四巻(五十二)
ハランシク・スラザーラ(六)
鳥籠[天鷺宮]を後にした、公女[ハランシスク・スラザーラ]とサレは、そのまま、大橋の前に置かれていた、今の大公[スザレ・マウロ]の天幕に入り、和睦の件について話し合いをもった。
早急に話をまとめるために、出席は、良識[トオドジエ・コルネイア]派からはサレとゼヨジ・ボエヌ、青年[スザレ・マウロ]派からは大公とモウリシア[・カスト]と、四人に絞った。
サレは公女を先にコステラ=デイラに戻そうとしたが、彼女なりにサレの身を案じたのか、一緒に帰ると言って聞かないので、話がまとまるまで、別の場所に待機させた。
「当方としては、国主[ダイアネ五十五世]さまおよび公女さまから早急に和睦を結べと言われた以上、思うところがないわけでありませんが、それに従うほかはありません」
サレの言に対して、「こちらも同意見だ」と、抑揚なくモウリシアが答えた。
「こちらの和睦の条件ですが、第一は、公女がコステラ=デイラでお暮らしできるように、そちら側としても、最低限の配慮を示していただきたい」
サレの提示にモウリシアはひとつうなづき、「承知した」と応じた。
「第二は、南衛府監としての、わたくしの職権を尊重していただきたい」
「構わない」
「第三は、コステラ=デイラの外周の防壁についてですが、これを、わたくしが南衛府監に就く前の状況に戻すことを条件としたい。まず、四つの大門の周辺については、九月中に必ず、これを実施いたします。その他については、十月までに片付けます。合わせて、再度、防壁を増強する場合は、かならず、そちらの同意を得ることを約束いたします」
モウリシアが無言で大公を見ると、彼もまた無言でうなづいた。
「よかろう。その他の条件は?」
「ございません。そちら側になにかあれば教えていただきたい」
再度、大公と視線を合わせてから、モウリシアが「とくにない」と答えて、和睦はあっけなく結ばれた。
コステラ=デイラの防壁の破却が完了する十月まで、良識派はサレの家宰のポドレ・ハラグを、青年派はモウリシアがかわいがっていた実弟を、それぞれ人質として交換することとした。
サレがその場で、約定書を三通書き、サレと大公が花押を記し、ゼヨジとモウリシアが裏書した。
また、詔書に対する返書もサレが書き、約定書と同じく、花押と裏書を記した。
それらを四人が公女のもとへ持って行くと、公女は中身を確認せず、大公に対して、「大砲はもう鳴らないのだな」とたずねた。
それに対して、大公が、「南衛府監次第です」と答えると、サレに向かって、「気をつけろよ」と言いながら、四通に裏書をした。
鳥籠[宮廷]への返書と約定書の写し、それに添え状を加えて(※1)、今の大公に委ねると、公女を連れて、サレとゼヨジはコステラ=デイラに戻った。
※1 それに添え状を加えて
返書に加えて、約定書の写しと、添え状が二通つけられて、国主へ提出された。
添え状を出したのは、ハランシスク・スラザーラとスザレ・マウロ。ハランシスクの添え状については、サレが代筆した。




