97:騎士らしくなったな、拓海
瞳と同じルビー色のドレス、同色のつば広の帽子という、目にも鮮やかな装いで、ベリルはハンベルグと馬を並走し、森へ向かった。
敷地内の森なので、きちんと手入れがされており、馬を走らせるのも楽だ。
森の中を進むと、まるで小型のサーカスのようなテントが見えてきた。テントは二つあり、どうやらここで休憩をするようだ。
よく利用される場所だからだろうか。ちゃんと馬の水飲み場も用意され、先客の馬も2頭いる。
ベリルとハンベルグは、奥の大きめのテントに入っていった。
キャノス、ハンベルグの第一騎士のイザーク、そして俺は馬に水を飲ませ、手前の小さなテントに向かう。
テントの正面の布は、くるくると巻き上げられ、上の方で留められている。中にはいり、椅子に座ると……。正面遥か先に広がる、美しい紫色のラベンダー畑が見えた。
テーブルには飲み物とフルーツが用意されている。
ティーポットを手に、キャノスとイザークのカップに紅茶を注いだ。
するそこにハンベルグとカレンがやってきた。
なんだ、先客の馬は、カレンだったのか。ということはアレンもいるのか。
「拓海、ベリルの相手を頼む」
「⁉」
「俺はこっちで休憩させてもらうよ。デートしていたなんてバレたら、ベッティーナに叱られるからな」
「ハンベルグ様……」
チラッとイザークを見た。
イザークは何も見ていません、聞いていません、という顔で、俺がいれた紅茶を飲んでいる。
「ベリル様を待たせてはいけないですよ、拓海」
キャノスにも促され、立ち上がる。
ハンベルグはすれ違う時、肩をポンと叩いた。
「お前を選ぶとはな。流石だと思った。幸せになれよ、拓海」
「ありがとうございます、ハンベルグ様」
深く一礼し、ベリルのいるテントへ向かった。
ベリルのいるテントも、俺がいたテントと同じように、正面の布が巻き上げられている。
テントの中には、ベリルとアレンがいて、俺に気づくとベリルの頬が緩む。その微笑を見ただけで、恋する乙女のように、胸がキュンとする。
ベリルの隣に腰を下ろすと、アレンが目の前のティーカップに紅茶を注ぎ、すぐにテントから出て行った。
「美しい景色だろう」
ローソファに腰掛けたベリルが、ラベンダーを畑の方に顔を向けたまま、声をかける。
「うん。ラベンダー畑に行った時は、その香りを感じられ、それはそれでよかった。でもこの距離から眺めると……。まるで絵画を見ているようだ。ゆったりと何時間でも、眺めていられそうだよ」
「それは私とここに何時間でもいたい、ということか?」
ベリルがルビー色の瞳を細め、こちらを見る。
「そうすることが許されるなら。ずっとベリル様とここで、この景色を眺めたいですね」
ベリルの手を取り、その甲にキスをした。
「騎士らしくなったな、拓海」
ベリルは開いていた扇を、ゆっくり閉じる。
「ハンベルグはこの席を俺に譲ってくれたし、ベリルと俺のことも知っていた。第一騎士のイザークも知っているようだった。……もしかしてクレメンスも、ベリルと俺のことを知っているのか?」
「そうだな。その辺りを拓海に話していなかったな」
ベリルがガラスに入ったベリー色の飲み物を、口に運んだ。
「私と拓海のことは、ヴァイオレット達三騎士、スピネル、アレンとカレン、ハンベルグとイザーク、クレメンスとその第一騎士のオスカー、そして父上が知っている」
「なるほど。分かった。……ハンベルグとクレメンスは、お互いの手の内を明かして盟友となった、そんな感じなのか?」
「そうだな」
「……クレメンスの想い人って……」
「気になるか?」
「気になるよ」
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