55:ベリル、結構攻めるな……
12時前に集合がかかり、プールサイドに向かうと、そこにはバーベキューセットがいくつも用意されていた。この世界でも焼肉の文化が存在しているようだ。
カレンの案内で、キャノス、スピネル、俺は、ベリルと婚約者候補6人にほど近いバーベキューコンロに通された。そこには既にヴァイオレットとバーミリオンもいて、肉と野菜を焼くための準備を進めてくれている。
今日のベリルはバーベキューということで、赤いオフショルダーのトップスにジーンズをあわせていた。長い髪はポニーテールで、昨日の大人の女性から一転、初々しい学生のような姿だ。
次々と会場となっているプールサイドに騎士たちが集まり、賑わってきた。その様子を見たベリルが乾杯の声をかけ、バーベキューがスタートした。
今日の婚約者候補達は、ベリルの服装にあわせたかのように、全員がラフな装いをしている。
ベリルと6人の婚約者候補は何やら話していたが、シディアン、ハンベルグ、カイが肉を焼く係になったようだ。
シディアンとハンベルグが、開いているスペースにどんどん肉や野菜をおいて行くのに対し、カイは焼き加減、火力、投入する食材の順番まで細かく気を配っている。
三人が肉を焼いている間、レオとエクリュはベリルを取り囲み、会話しながらバーベキューを楽しんでいた。クレメンスは、この三人から少し離れたビーチチェアに腰をおろし、ゆったり食事をしている。
すると……。
「シディアン、ハンベルグ、カイ、まだほとんど食べていないだろう。私が肉を焼こう」
その申し出をシディアンとハンベルグは快諾し、ベリルに場所を譲る。
カイは「この網の肉は、最後まで責任を持たせてください」と申し出て、二人は並んで肉を焼き始めた。
ベリルは休みの日に料理をすると言っていた。
だからきっといい塩梅で肉を焼くのかと思ったら……。
次々と墨のような肉の山を築いた。
挙句、それを嬉しそうに婚約者候補に配りだした。
「いよいよ本性を暴くイベントがスタートね」
キャロットオレンジ色のサマーワンピース姿のスピネルが、囁いた。
「私が焼いた肉だ。ぜひ味わってくれ」
最初に墨のように焦げた肉を皿にのせられたのは、サマーグリーンのシャツにベージュのパンツ姿のレオだった。
「ベリル嬢自らが焼いてくれた肉か。光栄だ」
レオは真っ黒な肉の塊を口にいれ、噛まずにそのまま飲み込んだ。
次は、黒いシャツに白いズボン姿のシディアンだった。
「ベリル様、ありがとうございます」
シディアンは表情一つ変えることなく、墨のような肉を咀嚼して飲み込んだ。
ベリルは笑顔で尋ねる。
「美味しいですか?」と。
対するシディアンは……。
「そうですね。肉の味よりタレの味を堪能してしまいました」
そう答えた。
「ではもういくつかどうぞ」
ベリルが追加で5枚の焼け焦げた肉を、シディアンの皿にのせる。
……ベリル、結構攻めるな……。
だが。
シディアンは5枚の焼け焦げた肉を、これまた表情を変えることなく食べきった。
が。
ベリルがさらに追加で肉をのせようとすると……。
「ベリル様、すみません。少々お手洗いに」
そう言ってその場を逃れた。
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