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四巻(五十九)

セカヴァンの戦い(六)

 新暦九八八年初冬[一月]。

 サレにとって良いことと言えば、セカヴァンの戦いの恩賞を巡って、青年[スザレ・マウロ]派のいくさびとの一部が、暴動を起こしたことぐらいであった。

 青年派はいくさに勝ちはしたが、他州の領地を奪ったわけでもないので、与える恩賞がなかった。

 それならば、西南州の金から出せればよかったのだが、それも無理な話であった。

 コイア・ノテの乱後の混乱から生じた、良識[トオドジエ・コルネイア]派と青年派の(かく)(ちく)が収まらず、薔薇園[執政府]の機能不全の状態が続く中、それに今の大公[マウロ]の悪政が重なり、西南州の財務状況はわるくなる一方であった(※1)。それに加えて、今度のいくさの戦費である。

 西南州の財務状況は、過去の悪政でも例を見ないほどに悪化していたが、大公は有効な手を打てないでいた。そのために、みやこびと、とくに豪商たちの間で、大公に対する反発が強まっていた。


 そこでサレは、公女[ハランシスク・スラザーラ]の名で、セカヴァンの戦いに参加した兵の中で、都に居を構えていた者たちに見舞い金を()()した。

 コステラ=デイラにおける、公女とサレの身の安全は、すべて、公女の権威次第であったので、サレは金を惜しまなかった。

 これによって、公女の名望は高まり、さらに、青年派はコステラ=デイラに手が出しづらくなった。

 それにくらべて、サレは、その頃増えていた貧民の、コステラ=デイラへの流入を断固拒絶し、毎日、関所で(りょく)()(とう)による暴力ざたが起きていても放置していたので、さらにその評判を落とした。


 恩賞に不満をもったいくさびとの中には、サレに認められて緑衣党に加わった者もいれば、お決まりのごとく、塩賊に身を落とす者もいた。

 結果、セカヴァンの戦いでともに近北州軍と戦った(ともがら)が、ふた月後に、「塩の道」で相まみえるという、何ともみっともない事例が生じた。


 薔薇園が戦勝に浮かれていたのに対して、ルンシ[・サルヴィ]は塩賊ながらなかなかたいした男であった。

 コステラ=デイラに攻め込んできてもよい頃合いだったのに、近北州の動静、青年派と近北公[ハエルヌン・ブランクーレ]の戦いがまだ終わっていないことを見越して、「塩の道」に賊を出没させるくらいで、静観を決め込んでいた(※2)。


 初冬の末に、増税の話が薔薇園内で、大公の口から出たといううわさを耳にしたサレは、先んじて、ロイズン・ムラエソを薔薇園へ(つか)わし、コステラ=デイラの増税に応じられる範囲について、説明させた。

 対応した薔薇園の高官はあわてて、増税はうわさに過ぎない(むね)の回答をよこしたが、この結果、うわさがさらに独り歩きし出して、大公とサレは、みやこびとの憎悪の対象となった。

 その中で、騎士や平民だけに負担をしいるわけにはいかないので、毎年、(とり)(かご)[(てん)()(きゅう)]の維持費用の名目で、薔薇園から出されていた(こう)(のう)(きん)の額を引き下げる、という発言を大公がしたらしいという尾ひれがついた(※3)。

 それを聞いたサレは、これまた先んじて、公女の名で、鳥籠に多額の金を納めた。

 これにより、サレは、青年派と鳥籠の間に、多少のひびを入れることに成功した。


 この月、近西州のライリエにて、今の大公を打倒するため、精力的に活動していた[トオドジエ・]コルネイアが、モウリシア[・ハラグ]の手の者と思われる刺客に、あやうく暗殺されそうになる事件が生じた。

 刀術においてはサレと従兄弟弟子の関係にあり、ロアナルデ・バアニの側近であった、オメルセン[・ヘレイル]どのに(かくま)われていながら、そのような事態におちいった原因は、コルネイアの女好きにあった。

 オメルセンどのから自重を求められていたのに、()(じょう)の知れぬ女を寝所に連れ込んだので、そのような大事になった。

 以後、モウリシアへの怒りのためか、趣味を奪われ暇になったためかは分からぬが、コルネイアは打倒大公に向けて、いっそう誰彼構わず、檄文を書き散らかして、日々を過ごした。ご苦労なことであった。



※1 西南州の財務状況はわるくなる一方であった

 「スザレ・マウロではなく、政務に明るいエレーニ・ゴレアーナが執政官であったら、たちまち西南州の財務を立て直し、その経済力をもって、七州を統一していただろう」と、ある史家が述べているが、言い得て妙である。

 少なくとも、執政府にひとりでも経済に明るい者がいれば、歴史は大きく変わったであろう。その者の献策をスザレが理解し、受け入れることができていたのならば。


※2 静観を決め込んでいた

 当時、塩賊内では、セカヴァンの戦い時における、ルンシ・サルヴィの判断を支持する者とそうでない者の間であつれきが生じており、ルンシは自身と対立する派閥の粛清に乗り出していたため、コステラ=デイラを攻める余力はなかった。

 当時のサレならば、その内情を知っていたはずなので、この文章は、彼の記憶ちがいによるものであろう。

 なお、ルンシは、この内部闘争を経て、塩賊内での地位を確固たるものにした。


※3 という発言を大公がしたらしいという尾ひれがついた

 増税と天鷺宮の経費削減。そのうわさの出どころについては、サレではないようだが、彼がうわさを広めるのに、陰で一役も二役も買って出た可能性はある。

 ただし、ある執政府の高官は日記で、「他人の家に火をつけて、それを鎮火して褒めてもらおうとするような行為」と、サレを断罪している。

青切です。


新たに評価してくださった方、この場でお礼申し上げます。

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