第11話〜条件〜
「ちょっと待っててね。ゴマくんたちの“ニャイフォン”を用意するから。使い方も丁寧に教えるから安心して」
「おい、ちょっと待て! 何でボクらがテメエと一緒に暮らさなきゃなんねえんだよ! ボクら、さっさと棲家に帰りてえんだ!」
プレアデスはちょっと申し訳なさそうな顔をしたが、相変わらずムカつくほどに爽やかな声で返事しやがる。
「ごめんね。ゴマくんたちは、ここ“ニャガルタ”の国民じゃないから、不法入国をしたことになる。だからすぐに帰す訳にはいかないんだ。それに、色々と聞きたい事もある。だから君たちの監視も兼ねて、貸し部屋で君たちと一緒に住むことになったんだ」
「はあー!? 知るかよそんな事! さっさと帰らねえとメルさんにボコられるんだよ! ユキもポコもきっと心配してやがるし! なあ、ルナ?」
「うん……早く帰りたいです。帰る方法って、あるんですか……?」
2つの紙箱を机に置いて、テープをペリペリと剥がしていたプレアデスは、途端にそれをやめ、ボクらの所へ忍び寄るように移動してきた。
そしめ声を潜める。
「君たちを地上へ送り届ける手段は、あるにはある。だけど、それには条件がいるんだ。あまり大きな声では言えないから、詳しくはこれから住む事になる貸し部屋に移動してから話すね」
条件だあ?
ま、どうやら帰る手段はあるって事らしい。少しだけホッとした。だがルナは、ずっと不安そうにしてやがる。後で、その条件とやらをしっかりと聞き出そう。
「帰れるってんならイイぜ。……で、この何だっけ、“ニャイフォン”とやらを持ってりゃいいのか?」
紙箱から“ニャイフォン”を1つずつ取り出したプレアデスは、ボクらの目の前にそっと置いた。
「使い方を説明するから、よく聞いててね。まず、設定アプリをタップしてから――」
プレアデスの奴、説明が長すぎる。ボクは思わず尻尾をブンブン振っちまっていた。
ようは、画面の“アイコン”とか“キーボード”とやらを、肉球でポチポチやって、文章やら絵やら記号やらを書いていくんだ。ネコ同士の言葉の早見表なんかも入ってて、それを見ながら文字を入力すればいいらしい。
基本はそれだけだ。
“ニャイフォン”の使い方は理解できたはずだ……多分。
「あとは、ここに肉球を押しつけて」
「あん……? こうか?」
画面に肉球を押し付けてみる。すると、ポンッと音を立てて肉球のマークが現れた。同じ事をしたルナは、いっとき不安を忘れたかのように「わあ、おもしろーい」とか言ってやがる。
「契約完了。さあ、これで君たちも自由に“ニャイフォン”を使うことができるよ。特殊な電波を使っているから、壊れない限りはどんな場所でも、連絡が取り合える。まずは、【NYAINE】っていうメッセージアプリに、僕の連絡先を入力してみて」
プレアデスは、自分の“ニャイフォン”の画面を見せてきた。数字と記号が横に並んでいる。表示されてる通りに、入力しろという事らしい。
ボクは、自分のニャイフォンの画面を適当に触ってみた。
『→★♀¿・※3〆』
くっそ、何だこれは。思うように文字が打てねえ。目がチカチカする。前足が攣ってくる。
面倒臭くなったボクは、連絡先の入力をプレアデスに丸投げした。
「ルナくんは自分でちゃんとやってるのに……」
「るせえ。それよりさっさと、さっき言ってた地上へ帰るための条件とやらを聞かせろ」
こんなおかしな世界とはさっさとおさらばして、帰って昼寝がしてえ。
「そうだね、早く貸し部屋に案内しなきゃ。ルナくんも連絡先の入力が終わったみたいだし、早速行こうか。僕についてきて」
プレアデスは、雑に散らかされた紙箱と、飛び散ったミルクをテキパキと片付けてから、ボクらを部屋の外へと案内した。
建物から出ると、外は少し暗くなっていた。空の色が少し赤みがかったピンク色になっている。




