49:気になる婚約者候補たち
夜会の時間となり、キャノスと共に会場に向かった。
キャノスはアフタヌーンティーで見た時と同じ、サマーシャワー色の薄手の半袖シャツに、濃紺の麻のジャケットとセンタープレスされたズボン姿だった。ちなみに最近キャノスは俺の真似をして、革靴をはいていた。普段はブーツをはいているキャノスだが、革靴の歩きやすさが気に入ったらしい。
会場につくと、すでに6人の婚約者候補が到着していた。籐で出来た横長のソファに並んで座り、寛いでいる。
奥の会場には、トレーニングルームで顔を合わせた騎士の姿が沢山見えた。
そこにスピネルの姿もあった。
昼間と同じホルダーネックの黒のロングワンピース姿だったが、髪にはきらびやかな髪飾り、耳元には大ぶりの宝石のピアス、左手には蛇が巻き付いたようなデザインの黄金のブレスレットをつけており、ゴージャスさがプラスされている。
スピネルは騎士たちと楽しそうに会話をしていたが、俺とキャノスに気づくと、こちらへ向かって歩いてきた。
「せっかくイケメンの騎士達とハーレム状態だったのに」
俺がツッコむと、スピネルは妖艶な笑みを浮かべた。
「あら、大丈夫よ。だって私、騎士より姫派だから」
「⁉」
俺が目を剥くと、スピネルは大爆笑した。
キャノスを見たが「やれ、やれ」と肩をすくめるだけで、真相を教えてくれない。
「ねえ、拓海くんはあそこにいる見目麗しい王子様方のこと、把握している?」
スピネルがニヤニヤしたまま俺を見た。
「一応、履歴書的な情報はインプットしましたけど……」
「じゃあ、履歴書にはない情報をいろいろ教えてあげるわね」
スピネルが説明を始めた。
「まずはあの水色のサラサラの髪の、一番のイケメン」
「クラウド家の次男、クレメンスですよね。別荘に到着した時、少しだけ話しました」
昼間会った時、クレメンスは海パンにパーカーというラフな服装をしていた。でも今はサファイアブルーのスーツの上下で、ビシッと決まっていた。
「そう。クレメンスと話したのね。彼は声もいいでしょう」
俺は頷いた。深みと甘みのある落ち着いた声をしていた。
「クラウド家はイケメン家系で、現当主のグレイスも相当イイ男よ。長男のハインツもかなりのイケメンで、国中の妙齢な女子が、結婚の申し込みをしたという噂もあったぐらいなのよ。だからハインツは早々に婚約者が決まってしまった。
一方のクレメンスは、父親が持ってくる縁談話を、のらりくらりとかわしてここまできているのよね。だから三男の方が先に結婚しちゃったのよ。巷の噂では、自分の美貌と同等の美しさと、聡明さを持たない女性しか愛せないと豪語しているとか。
頭の良さでいうと、ブラッド国の最高学府であるフーツ国立大学を首席で卒業した秀才よ。魔力も強いし。確かにこの国でクレメンスと釣り合う女性は……ベリル様しかいないわね」
「そんなにすごいのに、なんでブノワが選ばれたんですか?」
「それはブルーノ家が、政治的に動くのが上手だったから。先手を打って、ベリル様の婚約者の座を奪った感じね」
「なるほど……」
「クレメンスの隣にいるのが、ピスタチオ家の双子の兄弟・カイとレオよ。アンティークグリーンのスーツの上下が兄のカイ。ウォーターグリーンのスーツの上下が弟のレオよ」
カイは天鵞絨色の短髪で、瞳の色はエメラルドグリーンで眼鏡をかけていた。鼻が高く、知的な雰囲気の一重の目をしている。細身で背が高く、学者のように見えた。
一方のレオは、髪の色はライムグリーンで長髪だった。くっきり二重で瞳の色はカイと同じ、そして堀の深い顔立ちをしている。さらによく鍛えられた体をしていた。
「全然似ていないのは、二卵性双生児だからよ。ピスタチオ家は子沢山の家系で、男子が四人、女子が三人、合計七人も子供がいるの。カイはフーツ国立大学の研究職で、レオはサッカーの選手よ。父親は花嫁探しをしていて、ブノワの一件があった時から、いの一番でロードクロサイト様に連絡してきたの。
カイはかなりの堅物なんだけど、実はベリル様に憧れていたらしいのよ。クラスは違ったけど、同学年だったのね。レオはモテモテなんだけど、とにかくサッカー一筋でここまできてしまった、って感じで実は恋愛に疎い。性格としては好きなことには一直線だから、ベリル様のことも気に入ったら、猪突猛進でアタックしてきそうなタイプね」
「兄弟で、一人の女性を奪い合うことになるかもしれないんですよね?」
「そうね。もしそうなったらどんな状態になるのか、少し楽しみかも……」
スピネルが唇をペロッと舐めた。
「スピネル、私たちが願うのはベリル様の幸せですよ」
キャノスに釘を刺され、スピネルは首をすくめ、話を再開した。
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