プロ
「え……?」
「まさか、そんな」
ダンナの癌が発覚して一週間。ホームヘルパーさんとシッターさんにも、そのことを告げた。
「皆さんの様子が普通じゃないのは察していましたが、まさかそこまでのことだとは……」
「観音さん……」
二人は、あくまでホームヘルパーやシッターとして、一歩引いた接し方を心掛けてくれてた。変に馴れ馴れしくせず、出しゃばらず。本当に優秀な<プロ>だった。その二人でも、動揺が隠し切れなかった。
特にシッターさんは、観音のことをずっと見てきてくれたからね。距離感はわきまえながらも、気持ちの上では自分の娘みたいに感じてた部分もあったと思う。もしかしたらダンナのことが好きだったりしたら、彼女が再婚相手になってたりしたかも。
とは言え、シッターさんにももう家族がいるからね。上の子は高校生だって言ってたな。
その二人に対して、ダンナは、
「私も治すように頑張りますが、もしもの時には、契約を続けることは難しいかもしれません。そのことはあらかじめ承知しておいてください」
あくまで冷静にそう告げた。
「……分かりました……」
「病気が治るように、私もお祈りします」
ダンナが二人をちゃんと人として敬ってきたからこそ、二人も、誠実に役目をこなしてきてくれたんだろうな。もちろん、二人自身が誠実な人達だからっていうのもあるだろうけど、それでも、ダンナが、
『金を払ってやってるんだから、四の五の言わずにこっちの言うことに従え!』
的な態度を取るような人だったら、きっと、バカバカしくて真面目にやってられなかったと思う。
そういう意味では二人にとってもすごくいい職場だっただろうから、それが失われるのは本当に残念だろうな。
さすがにこの頃には私も少し落ち着いてきてて、冷静に対応できてた。
観音はこの日は、学校での<夏季勉強会>があって、そっちに行ってた。要するに『家じゃ宿題なんかできないでしょ?』ってことで、『学校で少しでも夏休みの宿題をやったらいいんじゃないかな』的に実施されてるものだった。観音も、宿題を持って行ってる。
それは余談だけど、こうして、ホームヘルパーさんとシッターさんにも事情を理解してもらって、みんなで乗り切ることになった。
この世には、本当に辛いこと苦しいこと悲しいことが転がってる。だったら、なにも人間同士でいざこざを起こして辛いこと苦しいこと悲しいことを増やす必要もないよね。
私達は、そうするだけなんだ。わざわざ足を引っ張り合って嫌な思いを増やす必要もないしさ。
だから私も、二人と同じように、保育園では<プロ>を貫かなくちゃいけないなと思わされたんだ。




