58:妙な連帯感
別荘に戻るとすぐに夜会だった。
ベリルは短時間で身支度を整え、艶やかなドレス姿で登場した。
後ろ姿は裾のフリルが華やかな真紅のサテン生地のドレスだが、正面に回ると、丁度ウエストから両足を開いたぐらいの幅の部分が黒生地の段々フリルになっている。前後で印象がガラリと変わるドレスで、ダンスの時にそのデザインがよく映えた。
髪は昨晩と違い綺麗にまとめられており、シルバーの髪飾りが美しく煌めいている。
昨日とは雰囲気が異なるベリルのドレス姿に、婚約者候補達はまたも目が釘付けになっていた。
夜会がスタートすると、昨晩同様、婚約者候補はベリルの元に向かい、俺達はその様子を眺めることになった。婚約者候補たちの動きはだいたい昨日と同じだったので、俺は別に気になっていること、すなわちシディアン、ハンベルグ、カイたちとベリルのグループデートがどんな感じだったのか、護衛についていたヴァイオレットに尋ねた。
ヴァイオレットは「あれはやり過ぎだったと思う」とため息をついた後、その様子を簡潔に教えてくれた。
四人は敷地内にある湖を遊覧することになったが、突然巨大魚が現れたり、湖のそばの木が倒れてきたり、水鳥に襲われそうになったりと、やはりこちらもあり得ないようなハプニングに襲われていた。
その度にシディアンとカイが魔術で対応し、ハンベルグはベリルにしゃがむように指示したり、あっちへ走れと叫んだりで、本当に大変だったという。
ただ、不思議なことにハプニングを経験したシディアン、ハンベルグ、カイの間に妙な連帯感ができあがっていた。その結果、何かとこの三人でつるむようになったのだという。
そう言われて目をやると、シディアンがベリルを誘い、ソファに座ると、そのそばにカイとハンベルグがやってきて、気づくと四人で話している。
ヴァイオレットが言う通りだった。
一方のレオはやたらとベリルとダンスをしたがり、エクリュはなかなかベリルと話すことができず、気を使ったベリルから話しかけられるという状態だ。クレメンスは初日と変わらず、ソファで一人どーんと構えていた。
「あ! 拓海様」
俺はアンナに掴まり、30分ぐらいアンナがいかに俺を好きであるかを聞かされ続けた。
ヒヤシンスブルーのイブニングドレス姿のアンナは可愛かったし、俺への気持ちを熱心にアピールしている。
以前の俺だったら、イチコロだっただろうに……。
騎士の訓練をする中で、騎士道が謳う誇り高き精神を学んでしまった。それにアレンからも釘を刺されている。さらに俺の中のよく分からない何かが、アンナではないと俺にストップをかけていた。
つまり、いくらアンナに迫られようと、俺の心は動かなかった。
「拓海、明日の予定について話していいですか?」
キャノスのおかげでアンナから解放された。
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