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四巻(六十)

セカヴァンの戦い(七)

 盛冬[二月]。

 国主[ダイアネ五十五世]の名で、西南州と近北州に対して、()(ぼく)を勧める詔書が出された。

 ウベラ[・ガスムン]は、受諾前の(じょう)(らく)を進言したが、近北公[ハエルヌン・ブランクーレ]には別の考えがあったようで(※1)、詔書に従い、西南州と和睦を結んだ。

 この和睦によって、西南州と近北州は、ホアラを起点として、定められた範囲内を中立地帯とし、互いに兵を置かないことを約した。

 そのため、ホアラの支配者である[タリストン・]グブリエラは、関わりのある者として、和睦の約定書に裏書を求められた。


 しかし、この詔書を出すことに反対していた摂政[ジヴァ・デウアルト]が裏書を拒否したので、和睦の効力をみやこびとは疑った。

 だが、それよりも、この和睦の約定書について、みやこびとの口の端に上ったのは、摂政の影響力の陰りであった。

 反摂政派から出された詔書に関わる約定書に対して、裏書を拒否することで無実化することはできたが、そもそもの話として、詔書を出すことを止めるまでの力を、この時の摂政は持っていなかった。

 前の大公[ムゲリ・スラザーラ]だけでなく、その重臣たちも死に絶えたため、前の大公の威光で鳥籠[宮廷]を(ぎゅう)()って来た摂政の立場は、徐々に弱まっていたのだった。


 モウリシア[・カスト]がこの和睦を受け入れたのは、その順守を近北公に求めたのではなく、彼が約定を破った際に、非難する道具とするためであったろう。

 直接、話を聞いたわけではないが、今の大公[スザレ・マウロ]については、本心から、和睦を望んでいたのかもしれない。


 ただ、サレも含めたみやこびとの大半には、両州とも守るつもりのない和睦に映った。

 反摂政派としては、西南州と近北州の間に入ることで、存在感を示そうとしたのだろうが、ただただ、多くのみやこびとには、前の大公の威光により盛り返していた鳥籠の権威が、再び、弱まりつつある印象を与えただけであった。



※1 近北公[ハエルヌン・ブランクーレ]には別の考えがあったようで

 和睦を結んだところで、ハエルヌン・ブランクーレには、その約定に縛られるつもりがなかったのだろうと、サレは言いたかったのか。

 なお、ウベラ・ガスムンの進言と同様の文言を記した書状を、サレもハエルヌンに送っているが、その返信よりも先に、和睦を受諾する知らせが彼のもとへ届いたとのこと。

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