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第八章・太平洋孤島遭難事件(六)

(六)奈落の底


「おーい! 誰かあ、聞こえてるかあ」

 洞窟の底から、落ちて来た開口部に向かって大声を張り上げている慎二。

「たすけてくれえ! ほんとに近くにいないのかあ」

 呼べど叫べど、上からの答えは返って来ない。

「これだけ大声を出してりゃ、小さな島だ、聞こえないはずないのに」

「いくら叫んでもだめよ。周りの壁が音を吸収しているのよ」

「そうか……ちくしょう。付近を探しまわっても出口はないし」

 拳で壁を叩く慎二。

「あせってもしようがないわよ。助けが来るまでじっと待っていましょう」

 と水際に腰を降ろす梓。その隣に座りながら、

「しかし、なんでこんな小さな島に洞窟があるんだ」

 慎二がつぶやく。

「馬鹿ねえ。ここは環礁島よ。足元はもちろんの事、付近一帯は珊瑚礁なの。実際の地面はとうに海面下に水没して、その上に発達した造礁瑚礁や石灰藻類さらには貝殻や有孔虫類の殻とかで形成された上に、あたし達は立っていたというわけ。あの砂浜も実情は珊瑚の小さなかけらが堆積したもの。沖縄に星砂というのがあるがあれと同じよ。造礁珊瑚は海面より上には繁殖できないんだけど、こうして海の上にまで発達しているのは、氷河時代の海面下降とか、地殻変動で地盤の上昇と下降の繰り返しがあった名残だと言われているわ」

「で、それと洞窟とどんな関係があるんだ」

「珊瑚の主成分は何だか知ってる?」

「知らん」

「勉強不足ね。大部分が炭酸カルシウムと炭酸マグネシウムよ」

「そうなんだ」

「これはね、酸に溶けるのよ。雨が降ると空気中の二酸化炭素を溶かし込んで酸性になるから、それが珊瑚を溶かしていってこのような洞窟を造ったというわけ。山口県にある秋吉台秋芳洞のことぐらいは知ってるでしょ」

「ああ、地面の下にぽこぽこ穴が開いてるところだろ。ええと、鍾乳洞ってやつ」

「そうよ。鍾乳洞の正体は、雨水が空気中の二酸化炭素を溶かし込んで、石灰岩の地質を溶解してできたのよ」

「理科だか社会で、習ったな。石灰岩に塩酸をかけたら、水素が発生して溶けちゃうってやつ」

「そして石灰岩は、元々が珊瑚からできているというわけ」

「珊瑚から?」

「知ってる? 日本で産出する石灰岩の一部は、この島のような太平洋上にある珊瑚礁がマントル対流によって運ばれてきたのよ。海溝付近でマントルは地中に再び地下深く沈んでいくけど、比重の軽い珊瑚は日本本土に乗り上がる。そして現在の日本の石灰岩地層が出来上がっていったの」

「へえ、知らなかったよ」

「日本で唯一、戦前からもなお百パーセントの自国生産率を持つ鉱物資源で、世界最高品質水準のセメント工業立国として発展できたのも、環太平洋の珊瑚礁群のおかげというわけね」

「ふうん……」

「国家を興すには、その基幹産業としての鉄とセメントは不可欠。国中を縦横に走る道路網・電源確保のためのダム工事・都市開発には超高層ビルディング。第二次世界大戦後の国土の荒廃を逸早く復興できたのも、セメント工業という切り札があったからで、輸入を一切行わずすべて国産品だけで賄えたわ」

「それで……」

「とまあセメント自体は今後も供給の心配はないんだけど、その他に必要不可欠な骨材の問題が残されたの」

「骨材?」

「セメントに混ぜる砂や砂利のことよ。現在では、国内各河川からの砂はほとんど取りつくしてしまったわ。しかたなく、海底から採取した海砂利をしようするようになったんだけど、塩分の除去が満足にできなくて、その塩分によるコンクリートの早期ひび割れや鉄筋の破断という塩害の被害が深刻になってきているの」

「ほう……」

「……。おまえなあ、人の話しを聞いていないだろう」

 いきなりいきり立つ梓。

「だってよお……この状況下で、話す内容か?」

 といいながら、洞窟内を見回すようにする慎二。

「どっちかあつうと……脱出方法とか、外の連中が何してるかとか……そういった内容の話しをするべきじゃないのか?」

「ふん……喋ることで気を紛らしていたんだよ。先に調べたように脱出口はどこにも見当たらないし、連絡を取ろうにも携帯電話は水着になる時に麗香さんに預けたままだ。そんな気になってもしかたないだろ」

「そうか、梓ちゃんもやっぱり女の子なんだな。そういえば、喋り方も女の子っぽかったな」

「人のことなんだと思ってたんだ」

 とぺちんと軽く慎二の頬を平手打ちする梓。喋り方はいつもの慎二に対するものに戻っている。

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