98:拓海には私以外のことを考えさせない
「拓海になら話したいと思う気持ちは山々なのだが……。クレメンスの名誉にも関わることだからな。すまぬが私の口からは言えぬ」
名誉に関わる……?
もしかして身分違い、もしくは純血種ではない相手ということなのか……?
純血種ではない……という意味だと、俺もそうなんだけど……。
改めて思う。
……ロードクロサイトは、よく認めてくれたよな。
いや、あれはベリルが本当にガッチリ外堀を埋めてしまい、さすがのロードクロサイトも、もうどうにもできないという感じだった。
「拓海」
「‼ べ、ベリル⁉」
気づくとベリルは、すぐそばに来ている。
どれぐらい近いかというと……。
「何を考えていたのだ? 私といるというのに、上の空とは許しがたいな」
甘い吐息が、耳にかかるぐらいの近さだ。
「……! ベリル⁉」
いきなり俺は、ソファに押し倒される。
しかもあっという間にシャツのボタンをはずされ、左肩から胸は、むき出しになってしまった。
「まさかベリル、ここで吸血するつもりか⁉」
「拓海に、私以外のことを考えさせないためにな」
「⁉ 俺はベリルのことしか」
待ったなしで吸血され、激痛と快感が同時に全身を駆け抜ける。
必死に快感を抑えこむ。
「ベ、ベリル、俺はベリルのことしか考えてないよ」
「本当に?」
ベリルの声が、耳をくすぐる。
さらに。
ベリルは今日のドレスを着るために、コルセットをつけていた。だからいつも以上にバストの谷間が深く、それがすぐ目の前に見えている……。
今にもポロリとこぼれ落ちそうだ。
ものすごい誘惑……。
耳に届くベリルの声。視覚がとらえる豊かな谷間。魔力による強い快感。
この嬉しすぎる三つ巴の状況に、頬が緩んだその時。
「ベリルお嬢様」
アレンの声に、心臓が飛び出しそうだった。
快感のコントロールも危うくなる。
だが。
ベリルは動じることなく、ゆっくり上半身を起した。
「なんだ?」
「ホットアップルパイをお持ちしました」
「そうか。ではそこに置いてくれ」
慌てて快感を抑え込み、シャツを掴むと、露出している肩と胸を隠そうしたのだが……。
ベリルは俺の手首をいとも簡単に押さえ込む。
そのうえで、普通にアレンと話していた。






