんな変な奴がいるかもわかんねえ。
アイミ姉ちゃん、ムーンさん、じゅじゅさん、メルさん、ポコ、ユキ……。もう会えないなんて、考えたくもなかった。その気持ちは、きっとルナも同じだ。




