59:お似合いの二人
「明日、ベリル様は午前中シディアンと、午後はカイとそれぞれ映画館デートをするそうです。映画館と言っても、この別荘にあるシアタールームを使うから、護衛は不要とのことでした」
「じゃあ、俺たちは一日フリーなのか?」
「と思ったら、拓海は午前中、仕掛け人をやって欲しいそうです」
「仕掛け人……?」
「ベリル様とシディアンが観るのはホラー映画。その映画の上映にあわせ、ちょっとした恐怖演出をして欲しいそうです」
「……つまり、ハプニングの仕掛け人ということか」
「そういうことです。ちなみに午後のカイとのデートの仕掛け人は、バーミリオンですね」
「なるほど」
「拓海は午後がフリーになるので、午後からボクシングの練習をやりませんか?」
「そうだな。本当は剣術や乗馬もやりたいのだけど……」
「休暇中なのに拓海は真面目ですね」
「まあ、俺はキャノスなんかより出遅れているから……」
「気持ちは分かります。私の方で乗馬の練習ができないか確認しておきますよ。馬がいることは分かっていますからね」
「ありがとう、キャノス」
気づけば夜会も終盤に差し掛かっている。
するとクレメンスが動いた。
ミッドナイトブルーのスーツでビシッと決めたクレメンスは、エクリュと話を終えたベリルをダンスに誘った。二人がダンスを始めると……。
空気が変わった。
演奏が始まると同時に、音楽が奏でる世界を二人が具現化していた。
音色の一つ一つが紡ぐ物語を、二人がダンスで演じて見せている。
ヴァンパイアの音楽なんて俺はもちろん知らなかったが、それでも分かった。
これは男女の出会いの喜びを奏でた曲なのだと。
クレメンスとベリルの表情、ダンスのステップ、全体の動き。
そこから溢れるような想いが伝わってきている。
誰もが今していたことをやめ、二人の姿を目で追った。
まさに王子と姫君による恋のダンス。
初々しい恋が生まれた瞬間を表現したダンスに、目が釘付けになった。
今、ダンスを踊るベリルは、クレメンスのことしか見ていない。
クレメンスもまた、ベリルのことしか見ていなかった。
二人だけの時間が確かに流れている。
そこに立ち入る隙など見いだせなかった。
誰にも邪魔できない二人だけの世界……。
明るい音楽で、ダンスも軽快なステップが多いのに、俺の気持ちはなぜか沈んでいった。
レオと踊るベリルを見ていても、こんな気持ちにはならなかったのに……。
最後、見事にポーズを決め、ダンスが終わると、一斉に拍手が起きる。
俺も慌てて拍手を送った。







