39:拓海とのこの時間は誰にも邪魔させない
知らなかった。
飛べるなんて。
翼があるなんて。
でもそうだよな。
俺が知っている映画のヴァンパイアも、マントで空を飛んでいた。
そして現実のヴァンパイアには、美しい黒い翼があった。
「ベリル!」
「拓海」
ベリルは落下する俺の体を、しっかりと受け止めた。
「怪我はないか、拓海?」
「大丈夫だ。ベリルこそ、魔力封印されたのに、どうやって……?」
「魔力を封じられ、身動きが一瞬とれなくなったが、次第に動けるようになった。それに拓海はさらわれてしまったが、船にはお前の剣が残されていたからな」
「ツヴィークのことか?」
「そうだ。ツヴィークの力について、私が話したことを覚えているか?」
ハッとして俺はベリルを見た。
「ツヴィークには、かけられた魔術を解除する力がある……!」
「そうだ」
その時だった。
上空より魔術の塊が降ってきた。
だが。
不死鳥が現れ、嘴からとんでもない火力の炎が放出された。
同時にベリルは防御魔術を展開した。
炎にのまれた魔術の塊は砕け、魔法使いのゼテクは「ひぃぃぃ、絨毯が燃える!」と叫んだ。
「戻ろう」
ベリルは俺を抱きしめたまま帆船に戻った。
船に戻ると俺は大切な剣を鞘に納めた。
ベリルは帰還魔術を使い、不死鳥を元に戻した。
「拓海、いいか?」
ベリルのルビー色の瞳が、艶やかに光った。
「えっと」
俺の血を求めていると分かったが、艶めいた瞳にドキドキしてしまい、俺がもじもじしていると……。
ベリルは素早く駆け寄り、俺の黒のフロックコートを脱がせ、ネクタイをほどき、シャツのボタンをはずした。そして何やら呪文を唱え、シャツを肩まで脱がせると、甲板に横たえた。
甲板はまるで床暖房のように、ポカポカになっていた。
ベリルは俺の首元に顔を近づけた。
すぐに吸血されるだろうと思い、目を閉じたが……。
「拓海、お前が無事で良かった。お前の身に何かあったらと思ったら、気が気じゃなかった」
耳元で囁くようにベリルが呟いた。
温かい息が耳にかかり、俺はゾクゾクしていた。
「拓海、私のそばから離れるな」
ワイン色の美しく長い髪が俺の肌に触れたと思ったら、激痛と快感が同時に押し寄せてきた。
久々だった。
忘れかけていたこの快感……。
なんて気持ちがいいんだ……。
もうこのまま意識を閉ざそうかと思った瞬間、さらなる快楽の波が全身を巡った。
「ベリル様~」
スピネルの声が聞こえた。
そうだ、みんなが心配している。
みんなのところに行かないと。
「ベリル、みんな心配している。船も止まった。降りないと」
「いや、待たせておけばいい。拓海とのこの時間は誰にも邪魔させない」
ベリルはそう言ってから、フッと笑った。
「拓海は騎士の訓練を経て、精神力も鍛えられたようだ。私の魔力を2回も送り込んでいるのに、意識を現実に戻すとは」
……!
確かにそうだった。
2回目の吸血をされたばかりなのに、快感もよりも使命感で、俺は船を降りることをベリルに提案していた。
「つまらぬな。私は恍惚とした拓海の顔がみたいのに」
ベリルはそう言うと立て続けに吸血を3回行った。
俺の意識は再び快感の海に沈んだ。
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次回更新タイトルは『ロードクロサイト』他2話です。
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