57:完璧なクレメンス
午後になり、ベリルはまず、シディアン、ハンベルグ、カイとグループデートへ行くことになった。護衛につくのはヴァイオレットだ。
俺とキャノスは、この後のレオ、エクリュ、クレメンスのグループデートの護衛につくことになっている。まだ時間があったので、トレーニングルームで体を動かすことにした。
トレーニングルームには、ボクシングの練習に必要な道具が全て揃っている。
キャノスが魔法で出してくれたのだ。
元々トレーニングルームは、雨の日に使う剣術のための練習部屋だった。だから物はほとんどなかった。キャノスはどうせ魔法だし、最後は消すからと、ついにリングまで用意した。
すると暇を持て余した騎士たちが集まり……トレーニングルームはいつの間にかボクシングジムに変化していた。
こうしてボクシングの練習をみんなで行い、いよいよ俺とキャノスが護衛の任に就く時間になった。
ベリルはレオ、エクリュ、クレメンスを連れ、別荘の敷地にあるラベンダー畑に向かうらしい。
ラベンダー畑に行くということで、ベリルはラベンダー色のシュミーズ・ドレスに着替えていた。ポニーテールのリボンも、ラベンダー色に変わっている。
四人はラベンダー畑に続く道を、仲良く並んで歩いていた。
ベリルの右隣にレオ、左隣にエクリュとクレメンス。
何事もなく、四人は歩いていたのだが、突然ベリルが座り込んだ。
どうしたんだ、ベリル⁉
駆け寄ろうとする俺を、キャノスが止めた。
「多分、意図的だと思います」
ベリルの三騎士であるキャノスが動かないので、レオ、エクリュ、クレメンスのそれぞれの三騎士も、動かずその場で待機した。
一方、ベリルの方を見ると、レオがベリルをお姫様抱っこし、エクリュが魔術でベリルの足を冷やしている。どうやら足を痛めた、ということらしい。
するとそこに……。
「すみませーん! 突然、逃げ出してしまったんです!」
女性の叫び声がして、前方から馬の群れが物凄い勢いで迫ってきた。
ベリルはらしくない悲鳴を上げ、なぜかレオの顔を隠すように腕を伸ばす。
明らかに仕掛けられたハプニングだった。
「ベリル嬢、落ち着いてください」
レオの声が聞こえ、エクリュは驚いてその場で腰を抜かしている。
「Uplift the earth.(大地よ、隆起せよ)」
落ち着いた声で、クレメンスが魔術を唱えた。すると四人がいる場所の地面が、突然隆起する。
馬は驚き、Uターンして元来た道を戻っていく。ここでもやはり、クレメンスの対応は見事だった。
ラベンダー畑につく頃には、ベリルの足もよくなったようで、自身の足で歩いている。
だが、ハプニングの演出は終わっていない。
突然スプリンクラーが作動して水やりが始まったり、蜂の群れが襲い掛かったり、デートどころではない状況が続いた。
作動したスプリンクラーの水はエクリュが凍らせて止め、蜂の大群はレオが咲かせた巨大なヒマワリに吸い寄せられ、事なきを得た。
スプリンクラーが作動した時、ベリルが濡れないように庇ったのはクレメンス。蜂の大群からベリルとエクリュを守るため、魔術で風を起こしたのも、クレメンスだった。
それぞれが活躍を見せたが、同じ候補者まで助けようとしたクレメンスは、やはり頭一つ分抜けていた。
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次回更新タイトルは
『妙な連帯感』
『お似合いの二人』
『どうにもこうにも気持ちが溢れ……』です。
それでは今日もお仕事、勉強、頑張りましょう。
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