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第八章・太平洋孤島遭難事件(五)

(五)孤島にて


 機体を仰ぎながら心配顔の絵利香。

 その側に寄り添っている梓。

「おーい。梓ちゃん、一緒に泳ごうよお」

 海水中に水着姿で入り、梓を呼んでいる慎二がいる。

「おまーなあ。死に直面している人がいるっているのに、よくもまあぬけぬけとしていられるなあ。しかも自分のせいでこんな状況になっているというのが、まだ判らないのか」

「そうは、言ってもなあ。俺達には、何もできないじゃないか。だったら気分転換に泳ぐのもいいんじゃないか。それに梓ちゃんだって水着じゃないか」

「しようがないでしょ。暑いんだから、水着にでもなってないとたまらん」

「ふうん……しかし……」

 梓の水着姿に戸惑い気味の慎二。

「おい。いつまでじろじろ見てんだよ」

「あ、いやその、つい……」

「ちぇっ。脳天気な奴。絵利香ちゃん、ちょっと周囲を見回ってくるよ」

 と言い残して、島の中程の茂みの方へ歩いていく梓。

「おーい。ちょっと待ってくれよ」

 梓の後を追い掛けていく慎二。


 島の中程のところを、すたすたと早足で歩く梓と、その後を追い掛ける慎二。

「おい。待ってくれよ」

「ついて来ないでよ」

「なに、怒ってるんだ」

「しつこいわね!」

 と慎二の手を振り払った時だった。

「きゃあ!」

 梓の足元の地面が突然に崩れたのだ。

「梓ちゃん!」

 慎二が手を差し伸べて梓の手を掴もうとする。しかし、地面はさらに大きく崩れ、二人とも真逆さまに墜落していったのである。


『ともかく胸の傷口を塞がねば、細菌感染を引き起こすし、肺の虚脱も完全に防げない。取り敢えずは傷口を仮縫合しておく。ここでは肋膜や骨折の治療ができんのでな。骨の折れ口にはガーゼを厚く巻いて肺を傷つけないようにしておく。迎えの船の手術室でちゃんと処置してから本縫合することになる。場合によっては、傷口が大きいから大腿か臀部の皮膚を少し移植するかも知れないな。現状では、深呼吸など出来ないだろうから縫合だけでいいだろう』

『移植ですか……』

『ドクターにもよるよ。縫合だけだと、完治するまでは皮膚が突っ張って痛むから、俺だったら移植して楽に呼吸ができるようにするね。他の部位と違って、寝ている間も呼吸しなきゃならんからな。痛みがあったら眠れないだろう』

『そうですね』

『美智子君。針と持針器、それと三号絹糸を頼む』

『かしこまりました』

 美智子は、再び手術キットから、要望された器材を取り出し、トレーに乗せて軍医に手渡した。

 傷口を手早く縫合しながら、

『機長。運が良いのか悪いのか判らんが、悪運だけは強いみたいだな』

『まあね、いろんな奴から言われてるよ』

『よし、完了したぞ。できる限りの応急手術はやった。後はすでに組織に入り込んだ細菌の繁殖がひどくならんように祈るんだな。ここは無菌室ではないからこれだけは俺にはどうしようもない』

『軍医殿、お手数かけました』

『こんな傷、実際の戦場に行けばかすり傷みたいなもんだが、取り敢えずはそばで観察しているよ』

『それでは私は、お嬢さまに報告してきます』

『よろしくお願いします』


 麗香が飛行機を降りてくると、早速絵利香が駆け寄ってくる。

「麗香さん。機長の容体は?」

「はい。命には別状はありません」

「よかった……」

 ほっと安堵のため息をつく絵利香。

「ところで梓お嬢さまは、どちらに?」

「それが、島を探索するとかいって、慎二君と一緒に奥の方に行ったきり戻ってこないのよ」

「本当ですか? それはどれくらい前ですか」

「もうかれこれ一時間くらい経つかしら」

「まずいですね」

「慎二君と一緒だから?」

「そうではありません。この島の地形のことを言っています」

「地形?」

「一帯は石灰質の珊瑚礁です。おそらくあちらこちらに風穴が開いている可能性があります」

「いわゆる鍾乳洞みたいに?」

「はい。地上から見ただけでは、下の状況は判りません。地盤の薄くなった所を踏み抜いてしまったら、奈落の底に落ちてしまいます」

「みんなで探しましょうか?」

「それは考えものです。どこに風穴があり地盤の薄いところがあるのか判りません。二重遭難の危険がありますので、もうしばらく様子をみましょう。あるいは野暮なことをしてしまう場合だってありますから」

「そうね、いい雰囲気になって、時間の経つのも忘れているってこともあるのね」

「取り敢えずお二人の捜索は、船が迎えに来るのを待ってから行動に移りましょう」

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