第二十六章:覚醒。一時的に『設定6』を超える『設定H』へ
ギギギギ……と音を立てて、デス・スロットの前面扉が大きく開いた。
内部には、不気味に明滅する魔力の基盤と、設定を1から6まで切り替えるためのダイヤルスイッチが存在していた。
「よし、これで設定6に……って、なんだこれ!?」
俺の顔が引き攣る。
ダイヤル部分がジャックのドロドロとした闇の魔力によって溶かされており、『1〜6』の数字が完全に潰されていた。
「ハハハ! 無駄だと言ったろう! その台は私の命、そしてベガスロの街の全住人の魂と直結している! 正規の設定数値など、もはや受け付けんのだよ!」
ジャックが狂ったように笑いながら、右手を掲げる。
その手の中に、一撃で俺たちを肉片に変えるほどの巨大な暗黒の魔力球が形成されていく。
「くそっ、ダイヤルが回らねぇ……! ここまで来て、設定を変えられねぇのか!?」
万事休す。設定6の加護すら呼べないこの状況で、ジャックの直撃を受ければ一瞬でミンチだ。
その時、エルの小さな手が、俺の手の上から設定基盤へと重ねられた。
「……巡、私の『設定L』を使って」
「エル!?」
「私の設定Lは、全ての正規システムを否定するバグの塊。
これを、ジャックの『設定マイナス』の魔力にぶつける。
マイナス(負)と、L(最低)が掛け合わされば……確率は反転して、バグの特異点が生まれる」
エルの身体から、下パネル消灯を意味するどんよりとした漆黒の無オーラが噴き出し、設定キーを通じて基盤へと流れ込む。
ジャックの闇の魔力と、エルのバグ魔力が混ざり合い、基盤がバリバリと激しい紫と黒の雷を放ち始めた。
『システム警告:異常な設定変更を感知。エラーコード:H-INFINITY』
『設定ダイヤルが限界を突破します。1、2、3、4、5、6……──【H】』
液晶画面に、血のような文字で『H』のアルファベットが浮かび上がった。
「せ、設定……Hだと!?」
パチスロの歴史において、極めて一握りの狂った機種にのみ搭載されていた伝説の裏設定。
設定6すら遥かに凌駕し、小役確率が「ほぼ100%」に跳ね上がる、試験用にして禁忌の領域。
『設定変更完了:設定H。世界の理(確率)を再構築します』
ドゴォォォォォォォォンッ!!!!!
その瞬間、俺の全身から、これまでの虹色とは一線を画す、圧倒的な『プラチナゴールド』の光柱が天空を貫いて爆発した。
ジャックが放った暗黒の魔力球が、俺から溢れ出る光のプレッシャーだけで、触れることもできずに霧散していく。
「な、何だこの光は……!? 設定6の輝きではない……私の魔力が、ベガスロの街のハウスルールが、上書きされていく……!?」
ジャックが初めて、恐怖に顔を戦慄かせ、数歩後ずさりした。
「ハァ……ハァ……すごい、勇者様から、神様以上の力が溢れています……!」
アリアちゃんが、光に包まれながら恍惚とした表情で俺を見つめる。
衣服はボロボロのままだが、その傷は一瞬で全回復していた。
「ジャック……テメェのボッタクリ営業も、これで本当に終わりだ」
俺はプラチナゴールドに輝く聖剣を構え、不敵に笑った。
「設定6が神の領域なら、この設定Hは『システムそのものを破壊するバグの世界』だ。
さあ、1ゲーム1確の処刑タイムを始めようじゃねえか、店長さんよぉ!!」




